日本もこうなる? Amazon Echo先進国の「ボイスショッピング」最前線

Google Home 対 Amazon Echo

2017年11月、いよいよ日本でも展開が始まったアマゾンのスマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズ。対するGoogleアシスタント陣営は12月9日にソニーが対応機種を発売するなど、日本では、アマゾン vs. Googleアシスタントの両陣営の激戦ムードが高まっている。

スマートスピーカーのサービス展開がひと足早く進むアメリカでは、先行していたアマゾンに対抗する形で、ウォルマートをはじめとして小売り各社が参入。「ネット」と「リアル」の主要プレーヤーがボイスショッピングの場でも激突している。ここで起こっていることは日本の未来の姿だ。

対アマゾンでウォルマート、ターゲットも追撃

世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートが、グーグルとの提携を発表したのは2017年8月。これによりGoogleアシスタントと即日配達サービス「Google Express」経由で、ウォルマートの商品をオンライン注文できるようになった。つまり消費者は、Google Homeを通じ、声でウォルマートの商品を購入できるようになった。これまでにアマゾンがEchoシリーズを通じて行ってきたモデルを追随した格好だ 。

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ウォルマート店内の様子。

実はGoogle Expressを通じた他の大手小売業者との連携は以前から始まっており、ウォルマートはどちらかというと後発と言える。しかし、ウォルマートは数百万点の商品数を取り扱えるようにするほか、「イージー・リオーダー(Easy Reorder)」と呼ばれるサービスを持っているため、ボイスショッピングでも存在感を発揮する可能性がある。

イージー・リオーダーはオンラインでも店頭でも、購入したブランドやサイズ、直近の購入日や購入頻度などを記録するサービスで、履歴データから各ユーザーの好みを把握する。そのためユーザーは、Google Homeを通じて商品を注文するときは、あらかじめウォルマートのアカウントとひも付けておき、「ウォルマートで◯◯を買って」「ウォルマートでもう一度◯◯を購入」などと話しかけるだけで、簡単に目当ての商品を買い物できる。


Amazon Echo Show

筆者の自宅には、Amazon Echoのほか、モニター付きスマートスピーカー「Echo Show」(日本未発売)と、Google Home Miniがある。

例えば筆者の経験として、「ピーナッツバターを注文」とAmazon Echoに語りかけたとき、「◯◯は△△円です。買いますか?」「□□は▲▲円です。買いますか?」と、買うと返答するまで次々と違うブランド名が挙げられたことがあり、これには困ってしまった。

過去に購入した実績があればそれが優先されるが、新規の場合はこうしたブランド名やサイズ、量などに関する質問がひたすら繰り返される。モニター付きの「Amazon Echo Show」の場合は、画面にいくつかの選択肢が表示される仕組みになっている。


Echo Showの画面

Echo Showでは複数の選択肢が表示される。

ウォルマートのイージー・リオーダーを連携させれば、過去の購入経験に基づき提案されるので、ピンポイントに目当ての商品にたどり着くことができ、私が以前経験した煩わしさは解消されることだろう。さらに2018年からは、生鮮食品の音声注文も受け付ける予定で、購入商品を店頭で受け取れるオプションを提供する店舗もあるという。

また以前からグーグルと提携してきたアメリカの大手量販「ターゲット(Target)」も10月、ボイスショッピングでの連携を強化すると発表した。イージー・リオーダーのように再注文をしやすくしたり、Google Express経由で購入した商品でもターゲットの店舗で受け取れたり、メンバーズカード「Target REDcard」を使い割引特典を受けられるようにしたりする。

大手小売りがボイスショッピングに本腰なのは理由がある

なぜここにきてリアル店舗を抱える小売り各社がボイスショッピングに力を入れるのか。日米の小売業を25年間見てきた日本オラクル株式会社のリテールインダストリー・イノベーションアドバイザーの大島誠氏は、「先行するアマゾンのデータ活用戦略に対抗する必要があったからだ」と分析する。

大島誠氏

日本オラクル株式会社のリテールインダストリー・イノベーションアドバイザーの大島誠氏。

近年、2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代やデジタル・ネイティブ世代の出現によって、客層は大きく変わりつつある。客層が変われば、当然売り方も変えなければ勝ち残れない。客を知るために不可欠なのが、「生活者データの収集」だ。

