#子育て政策おかしくないですか「無償化より待機児童解消を」自民党に3万人署名

安倍政権が先の衆院選で急遽「目玉政策」として掲げた「幼児教育の無償化」。一見、子育て世代に“優しい”政策のように見えるが、当事者の子育て世代は大反発。無償化より保育士不足解消や保育施設を増やすといった待機児童対策に優先的に財源を充てるよう方針転換を求める声が広がっている。

11月27日、「自民党人生100年時代戦略本部」宛てに、こうした意見に賛同する子育て層や保育関係者のコメントも多数寄せられた署名が片山さつき参議院議員に提出された。

子育て署名提出

安倍政権が打ち出した「幼児教育の無償化」。だが親たちは「待機児童対策を優先して」と署名を集め、片山さつき参院議員(右)に提出した。中央は天野妙さん。

2017年2月から待機児童解消を願い国に予算アップを要求するキャンペーンを行ってきた保護者らのグループ「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」が、11月8日からChange.orgにて署名を集め、27日12時時点で3万人を超える賛同者が集まっている。

幼児教育無償化の何が問題なのか?

自民党が衆院選で公約した年2兆円規模の政策パッケージが明らかになるにつれ、ツイッター上では「#子育て政策おかしくないですか」というハッシュタグがつけられたコメントがあふれ、反対の声が広がっている。

政府が考えている政策パッケージのどこが問題なのか。

今回キャンペーンを立ち上げた「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」の天野妙代表は「無償化で線引きをするくらいなら、待機児童対策を優先してほしい」と話す。

今明らかになっている政策パッケージでは、格差が拡大し、本当に困っている人を助けられないという。

政府が考えている方針では、3〜5歳児の認可保育園は全員無料とし、認可外は月約3.5万円を上限に助成。0〜2歳児の無償化は住民税の非課税世帯に限定し、保育士の処遇改善には数百億円の予算を充てる。

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認可外保育施設の平均利用料は3歳時で4万円近くかかる。

出典:厚労省

しかし、幼稚園や認可保育園の利用料は世帯収入によって異なり、現在は高所得世帯ほど高額の負担をしている。これが一律無償化されれば収入が高い世帯ほど無償化の恩恵を受けることになる。実際、東京都港区では、認可保育園の利用者の22.5%が年収1650万円以上で、この層が最も多いが、無償化が実現すればこの層の保育料も無料になる。

一方、認可外保育園は一律で料金が決まっており、認可保育園に比べると割高になっている。平成24年度の厚労省調査によると、1歳児の保育料は、事業所内保育所37%、ベビーーホテル94.3%、その他の認可外保育所の89.7%が3万円以上となっている。

認可保育園=保育される人数に対する保育士の数や施設の広さ、設備など国が定めた基準を満たし都道府県から認可を受けた保育園。

認可外保育園=基準が満たせず国から認可を受けていない保育園。しかし24時間保育など特徴的な保育園も多く、必ずしも質が低いことを意味するわけではない。

幼稚園=3〜5歳が対象。標準的な保育時間は9〜14時頃。

また、認可外保育の利用者の多くは、認可保育園に申し込んで入れなかった人で、その選定基準となるポイントも各自治体が決め、労働時間やきょうだいの数、祖父母の近居などさまざまな観点から決まるため、認可外保育園に預けている世帯が高所得というわけでもない。

結果的に、認可保育園に入れた人、不本意で入れなかった人の間で納得しがたい格差が生じることになる。

本当に必要な保育の必要量は88万人?

さらに、政府は保育の受け皿づくりに約3000億円の予算を充て、2020年度末までに32万人分を整備するとしているが、32万人分では足りないという。

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野村総合研究所の調べでは、2016年度に少なくとも31.3万人の児童の保護者が「自分の子どもはすぐにでも保育サービスを利用したいのに利用できていない」と不満に感じていたという。

出典:第253回 NRIメディアフォーラム

野村総合研究所が今年5月に発表したレポートによると、2020年までに新たに整備が必要な保育の受け皿は88.6万人分と推計されている。

同様に、保護者らからも「幼児教育無償化」よりも「待機児童解消」を望む声が挙がっている。

「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」が衆院選前にツイッター上で行ったアンケートでは、「『幼児教育無償化』と『待機児童解消』、財源に制限があって両立が難しい場合、どちらの政策を優先してほしいですか?」という質問に対し、6064回答のうち77%が「待機児童解消」と答えている

同様に、「#子育て政策おかしくないですか」というハッシュタグでも「待機児童解消」を強く求める声が目立つ。

待機児童を放置することは少子化政策をとっていることと変わらない」(天野さん)

政府は来年夏までに政策内容を正式決定するとしているが、現時点で子育て世代とのニーズが乖離しているのは明確だ。今必要なのは本当に「無償化」なのか。今回の署名を受けて再検討すべきだろう。

(文・室橋祐貴)

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