慶應生は本当に「安定」を求めて銀行に就職するのか。
11月5日、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣氏が自身のブログで「慶應生の人気就職先ランキング1位が『銀行』って正気?」と題した記事を投稿し、ネット上で物議を醸した。ブログ記事によると、「彼らは『安定』を求めて銀行に就職するんです」と言われ、驚いたという。
毎年多くの学生が金融機関に就職する慶應義塾大学
Toru Hanai/Reuters
実際、慶應義塾大学の2016年度上位就職先企業をみると、1位はみずほフィナンシャルグループ(146人)、2位東京海上日動火災保険(97人)、3位に三菱東京UFJ銀行(91人)、4位に三井住友銀行(63人)、4位慶應義塾大学病院(63人)とトップ5内にメガバンクが3行とも入っている。
この傾向はここ数年変わらない。
毎年就職先上位にはメガバンクが並ぶ。※2014年度はデータが公開されていないため2013年度を使用。
出典:慶應義塾大学 就職・進路データ
Business Insider Japanでは実際に銀行に内定、もしくは就職3年以内の慶應生(卒業生含む)11人に聞いた。
銀行に決めた最大の理由は「安定」
慶應生はなぜ銀行に就職するのか。最も多い回答だったのは「安定しているから」だった。次に「給料がいいから」「会社の雰囲気が自分に合っていると思ったから」が続く。
就職を決めた理由で最も多い回答だったのは「安定しているから」であった。
その他の理由としては、こんな回答もあった。
「大小さまざまな業界・企業の方々と出会えるので、自分のやりたいと思うことに出合えるのではないかと感じたから。やりたい事が見つかったら動く。それまでに銀行で身に付けられるものを身に付けて出ていければ良いと考えた」(メガバンク入社1年目)
「自分がやりたいと思ったことを1番実現できそうな業界だったから」(メガバンク内定者)
キングコングの西野氏は最初に慶應生の就職先1位が「銀行」と聞いて、「なるほど。銀行で身に付けたスキルを他で使う……つまり、銀行を辞めることを前提に、専門学校的に銀行に2~3年だけ就職するんだな」と思ったというが、転職願望も決して高くはない。
「転職は考えていますか?」という問いには、11人中6人が「考えていない」と答え、「転職したい」と答えた人も就職後数年以内での転職は考えていないようだ。
第一志望は他業界
一方、「就職先は第一志望でしたか?」という問いには、11人中9人が「いいえ」と答え、7人は「他業界を志望していた」と回答している。
その志望先は不動産、総合商社、石油、トヨタ自動車、電通、野村総合研究所とさまざまだ。
銀行は何番目の志望群だったかという問いには、第二、第三志望と答えた人が拮抗していた。
慶應生が銀行に大量に就職する背景として、そもそも銀行が新卒を大量に採用するという採用方針が挙げられる。『就職四季報2017年版』によると、3メガバンクは「新卒採用数が多い企業ランキング」で上位3位を独占しており、3社合計でおよそ5000人を新卒で採用している。
3メガバンクがデジタル技術による効率化などにより、大規模な人員計画の見直しを進めている。
Toru Hanai/Reuters
だが、ここにきてメガバンク各社が人員削減を発表している。三菱UFJフィナンシャル・グループは2023年度までに従業員の3割にあたる9500人分の業務を削減する方向で検討し、みずほフィナンシャルグループも今後10年で従業員の3割にあたる1万9000人分の業務削減を検討、三井住友フィナンシャルグループも3年で4000人の業務削減を検討している。こうした中、実際銀行で働き始めた(またはこれから働く)慶應生の中には11人中7人が「(将来への)懸念はある」と答えている。
心配している内容として、「AIの台頭による人員削減」「銀行業務の中で利益を稼ぐ手段が限られてきた」「融資だけでは行き詰まるときが来る」などを理由に挙げている。
「多くのことがAIに置き換わると言われ、個人的には仮想通貨の登場でお金自体の考え方、扱われ方が変わると考えている。その中で、仮想通貨を持たない銀行は、管理も融資もできなくなる。要するに銀行業務の大部分が苦しくなるのでは」(メガバンク1年目)
こうした結果を見ると、必ずしも慶應生が銀行業界を強く志望したわけではなく、「そもそも銀行が多くの新卒学生を採用」しており、「他の志望先に就職できなかったから」というのが実態と言えそうだ。
(文・室橋祐貴、編集協力・河越拳太)