15兆円の巨額有利子負債も戦略か、 ソフトバンクに立ちはだかる3つの壁とは

ソフトバンクグループの孫正義社長

超積極路線に傾斜するソフトバンクグループの孫正義社長。その足元にはリスクは潜んでいないのか。

REUTERS/Toru Hanai

ソフトバンクはあらゆる面で好調だ。幾分新鮮味を欠くとはいえCMキャラクターの白戸家は健在だし、ソフトバンクホークスも日本一を決めた。11月3日にはiPhoneXの発売を開始、早朝から長蛇の列ができた。

決算も同様に好調に見える。持ち株会社ソフトバンクグループの2017年4~9月期(2018年3月期第2四半期)の連結決算によると、売上高4兆4111億円(前年同期比3.3%増)、サウジアラビア政府などと設立したソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下SVF)を除くベースでの営業利益は8748億円(同35.1%増)、親会社の所有者に帰属する純利益は、前年度上期の売却益やデリバティブ損失による損益を除く実質ベースで4491億円(同42.2%増)に達した。

しかし、一筋縄ではいかないのがソフトバンクでもある。幾つかの疑問も生じている。以下に3点指摘したい。

1. 米通信市場のテコ入れ不可欠

第一に、アメリカの通信市場の今後のテコ入れをどうするか、である。11月5日には、子会社のスプリントとTモバイルUSの合併に向けた協議打ち切りが発表されたばかり。それを受けてソフトバンクはスプリント株を追加取得すると発表したが、アメリカの通信市場で日本と同様にいかにキャッシュフローを創出するのか、まだ見えてこない。

2. SVFの透明性の確保

第二に、SVF投資の不透明性である。同ファンドの大口出資者であるサウジアラビア政府内に政情不安の空気が漂っていることにより、今後も継続した出資が期待できるのか注視すべきであろう。また、仮に出資はあったとしても、サウジ側からリターンへの要求が増える可能性も否定できない。

3. 巨額有利子負債の行方

第三に、巨額有利子負債の行方である。前述した親会社の所有者に帰属する純利益についても、非継続事業を含むベースで見ると1026億円(86.6%減)。ベースを変えただけでこれだけの差が出るのは、毎年のように繰り返されるM&Aや提携などによって、連結資産だけでなく売上高や収益も不連続になるためだ。M&Aを繰り返しながら成長してきたのがソフトバンクの歴史であるとはいえ、結果、ソフトバンクには巨額の有利子負債が残っている。

その額は2017年9月末現在で15.6兆円に上り、前年の同じ時期に比べ1.3兆円増、9.3%も増えた(ここでの有利子負債は流動負債と非流動負債の総和)。返済能力の指標として「現金および現金同等物を減じた純有利子負債/調整後EBITDA比率」を計算しても、ソフトバンクが4.37倍なのに対し、NTTドコモは0.6倍(有利子負債より現金および現金同等物の保有額が大きいため、有利子負債/調整後EBITDA)、KDDIは2.0倍とその差が際立つ。NTTドコモやKDDIは通信事業のみの業態であり、SVFを含めた比較では意味がないともいえるが、支払利息が増えている(図表1、直近では2017年3~9月期で2435億円〔監査前〕)ことを考えれば、有利子負債総額がそもそも巨額であることが問題であろう。現在のような低金利時代でもこれだけの金利支払いに上るのは、幾つか理由がある。

ソフトバンク有利子負債残高

パリバ証券資料を元に編集部で作成

まずは、後述するがソフトバンクの格付けが低いことだ。そのため、低金利を生かそうと超長期債を積極的に発行、劣後債(注:普通の社債よりは金利などが高いが、破綻時などに返済順位が低いため発行会社にとっては株式に近い性格を持つ社債)も出すなど、資金調達の多様化に務めてきた。

しかし、それによって債務が膨らみ、結果的に支払利息が増えてしまった可能性も否定できない。今後、米欧が先導するかたちで金融政策が変更され、緩やかながらも金利上昇局面に入ることを踏まえると、有利子負債総額を減らす必要性が高まっていくことは言うまでもない。

