海面下でアメリカに対抗? ロシアの最新鋭潜水艦「ウラジーミル」が進水

ユーリー・ドルゴルーキー

ロシアの北方艦隊所属の原子力潜水艦「ユーリー・ドルゴルーキー(Yuri Dolgoruky)」(2015年10月15日撮影)。

Rubin Design Bureau

  • ロシアの最新SSBN(原子力弾道ミサイル潜水艦)「クニャージ・ウラジーミル(Knyaz Vladimir)が11月、進水式を行った。
  • 最新鋭の電子機器と騒音の低さが特徴で、実質的に同艦が検知されることはない。
  • ロシアは、同様のボレイ級原子力潜水艦をさらに4隻建造する計画。

ロシアの最新SSBN(原子力弾道ミサイル潜水艦)「クニャージ・ウラジーミル(ウラジーミル王子の意)」は11月17日(現地時間)、その進水式を行った

この潜水艦は、ボレイ級潜水艦(最初の潜水艦の名前を取って「ドルゴルーキー級」とも呼ばれる)の改良型の1番艦として建造されたもので、ボレイ2級と呼ばれるだろう。同艦は、ロシア北部のセベロドビンスクにある造船会社セブマシュ(Sevmash)で行われた進水式で披露された。

全長558フィート(約170メートル)、全幅44フィート(約13メートル)のクニャージ・ウラジーミルは、これまでに建造された3隻の同クラスの潜水艦とは異なる特徴を持つ。より進化した電子機器類が搭載され、最大潜航深度も400メートルまで向上した。乗組員の居住区も改善が図られた他、騒音レベルが下がり、同艦の検知はほぼ不可能になった。

ユーリー・ドルゴルーキー

ユーリー・ドルゴルーキーは、ボレイ級潜水艦の筆頭だ。

Rubin Design Bureau

クニャージ・ウラジーミルの最大の違いは、発射できる弾道ミサイル「RSM-56ブラバ」の数が4基増えたことだ。このミサイルは、1基に複数の核弾頭を搭載できる。

これは、アジア・太平洋のニュースに詳しい雑誌『The Diplomat』のフランツ=シュテファン・ガディ(Franz-Stefan Gady)氏指摘するように、クニャージ・ウラジーミルが「極超音速の、個別制御可能な核弾頭を96~200基発射する能力を持つ」ことを意味している。「1基あたり100~150キロトン」の核弾頭の爆発力は、広島に落とされた原爆の10倍に相当する。

これは、アメリカの東海岸全体を壊滅させるに余りある破壊力だ。しかもこれだけの核弾頭が、たった1隻の潜水艦から発射可能なのだ。

クニャージ・ウラジーミルがロシア海軍の一部として完全に就役するのは2018年と見られているが、ロシアは同艦に加え、さらにボレイ2級の潜水艦を4隻建造する計画だ。最後の1隻が完成するのは2025年の見込みで、全て完成すれば、ボレイ級、ボレイ2級を合わせた潜水艦の数は、8隻になる。

既に就役しているボレイ級潜水艦3隻のうち「アレクサンドル・ネフスキー(Alexander Nevsky)」と「ウラジーミル・モノマフ(Vladimir Monomakh)」は、その動きを活発化させている太平洋艦隊に配備された。残りの1隻「ユーリー・ドルゴルーキー」は北方艦隊に所属している。

クニャージ・ウラジーミルという艦名は、キエフ=ルーシ(キエフ公国)をキリスト教化したウラジーミル大公にちなんで名付けられた。多くのロシア人が、これをロシア建国の節目と捉えている

ユーリー・ドルゴルーキー

試験運航中の「ユーリー・ドルゴルーキー」。

Wikimedia Commons

活発化の兆しを見せるロシアの潜水艦活動

ロシアは現在、潜水艦隊の近代化に取り組んでいる。SSBNにかかる巨額の費用がネックとなり、長年にわたり手付かずの状態にあった分野だ。ロシアは、オスカー級、デルタ3級、そして有名なタイフーン級といった、数多くの原子力潜水艦を今も運用しているが、今回加わったボレイ2級潜水艦は今後、ロシアのSSBNの中核を担うものと見られる。

既にロシアの潜水艦の活動は、増加の兆しを見せている。ある将官は2015年、ロシアの潜水艦隊は哨戒の頻度を50%近く強化していると述べた。その1年後には、北方艦隊に配備されている潜水艦の哨戒時間も5割増えていると報じられ、2017年3月にはロシア海軍のウラジーミル・コロリョフ(Vladimir Korolev)総司令官が、ロシアの潜水艦隊は「ソビエト連邦が崩壊する以前のレベルにまで回復した」と述べている

その一方で、ロシアはヤーセン級と呼ばれる第5世代の攻撃型原子力潜水艦の建造にも着手している。その1つ「セベドロビンスク(Severodvinsk)」は、既に北方艦隊でその任務についている。

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Rubin Design Bureau

ロシアのプーチン大統領が7月に署名した安全保障戦略は、アメリカを直接的な脅威として名指しするとともに、「北極海を含む海洋での覇権を握る」とのロシアの意思を示している。

「ロシア連邦は今後も、強大な海軍力を擁する国家としての地位を維持する。ロシア海軍には、世界のいかなる海域においても、国益を確実に守るために必要なポテンシャルがある」と、この戦略文書には書かれている。

現役で運用されているSSBNと攻撃型潜水艦の数では、アメリカ海軍がロシア海軍をはるかに上回る。しかしながら、ロシア海軍の近年の動向、さらには新型潜水艦の建造計画を見ると、海洋戦略の変化が見て取れる。ロシアの新たな狙いは、世界の大洋を支配するアメリカ海軍に対して、特に海面下で対抗することにあるようだ。

[原文:Russia launched a powerful new submarine named after 'Vladimir the Great' — and it's just getting started

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ/編集:山口佳美)

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