アマゾンは、ネットのデータを元に分析基盤を確立しており、その上でEchoによる生活のデータを着々と取り込んでいる。ウォルマートについていえば、大島氏の見立てでは、店舗とネットの融合を進めたことで、生活者の「生活・行動データ」の分析基盤を既に確立。そこにGoogle Homeを連携させることで、ユーザーがスマートスピーカーを通じて何を注文したか、探したかなどの生活データを取り込めるとみている。それがより良いサービスに結びつくことで客の囲い込みを図るのが狙いだ。

両社の方向性は同じだが「アマゾンが生活データを収集し、その人に適した情報を得られたからと露骨にオファーなどで知らせることが得意なのに対して、ウォルマートは生活者の立場で考えて生活者が何を欲しているかに基づくのが上手い」と大島氏は分析する。

さらに「ウォルマートのポイントは、『さりげなく』『やさしく』『寄り添い』『見守る』こと。それは目的買いのネット(アマゾン)と、生活買い回り品の店舗(ウォルマート)の差ではないか」とみる。

もともとウォルマートは、直接客と接してきたことで客が店で何を探し、どこへ行き、どういう買い方をし、何を店員に訴えたか、また、シーズンごとに店頭に何を置けば効果的だったか、といったネットでは得られない情報を蓄積している。大島氏はこれから小売業が考えなければならないのは、いかにユーザーの生活データを集め分析し、その結果に基づき、「客を見守り、寄り添えるか」だと言う。大島氏はそれを新しいKPIとして「かまわれ度」と表現、リアルで客と接してきたウォルマートだからこその強みであり、それを生かした「かまわれ度」を分析に取り入れるのは、ウォルマートの得意とするところであるとみている。

つまり、客側が欲している情報にどこまで気付くことができ、それを踏まえて最適な提案ができるか。客からすると、どこまで自分を理解してもらい、構われているかということになる。こうした観点から「これからの小売業のトレンドは、“パーソナライズド”を超えて“カスタマイズ”に進むだろう」とも大島氏は指摘する。

全米約5000店舗の資産を音声データでどう生かすか?

筆者は米国に暮らし、2年半近くAmazon Echoを使っている。活用方法はショッピングに限らず、電気やエアコンのオンオフ、天気予報やニュースの確認、音楽の再生と多岐に渡る。

しかし現時点で私がアマゾンに「提供」しているこれらの音声情報によって、アマゾンでの購入体験に大きな変化が現れているかといえば、実のところそこまでの恩恵は感じていない。しかし膨大なデータを収集・分析し、それを「レコメンド」という形で発展させてきたアマゾンがユーザーの音声データを分析し、それを何らかの形でショッピングに生かしていくことは明らかだろう。

それはもちろんウォルマート、グーグル連合にも言えることだ。ただウォルマートの場合、グーグルという外部企業のアシスタントを活用しているため、収集できるデータに限界があるのは事実だ。そこで、自前で開発してきたアマゾンとは大きく差が開く可能性はある。

一方で、ウォルマートには全米に5000近くある実店舗という資産がある。仕事からクルマで帰る道中、赤ちゃんの面倒を見ながら、食器洗いをしながら、「◯◯を買って」と音声で手軽に買い物をし、空いた時間や出先での用事の合間に店頭に受け取りに行けるのは、これまでになかった需要を広げる可能性がある。

来店してもらえば、その場で別の買い物が発生することだってある。アマゾンがホールフーズマーケット(Whole Foods Market)を買収したり、Amazon Booksという物理的な店舗を構えたりといった理由も、店舗ならではの優位性を感じているからと考えても間違いではないだろう。

各社がスマートスピーカーを通じて描こうとしている未来は、果たして小売の世界をどう変えていくのだろうか。私たちの生活に「寄り添い」「見守ってもらう」ことで、より便利になった買い物体験を早くしてみたいものだ。


公文紫都(くもん・しづ):フリーライター。青山学院大学文学部卒業後、IT関連企業、新聞社勤務を経て、2012年6月に独立。以来、国内外の IT、EC業界を中心に、取材・執筆を行う。2014年5月から夫の海外転勤に伴い、ニューヨークへ。体重570gで誕生した超低出生体重児の女の子の母。個人のブログ「Purple and the City」で育児記録を綴っている。 著書に『20代からの独立論(前編)』『20代からの独立論(後編)』。

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