債務超過でも高格付けの米企業

それにしても、有名な大企業であるにもかかわらず、ソフトバンクの格付けが低いことに改めて驚くであろう。現行は米系の格付け会社ムーディーズがBa1、スタンダード・アンド・プアーズがBB+といわゆる投機的格付けとなっている(図表2)。

一方、日系の日本格付研究所(JCR)はA-を付与しているものの、グローバルでの起債が多いソフトバンクは投資家が米系の格付けで見ていることが多い。

ソフトバンクの格付けの推移

パリバ証券資料を元に編集部で作成

では、なぜ米系の格付けは低いのか。

その理由は、格付けの基準の違いにあると見ている。アメリカにおいては、債務超過か否かにかかわらず、高格付けを付与されている企業が散見されている(図表3)。フィリップモリスなどがその典型例だが、これは、債務超過や過小資本であっても、キャッシュフローが潤沢で、かつ、社債市場へのアクセスが常に可能であるため高格付けを付与されていると考えられる。

アメリカ企業の財務状況と格付けの一覧

パリバ証券資料を元に編集部で作成

翻って、ソフトバンクはどうか。2017年4~9月期の営業キャッシュフローが5523億円、手元流動性はコミットメントライン未使用枠を加えると3兆4143億円もある。さらに、投資した有価証券に相当の含み益があることも考慮していいだろう。実際、保有株式のうち時価のあるものだけで含み益は17兆超円(11月6日現在)にも上っている。これらをすべて合わせたら、ソフトバンクの返済能力は極めて高いといえる。

加えて、ソフトバンクは無担保社債以外にも、劣後特約付やハイブリッド債などを発行、機関投資家に限らず個人投資家も対象とし、円以外にもドル建て、ユーロ建てを発行するなど投資家の多様化を図りながら、社債市場に常にアクセスができていることも言うまでもない。よって高格付けの条件を満たしている以上、米系格付け会社の基準では格上げされなければならない、ということになる。

ところが残念なことに、日本の会社であるソフトバンクは格付けの基準も日本の定義でなされているため、上記のような点は考慮されず、有利子負債が巨額に上る現状では格上げはおぼつかない。

孫社長への依存リスク

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携帯キャリアから投資会社へと変貌を遂げる。

であればソフトバンクは、今のうちに格上げを目指す戦略を組み立てていく必要があるのではないか。

今は自在に資金調達ができているが、格上げされればそのコストを下げることができるうえに、今後、各国が金利上昇局面に入る可能性が高いことを考えれば、早めに手を打っておくべきだろう。今後もSVFでの投資も含め、多くのM&Aを実施していくと考えられるソフトバンクにとっては、収益の確保が最重要課題かもしれないが、同時に有利子負債の削減や財務内容の改善にも目を配る必要があることは言うまでもない。

ソフトバンクが魅力的な会社であることに異を唱える人は少ないだろう。何もせずに次の社長にバトンタッチすることを最善としているように見える多くの経営者に比べると、孫正義社長の飽くなきチャレンジ精神は際立っている。

社債市場にとっても、発行体としてのソフトバンクは流動性供給をしてくれるだけでなく、低格付けのおかげでスプレッドも相応に払ってくれる得難い存在でもある。

だからといって、社債市場がまったく懸念を抱いていないかというと話は別だ。現状は安定しているが、リスクオフが始まれば投機等級の資金調達コストは上昇してしまうこともわかっている。ひいては将来の投資の足かせにならないとも限らない。孫社長の頭の中にすべての未来予想図が収まっている現状では、孫社長への依存リスクもますます強まっているといえる。

魅力的な企業が300年先を見据えた会社経営につなげていけるかは現時点では未知数だ。時価総額世界一もいいが、社債市場からの目線も意識しながら、バランス良い経営がなされることを強く期待したい。


中空麻奈(なかぞら・まな):BNPパリバ証券投資調査本部長、チーフクレジットアナリスト。1991年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村総合研究所入社。野村アセットマネジメントに転籍後、クレジットアナリストとして金融セクター、ソブリンを担当。モルガン・スタンレー、JPモルガンを経て、2008年BNPパリバ証券、年より現職。著書に『早わかりサブプライム不況』など。

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