スイス・チューリッヒに本社を置く世界大手産業用ロボットメーカーのABB社は2017年11月27日、川崎重工業と人と協働するロボット事業において提携することで合意した。
スイス・チューリッヒに本社を置くABBは、年間売上3兆7000億円を稼ぐ多国籍企業。
ABB
ABBと川崎重工は、協働ロボット、特に双腕ロボット分野における知識を共有し、プログラミングや周辺機器とのインターフェース、通信といった産業共通の基本技術を確立していく。両社が同日、明らかにした。
協働型・双腕ロボットは2本の腕を持ち、人のように動きながらさまざまな作業をこなすことで、高齢化による労働者不足に直面している社会に貢献できる。両社は、独自に製品の製造やマーケティングを展開しながら、協働ロボットの技術や普及に向けて協力していくという。
世界の産業用ロボット市場は今後5年で、年間平均約10%のペースで拡大すると言われるなか、日本の安川電機やファナック、ドイツのクーカ(Kuka:2016年に中国・美的集団に買収された)を含む大手メーカーによるし烈な競争が続いている。日本では、少子高齢化で労働人口の減少が進む上で、産業用ロボットの国内需要のさらなる拡大に加えて、医療や介護などのサービス分野におけるロボットの導入は加速していくと言われる。
2015年に市場投入したABB社の協働ロボット「YuMi」。
ABB
13万6千人の社員を抱える電力・重工業・電機メーカーのABBは、1974年に世界初のマイクロプロセッサ制御の電動産業用ロボットを開発した。2015年には、ロボットで自動化できる生産プロセスのすそ野を拡大するため、人との協働を実現する双腕の産業用ロボット「YuMi」を市場に投入。ABBは年間330億ドル(約3兆円7千億円)の売上を計上する多国籍企業で、ロボティクス・モーション事業の売上は全体の約2割。工場のオートメーションなどの事業領域からは同じく2割を稼ぎ出している。
一方、オートバイや航空機、鉄道車両を製造する川崎重工も、産業用ロボットにおいて40年以上の実績を持ち、人共存型の双腕スカラロボットを開発・販売している。年間売上では、ABBの半分にあたる1兆5200億円を計上している。
発表によると、ABBは協働ロボットのYuMi、川崎重工は「デュアロ(duAro)」を製造しているが、今後はユーザーが共通の操作デバイスで利用することが可能になる。
労働者不足、熟練者のスキルの消滅
27日の記者発表会に出席した川崎重工・常務執行役員の橋本康彦氏と、ABBグループ・ロボティクス事業責任者のパーベガード・ニース氏。
Business Insider Japan
「産業ロボットは今や工場を越えて、オフィスや交通、あらゆる場所で導入されてきている。高齢化社会による労働者不足や熟練者のスキルの消滅の課題を補うために、協働ロボットを広げることが重要である」と、27日の記者発表会に出席した川崎重工・常務執行役員の橋本康彦氏は述べた。「ABBと川崎の協働ロボットのコンセプトは似ている。協働ロボットを広げたいことで一致した」と今回の提携の背景を説明した。
日本のロボット産業の市場規模は、2020年までに2.9兆円、2025年までに5.3兆円、そして2035年には9.7兆円にまで拡大すると、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は予測している。
NEDOが描く2035年のロボット産業の構造は、サービス分野が一番大きく4.9兆円、次いで製造分野の2.7兆円。ロボテク製品分野は1.5兆円で、農林水産分野が0.5兆円となっている。
ABBと川崎重工が27日に配布した資料によると、世界の協働ロボットの市場は2020年までに3倍以上拡大し、売上ベースで10億ドルを超えると予想されている。台数では、2017年の1万台弱から2020年には4万台を超えるという。
(文・佐藤茂)
(編集部より:この記事は提携の詳細、会見内容を加え更新しました)