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- エアバスA380は世界最大の旅客機。
- 運行開始から10年を迎えた。
- エアバスは317機を受注したが、その後、新規受注の獲得に苦戦している。
- A380は多くの航空会社にとって、大き過ぎ、高価で、非効率。
- A380の先行きは暗い。
2007年、エアバスA380は華々しく運航を開始した。「スーパージャンボ」と呼ばれるこの超大型旅客機は、ボーイング747が作り出した栄光をすべて奪い、現代エンジニアリングの限界を極めた。
だが10年後、状況は大きく変わった。業界の全てを変える“ゲームチェンジャー”になると期待されたA380は、今、生き残りをかけて戦っている。
4億3600万ドル(約490億円)のA380は、これまでで最も高価かつ豪華な旅客機。最大約800人も搭乗可能な総2階建ての巨大な機体が到着するたびに、空港は大騒ぎになる。
だがコスト重視の市場と燃料価格の変動のなか、A380を際立たせた素晴らしい特長は、不運な方向にも働いてしまったようだ。登場が20年遅かったという人がいる。また、過密化する空港事情において先に行き過ぎたという人もいる。
とは言うものの、A380の素晴らしいエンジニアリングは誰も否定できない。エアバスA380の混迷した歩みを見ていこう。
2005年4月27日午前10時30分(現地時間)、A380の1機目のプロトタイプの巨大なターボファンエンジン4基がフルスロットルに。
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フランスのトゥールーズにあるエアバスの施設から、世界最大の旅客機は実際に飛び立った。
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A380の歴史はその数十年前から始まる。
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1970年代、エアバスA300Bがデビュー。
Airbus
ボーイング747「ジャンボジェット」が独占する市場を打破すべく戦った。
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747のサイズや性能、燃費効率は航空会社の運航コストを下げ、マスマーケットに安価な空の旅を提供した。
AP
1990年代前半まで、エアバスはボーイングとは異なる戦略を取ってきた。A320は旅客機として初めてフライ・バイ・ワイヤを導入し、史上2番目に売れた旅客機となった。
AP
同じ頃、エアバスは新型のA330を発表。さらに、
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ワイドボディのA340も。そして、エアバスはより大きなターゲットに狙いを定めた……
AP
ボーイング747-400だ。エアバスはジャンボジェットよりも大きく、運航コストが低い旅客機を作ろうとした。
United Airlines
それが、総2階建ての「A3XX」。
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A3XXは最終的に、A380スーパージャンボとなった。
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A380はトゥールーズにあるエアバス本社の、160万平方フィート(約15万平方メートル)の組み立て工場で製造される。
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全長約73メートル、全高約24メートル、翼幅約80メートル、大きい!
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エアバスによれば、一般的な4クラスのシート設定なら乗客は544人、航続距離は約1万5000キロ以上。
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4基のエンジンはロールスロイス製、またはエンジン・アライアンス製。
Hollis Johnson
操縦席はグラスコクピット。最新のエアバス機と同様に、サイドスティック、フライ・バイ・ワイヤで操縦する。
Hollis Johnson
初飛行の後、数々の飛行テストを行い、2007年に就航。
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旅客機としても、A380は前例のないスケールでラグジュアリーさと快適性を提供した。
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豪華装備としては、バーラウンジや、
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プライベートラウンジ、
Hollis Johnson
バスルームにはシャワーも。ライバルにはない装備だ。
Emirates
ファーストクラスの座席。
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エティハド航空のファーストクラス「ザ・レジデンス」。
Etihad
まさに、約12平方メートルの空飛ぶ家。
Hollis Johnson
2007年10月15日、シンガポール航空は最初の機体を受け取った。
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すぐに他の航空会社にも。例えば、大韓航空や、
AP/Airbus, C. Brinkmann
ルフトハンザ、
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カンタス、
REUTERS/Daniel Munoz
ブリティッシュ・エアウェイズ、
Flickr/airwolfhound
マレーシア航空、
Flickr/Aero Icarus
タイ航空、
Airbus
エールフランス、
Flickr/Maarten Visser
カタール航空、
REUTERS/Pascal Rossignol
アシアナ航空、
Airbus
中国南方航空、
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そして、エティハド航空。
Etihad
特にエミレーツ航空は最も重要な顧客。左はエミレーツ航空CEOシェイク・アハメッド・ビン・サイード・アル・マクトゥーム(Shiekh Ahmed bin Saeed Al Maktoum)氏。
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317機の受注のうち、142機がエミレーツ航空によるもの。
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最近、エミレーツ航空は100機目のA380を受け取った。他社は最高でも19機しか所有していない。
Emirates
なぜエミレーツ航空はこれほどにA380を愛し、他社は一歩引いているのだろう?
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エミレーツ航空は長距離路線に特化している。路線は全て、アラブ首長国連邦の豪華なハブ空港、ドバイ国際空港から発着する。
REUTERS/Jumana El Heloueh
だからエミレーツ航空は多くの人を乗せ、長距離を飛べる旅客機が必要。A380が最適だ。
REUTERS/Tobias Schwarz
だが、エミレーツと同じ戦略を採る航空会社はほぼない。近年は、より小さく、長距離飛行ができる旅客機で直行便を運行するのが業界のトレンド。
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航空会社は、ハブ・アンド・スポーク方式からポイント・トゥ・ポイント方式へと移行した。これにより、より小さく燃料効率に優れた双発のボーイング777や、
AP
エアバスA330が長距離路線で活躍することになった。
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ボーイング787ドリームライナーのような複合素材を採用した、より小型の次世代ワイドボディ機により、航空会社はより柔軟で低リスクな運航が可能になる。カンタス航空のCEOアラン・ジョイス(Alan Joyce)氏によると、A380を1機飛ばすよりもドリームライナーを2機飛ばす方が低コストになる。
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結果的に、A380はボーイング747のようには活躍できなかった。代わりに、過密な空港を利用するルートなど、ニッチで効率的な運航にのみ使用されている。
Qantas
それゆえ、新規受注は難しくなっている。また初期に製造されたA380が間もなくリースアップを迎える。つまり同社は中古のA380と競合することになる。
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ボーイング747も生き残りに苦戦している。旅客モデルの受注は途絶えた。貨物モデルのみ、2カ月に1機というペースで製造が続いている。
Boeing
エミレーツ航空の社長ティム・クラーク卿(Sir Tim Clark)は、エアバスに対して、エアロダイナミクスを改良し、燃料効率に優れたエンジンを搭載した、よりコスト効率の良いモデル、いわゆるA380neoを製造するよう、ここ数年訴えてきた。
AP
エアバスは新モデル開発への投資には消極的だった。だが今年初め、座席数を80席増やし、新型ウィングレットで燃料効率を高めた改良モデル、A380 Plusの計画を発表した。現時点で、まだ受注はない。
Airbus
A380の先行きは暗い。今後10年、エアバスがA380に注力する意向があるかどうか分からない。
Airbus
ボーイング747とは異なり、A380の貨物モデルの計画は実現しなかった。それゆえ、貨物モデルを販売しながら、旅客モデルの需要が戻るのを待つという選択肢は選べなかった。
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エミレーツ航空からの追加発注がなければ、A380の先行きはますます暗いものになる。
Airbus
(翻訳:塚本直樹/編集:増田隆幸)