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行動経済学で30万世帯の省エネ促進する「ナッジ実証」の背後にオラクルがいる理由

そらたん

オリジナルの省エネキャラクターもつくるが、後ろ側ではキャラクターの冷静な効果検証もする。日本版「ナッジ」とはどんな取り組みなのか?

撮影:伊藤有

11月半ば、日本の省エネを行動経済学で推進するための大規模な実証事業が発表された。環境省が主導し、大手電力会社5社の参画で開始する国内最大規模の実証事業「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」(以下、大規模ナッジ実証事業)だ。

従来型の「国民に省エネを呼びかける」といった手法とは異なり、「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の手法を使い、またその効果を統計的に検証・分析するという先進的な試みだ。しかも、実証を支援するノウハウを提供する委託企業として、クラウド企業日本オラクル(以下オラクル)の姿もある。電力会社×クラウド企業の体制で挑むプロジェクトは、一体どんな取り組みなのか?

行動経済学の手法で省エネを促進する

ナッジ実証事業に参画する代表者たち

ナッジ実証事業に参画する代表者たち。中央が環境省の水谷好洋氏。中央左が日本オラクルのフランク・オーバーマイヤー氏。中央右は住環境計画所会長の中上英俊氏。参画する大手電力5社からも代表者が登壇した。

大規模ナッジ実証事業は、延べ30万世帯を対象とする世界でも例を見ない大規模なプロジェクトになる。環境省から事業を委託されるのは、オラクルおよびエネルギー関連調査を行う住環境計画研究所。参画するエネルギー事業者は北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力の5社。対象となる30万世帯はいずれも5社の管内だ。

実証事業のキーワードとして掲げられる「ナッジ」(nudge)とは、「そっと後押しする」を意味する英語の動詞だ。行動経済学分野において、個人の行動変容を促すアプローチを意味する。今年度ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授は、実はこのナッジの公共政策への活用を進めた第一人者でもある。

ナッジでは、どのように人の省エネ意識を変えていくのか? これはアメリカでの実例がわかりやすい。米国では、2000年にカリフォルニア州で発生した大規模な停電を受け、エネルギー事業が逼迫した際に、省エネを促す社会実験が行われた。

ここで得られた知見が興味深いのだ。

「節約しましょうーエアコンを消し扇風機を」

「環境に優しくーエアコンを消し扇風機をー」

「より良い未来のためーエアコンを消し扇風機をー」

などというメッセージをドアノブにかけて呼びかけたが、この3つの効果はほぼゼロだったという。一方で、一方で、目に見える効果をあげたのは以下のメッセージだ。

「ご存知ですか? ご近所さんはすでにエアコンから扇風機に変えています」

このメッセージ手法は、コミュニティへの所属意識に訴求する考え方に基づくもので、エネルギー業界におけるナッジの初期の事例として知られる。

このナッジを利用して、個人が省エネ・省CO2排出に向けて自然に行動変容してもらうというのが今回のプロジェクトだ。

エネルギー事業におけるナッジの説明図

カリフォルニアで実施した先行事例では、民家のドアノブにメッセージをつける方法がとられた。メッセージの呼びかけ方によって行動に与える影響が大きく異なることが知られている。

撮影:伊藤有

そもそも、なぜ省エネプロジェクトにオラクルが参画するのか。これには、オラクルの米国本社が2016年に買収したOpower(オーパワー)社が関連している。買収によって得た「Opower Energy Efficiency Cloud Service」の行動経済学を活用したレポート技術によって、実はオラクルはすでに10カ国100以上のエネルギー事業者にナッジのノウハウを提供している。具体的には、利用者一人一人に「パーソナライズされたレポート」を送るビッグデータ解析のクラウド技術と、人の行動に訴えかけるメッセージングのノウハウが中核となっている。

オラクルによると、同社が提供するナッジを用いたホームエネルギーレポート分野ではスタンダードとなっており、平均2%のCO2削減成果を出しているという。

どうやって日本の省エネの「気持ち」を高めていくか

今回のプロジェクトでは、上記の社会規範、損失回避(“ポイントを贈呈する”というより、“10ポイントをこの期間に使わないとなくなる”とする方が行動促進効果が高い)など4種の行動経済学の知見を取り入れたエネルギーレポートを対象世帯に提供する。

ただし、オラクルによると、レポートは海外で使われている内容を日本向けにローカライズし、日本市場の特性を取り入れたものにしていく。日本市場の特性とは主に3つの要素で「強いキャラクター文化」「高いモバイル利用率」「地域密着型のエネルギー事業者の事業モデル」を挙げる。

