ドラマでも描かれる鎮痛剤オピオイド中毒、米社会の経済損失55.4兆円で非常事態宣言

レディー・ガガが2017年9月、全身に痛みを感じる「繊維筋痛」を理由に欧州ツアーを延期した際、多くのファンが、彼女の健康を本気で心配した。治療に使われる可能性がある鎮痛剤を過剰に摂取して、マイケル・ジャクソンやプリンスなど「早逝したセレブ」に仲間入りしてしまうのではないか、と考えたからだ。

アメリカではそれほど鎮痛剤、特に中毒になりやすいモルヒネやヘロインなどオピオイド系鎮痛剤の蔓延が、深刻な社会問題だ。オピオイド中毒では、毎日140人が亡くなっているという。

公園に捨てられたオピオイドを打つ針

公園には、ヘロインなどのオピオイドを打つために使われた針が捨てられている。アメリカでは、オピオイドに限らず「薬物中毒」の蔓延が、一部の業界や市民の間では、日常的で当たり前と思われている。

REUTERS/Charles Mostoller

トランプ大統領は2017年10月、オピオイド乱用や中毒が公衆衛生の非常事態だとする異例の宣言を出した。トランプ氏は、

「1日でみると、薬物の過剰摂取で死ぬ人数の方が、銃による殺人と自動車事故の被害者の合計よりも多い」

と指摘。この宣言によって、州政府レベルの予算ではなく、国家予算が対策費に使われることを可能にしたが、予算不足も懸念されている。ただ、非常事態宣言を出したことで、オピオイド中毒対策に弾みがつくと評価されている。

15年間で死亡件数4倍に

ロイター通信が11月19日に報じた報告書によると、米経済諮問委員会(CEA)は2015 年に鎮痛剤オピオイドの乱用によって生じた経済コストが最大5040億ドル(約55兆4400億円)に上ったとした。同年の国内総生産(GDP)の2.8%に相当するという。

内訳はオピオイド中毒で死亡した人の経済損失が、2210億〜4310億ドル。治療している人の医療費や刑事司法関連の費用、中毒患者による経済生産低下、家族への負担などが、720億ドルと推計した。

対策として最も有効なのは、24時間監視体制がある施設で、中毒症状から抜け出す治療を受けることとされている。

米政府の薬物中毒・オピオイド危機対策委員会によると、オピオイド系鎮痛剤が関係する米国内の死亡件数は1999年以来、4倍に増加。2015年には3万3000人が死亡したという。

なぜ、アメリカでこれだけオピオイド中毒が広がってしまったのか。

アメリカでは、オピオイドに限らず「薬物中毒」の蔓延が日常的だと思われている。自分の親族や知り合いの中に誰か薬物中毒で死亡している人がいるという人は珍しくない。トランプ氏が大統領選で獲得した中西部などレッドステイト(共和党支持者が多い州)での失業者や、都市部のホームレスなど貧困層が、現金を手にした途端に違法麻薬を入手する傾向があることも、よく報道されている。

ハードワークをこなすために

薬物依存を隠している人物が登場する人気テレビドラマさえある。

米国版ブラックジャックとも言われる「ハウス」(FOX、8シーズン)は、最も人気がある医療ドラマの一つだが、主人公の医師グレゴリー・ハウスは不自由な片足の痛みを抑えるため、オピオイド系鎮痛剤に依存し、幻覚を見ることもある。同僚にも患者にも同情心のかけらもなく、友人もガールフレンドもいない。しかし、天才的な勘を生かした診断で、難病患者を救っていく。

N.R.出演者

人気ドラマ「E.R」でも、主演で若い医師カーター(右端)は麻酔薬と鎮痛剤の中毒に陥る役だった。

REUTERS

「ナース・ジャッキー」(ドラマ専門ケーブル局Showtime )は、緊急病棟で長時間勤務を強いられる看護士ジャッキーが、オピオイド系鎮痛剤や精神安定剤をくすねてゴクリと飲み込みながら、ハードワークをこなしていく医療コメディで、7シーズンも続いた。日本でも大人気だった「E.R.」の主演で若い医師カーターも、麻酔薬と鎮痛剤の中毒に陥る役だった。

また、最終シーズンにかけて、バーが空になるほどヒットした「ブレーキングバッド」(ドラマ専門ケーブル局AMC)は、鎮痛剤ではないが、覚せい剤のメタンフェタミンを違法に製造する高校の化学教師の「不条理もの」ドラマだった。肺がんを診断され、家族に生活費を残すために覚せい剤を製造し始めるが、徐々に犯罪の世界から抜けられなくなる。南西部の社会に違法薬物が根付いていることを強く印象付けた。

英BBCによると、米政府はオピオイド中毒対策として、以下の施策を計画している。

1、違法麻薬に手を出さないように、 患者が医師の直接診断を受けなくても処方箋を入手できる「テレ診療」の機会拡大

2、 薬物中毒で就労困難な患者に対する助成拡大

3、特に農村部の薬物中毒危機対策のスタッフを増員する

(文・津山恵子)

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