FCC委員長のアジット・パイ
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FCC(米連邦通信委員会)委員長アジット・パイ(Ajit Pai)は、ISP(インターネット接続事業者)がブラウジング履歴などの個人データを広告主に渡す際に、ユーザーからの明示的合意を義務化する、オバマ政権時に制定されたプライバシー規則の一部を阻止しようとしている。
この規則はトランプ政権への移行で交代したトム・ウィーラー(Tom Wheeler)前FCC委員長によって昨年10月に認可されたものだ。ウィーラーの退任により、現在3名の委員のうち、バイとマイケル・オライリー(Michael O’Rielly)の2名が共和党が任命した人物になった。
規則の中でもっとも重要なものは、ISPがWebブラウジングおよびアプリ利用の履歴データ、位置データ、金銭データ、その他の機密情報をマーケティング利用目的で第三者に渡す際に、ユーザーのオプトイン(明示的な合意)を今年後半には義務化するというものだ。その際、どのようなデータが収集され、どのように使われるかを示す「明瞭で目立つ、永続的な」告知もあわせて義務化される。
昨年10月、バイとオライリーはこの規則に反対票を投じた。
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ウィーラーの過去の提案と同様、このプライバシー規則はISPと共和党関係者からの強い抵抗に直面した。ISPと広告主は、それがターゲティング広告の障壁となり、結果として無料コンテンツ提供の一部が困難になると主張した。
昨年10月、バイとオライリーは、この規則に反対票を投じていた。反対した理由はそれが二重基準だからというものだった。つまりGoogleのようなFTC(連邦取引委員会)監督下のインターネット企業がより緩やかなガイドラインのもとで自由に個人データの収益化を追求できる一方で、ISPにだけ厳しい規制を課すのは不公平だというのだ。
ISPにも同じガイドラインが適用されるべきだと2人は言う。しかし、FTCの規制を「コモンキャリア(公益通信事業者)」に適用することは禁じられている。最新のネット中立性規則は、インターネット接続を公共事業と再度位置づけた。ISPはすべてこれに該当する。
一方で、ウィーラーと消費者保護団体は、ISPにはインターネット上のユーザー行動すべてが常に見えていること、アプリやWebサイトと異なり、ISPの使い分けが困難であることから、その扱いがインターネット企業と異なるのは不公平ではないと主張した。
とはいえ、1月にこれらの規則は限定的にではあるが制定され、ISPに「妥当なデータ安全措置を講じる」ことを課した条項は3月2日から法的効力を持つ。
前委員長のウィーラー(左)とパイ(右)
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そこで今、パイはこの条項の効力化を阻止する提案について委員会投票を実施したがっている。このような投票は本来ならば次回のFCC月例会議で行われる。次の会議は3月後半だ。
パイの要請は、つい先月、電気通信事業者、ケーブルTV事業者、広告業界などが、幅広いプライバシー規則を止めるようFCCに請願した直後に出てきたものだ。この件について投票の予定はまだないが、パイとオライリーが権力を持っている今、これが制度の巻き戻しにつながるかもしれない。
いずれにしろ、プライバシー規則の少なくとも一部の危機が迫っているようだ。また連邦議会において共和党は、議会審査法(Congressional Review Act、90年代半ばに制定された法案。多数決でFCCのような政府機関が制定した規則を無効とできる)に基いて、この規制を完全に亡きものにしようとしている。
パイの狙いはプライバシー規則すべてを今すぐ破棄することではなく、また彼がプライバシー保護を完全に無視するというわけでもない(たとえば、彼は静的IPアドレスなど、ユーザーのオンライン上での行動を追跡できる情報について懸念を表明したことがある)。だが今の状況は、前任者が決めた規制を解体しようという彼の意欲と、今後、ISPにとっての勝利を示唆している。
(敬称略)
(翻訳:太田禎一)