空気の精をイメージした水色のキャラクター「そらたん」は、日本のキャラクター文化を取り入れたものだ。

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フランク・オーバーマイヤー氏

ナッジ実証のためにつくったキャラクター「そらたん」を説明する日本オラクル取締役執行役最高経営責任者のフランク・オーバーマイヤー氏。

省エネ成果が良い月はそらたんが笑う、などの形でナッジメッセージを伝える。

一方で、そらたんの効果は統計的に効果検証もされる。30万世帯のうち半分は「そらたん入り」のレポートを、残る半分は「そらたんナシ」のレポートを配布して、Web業界でよく使われるいわゆるABテストを行っていく。

今後はキャラクターのほか、スマートフォンなどモバイル端末の活用、自治体や地元企業など地域との連携も進めていく。これら日本独自の取り組みを加えることで、Opowerの世界平均である2%を上回る省CO2効果を狙う。

日本オラクル取締役執行役最高経営責任者のフランク・オーバーマイヤー氏は、「世界各国で培った知識と技術を日本に持ち込み、日本政府の目標達成(環境省の2030年度に2013年度比26%のCO2排出削減目標)を支援したい」と述べた。

日本オラクルでユーティリティーズ・グローバルビジネスユニットのセールスディレクターを務める村井建介氏は、「最終的には、生活者、事業者、地域社会の“三方よし”となるモデルを作りたい。経済性を追求すれば、自ずとCO2が削減されるような持続可能なモデルを日本版ナッジの姿として描いている」と抱負を語った。

■日本オラクル Oracle Utilities Cloud公式サイト

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日本オラクル 村井氏のプレゼンテーション資料より。海外で実績のあるモデルをベースに、日本独自の持続性あるナッジモデルの構築を目指す。

「わずか2%と侮れない、光熱費換算では数千億円規模」

環境省のCO2削減目標を考えると、Opowerの省CO2効果の平均値である2%は一見少ないように感じる。しかし、住環境計画所会長の中上英俊氏は「30%、40%など一気に稼ぐことができる省エネ手法はない。1%、2%と小さな数字を積み重ね(、大きくす)ることが大切」と説明する。

住環境計画所会長の中上英俊氏

住環境計画所会長の中上英俊氏。

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中上氏のプレゼンテーション資料より。日本は欧米諸国に比べて決してエネルギー消費が高い国ではないが、省エネの取り組みは各国が一丸となって行う必要がある。

オラクルの村井氏も、2007年から10年間2%の削減は「(電力にして)17テラワットアワー、CO2換算では1200万トン、光熱費換算では2300億円」とし、「2%であっても、長く続けば大きなインパクトを与えることができる」と述べた。

参加するエネルギー事業者5社にとっては、ナッジを利用したレポートは、電力自由化で競争が激しくなる中での顧客サービスとしての期待も見え隠れする。

例えば関西電力の常務執行役員 お客様本部長代理の彌園豊一氏は、「いかにしてアクセスしてもらうかが課題」と述べる。「今回のレポートで顧客満足度を高め、エネルギー事業者として我々を選んでいただくことにつながれば」と期待を語った。なお、オラクルの村井氏によると、デジタル、Webなどと比べると紙を利用したレポートの効果は「2007年以降も開封率は70〜80%」であるなど、抜群の接触率があるという。

2016年11月のパリ協定発効を受け、「温暖化対策は待ったなしの状況」という環境省 地球環境局 の水谷好洋氏(地球温暖化対策事業室長)は、「地球温暖化対策技術の開発と使用も大切だが、社会のシステムや一人一人のライフスタイルを変えるというところでイノベーションが必要」と述べ、ナッジを利用した実証事業に期待を寄せた。

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ナッジ実証事業の背景を説明する環境省 地球環境局 地球温暖化対策事業室長の水谷好洋氏。

ナッジ実証事業の対象エリア

ナッジ実証事業の対象エリア。5つの電力事業者が参画する。

オラクルと電力会社5社は初年度として2017年12月から3月まで毎月(計4回)、管内からランダムに選定された30万世帯にOpowerを使ったエネルギーレポートを送付する。2年目以降は地域の自治体や地元企業との連携などの形で拡大させていく。

大規模ナッジ実証事業の取り組みが自発的な省エネ・省CO2の行動を促進していけるのか、期待が集まる。

■日本オラクル Oracle Utilities Cloud公式サイト

■環境省 ナッジ事業公式サイト

(文・末岡洋子、撮影・岡田清孝)

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