ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(2017年3月14日撮影)。
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サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、国内、そして国際社会で最も力を持つリーダーの1人として、注目を集めている。
弱冠32歳にして、すでにサウジアラビアの軍事、外交、経済、そして日々の信仰生活や文化に至るまで、その影響力は絶大だ。
サウジアラビアでは2017年、汚職容疑で王族の一部を含む国内エリート層の拘束が相次ぎ、それを主導したのもムハンマド皇太子だと言われている。皇太子は、ここ数十年のサウジアラビアでは見られなかった方法で、王位継承者としての権力基盤を固めつつある。
中東を作り変えるかもしれないムハンマド皇太子とは、どんな人物なのだろうか?
ムハンマド皇太子は、サルマン国王と第3夫人の間の長男として生まれた。幼い頃はしばしば、父親の後をついて回っていたとされる。だが、ムハンマド皇太子の子ども時代については、あまりよく知られていない。
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ニューヨーク・タイムズは2015年、ムハンマド皇太子の台頭がいかに予想外であったかを解説している。母親が異なる3人の兄たちが「おしなべて傑出した経歴の持ち主で、彼らがいずれ要職の座を奪い合うだろう」と見られていたのだ。
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ムハンマド皇太子は、サウジアラビアの首都リヤドにあるキング・サウード大学で法学を専攻、学位を取得した。父である国王のために、さまざまなアドバイザー役を務めた。
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ニューヨーク・タイムズによると、趣味は水上スキーといったウォータースポーツ。iPhoneやその他のアップル製品も好きだという。好きな国は日本で、新婚旅行でも訪れている。
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経歴不足を指摘する声もあるが、ムハンマド皇太子は以前から政権の座を狙っていたと報じられている。「彼が自分の将来に計画を持っているのは明らかだった。常に自分のイメージを非常に気にしていた」ある王族関係者は、ニューヨーク・タイムズに語った。たばこは吸わない、酒は飲まない、夜遊びもしないと言う。
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だが、慎重派というわけでもなさそうだ。南フランスでの休暇中に目にしたヨット「セレーン号(Serene)」を、約5億ユーロ(約670億円)で衝動買いしたこともある。オーナーであったロシアのウォッカ王、ユーリ・シェフラー(Yuri Shefler)氏は、その日のうちにヨットを明け渡すことになった。
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ムハンマド皇太子が初めて国際ニュースの見出しを飾ったのは、2015年1月のことだ。当時のアブドラ国王の逝去を受け、父サルマン国王が即位、それまで担っていた国防相の座を引き継いだ。29歳だった。
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32歳となった今も、世界で最も若い国防大臣だ。
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国防相としては、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」との戦いを先頭に立って指揮している。
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また、2017年の湾岸諸国によるカタールとの国交断絶も、ムハンマド皇太子が推し進めたと言われている。
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さらに、サウジアラビアとつながりのあるレバノンのサード・ハリリ首相が2017年11月、サウジアラビア滞在中に突如辞意を表明した件でも、ムハンマド皇太子が大きな役割を果たしたとの憶測が流れている。
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こうした動きはいずれも、対立するイランへの圧力強化の一環と見ることができる。
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国防相に加え、ムハンマド皇太子には国営石油会社「サウジアラムコ」を統括する要職も与えられた。
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2016年には、自国経済の石油依存からの脱却を目指す長期経済計画「ビジョン2030」を発表。
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2017年10月には「NEOM」と呼ばれる、消費電力の全てを再生可能エネルギーでまかなう5000億ドル規模の巨大都市計画を発表した。
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また、ムハンマド皇太子は「過激主義のイデオロギー」を倒して「より穏健なイスラム」に立ち返る方針を強調している。
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女性による車の運転を解禁する2017年9月の決定にも、ムハンマド皇太子が関与したとされる。
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自身の影響力が増すにつれ、ムハンマド皇太子は国内の一部有力者を徐々に排除し始めた。
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皇太子に昇格したのは、2017年6月のことだ。それまでは、内相を兼任していたムハンマド・ビン・ナエフ氏が皇太子を務めていた。
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その後の汚職の摘発では、多数の有力者が身柄を拘束された。その中には国家警備隊のトップ、ムタイブ・ビン・アブドラ王子も含まれていた。
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この2人がいなければ、サウジアラビアの治安組織の3本柱である国防省、内務省、国家警備隊は実質全て、ムハンマド皇太子が支配できる。かつてない権力の強化と言えよう。
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ムハンマド皇太子は、早い時期からアメリカとの関係も深めている。2015年にアメリカで開催された、湾岸協力会議(GCC)の6カ国とアメリカの首脳会議への出席をサルマン国王が見送った際には、代理の1人として派遣されている。
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ムハンマド皇太子は「極めて知識豊かで、非常に賢く、我々は感銘を受けた」アメリカのオバマ大統領(当時)は、サウジアラビア資本の衛星テレビ「アルアラビーヤ」に対し、語っている。「年齢からは想像できない」
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皇太子は、就任間もないトランプ大統領とも会見。アメリカの新政権とも強い関係を築いている。
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国防大臣として、マティス国防長官とも何度か会見を重ねている。
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トランプ大統領の娘婿、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問とも、同じミレニアル世代の実力者同士、親しくなったと報じられている。
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現国王が亡くなれば、ムハンマド皇太子は、長期政権が見込める若き国王になるだろう。サウジアラビアにとって初めてのことだ。
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(翻訳:Tomoko A./編集:山口佳美)