自社エリート時代の終わり。大企業が本気で勝てる役員をつくり始めた

最近、「CEOの後継者をどうつくるか?」や「10年かけて本当に戦える役員をつくる時代になった」といった話をグローバルに事業を展開する大企業幹部から聞くことが多くなった。いずれも兆円単位の売り上げがある企業なので、大企業と呼べるだろう。

もちろん、企業は今までも兆円、数万人という規模の組織を率いるCEOやCFOといった経営幹部、取締役たちを安易に選んでいたわけではない。いわゆる「役員レース」は、それはそれで組織「内」におけるグレートゲームであり、組織内でも限られたメンバーによる本気の戦いであった。

しかしながら、安定した事業と、そこから享受できる利益が存在するなかで、その組織に最適化された固有スキルと社内人脈こそが役員になるための必須条件となっていた時代は、過去のものとなるかも知れない。

ビル群

写真:今村拓馬

勝てる役員を本気で模索しはじめた

産業界における破壊的テクノロジーの出現、例えば人工知能研究におけるディープラーニングやゲノム研究におけるCRISPR/Cas9(注:最先端のゲノム編集技術)のような新技術。ものづくりからデータを用いたサービスへの事業形態の変化、人口動態の変化による人材不足が事業継続を危うくする現場の状況など、どんな産業でも急激な環境変化に巻き込まれることは避けられず、どんな環境でも企業を生き残らせることができるリーダー、経営者をつくることが組織としての死活問題となっている。

つまり勝てる役員をつくることを各社とも本気で模索し始めているのだ。冒頭の企業幹部のコメントはそうした危機意識の表れである。

かねてから言われている「グローバルに通用する経営者」も経済誌の大好物であるが、昨今は日本の大企業が経営者候補を探索するために、まさにグローバルなエージェント(ヘッドハンティング会社)に依頼し、同時に社内の幹部候補の外部機関によるアセスメント(能力・適正評価)を求めることも珍しいことでは無くなった。

キズ無く昇進した役員の遅れてきた挫折

「グローバルに通用する経営者」を具体的に分解してみると、例えば海外M&A後のマネジメントができる人材、外国人の社外取締役たちに敬意を払われ、対等に議論できる役員といった人物像が聞こえてくる。こういう人物に組織内で早い段階から目星をつけ、長期戦略的にチャレンジングな仕事を与えて評価し、「役員をつくっていく」ことが始まっている。

これは、企画畑、人事畑でキズも無く昇進したが、役員になった後で外国人幹部とのコミュニケーションがうまくいかなかった、という多くの人材配置の失敗を踏まえている。適切な人材配置ができなければ、たとえ地位を得たとしても、本人自身が遅れてきた人生の挫折を味わうこととなる。

孫正義

ソフトバンクの孫氏は自らの後継者としてニケシュ・アローラ氏を迎えたが、両者の思惑はすれ違った。

REUTERS/Issei Kato

例えば海外人材であれば、大企業の海外支店にはいくらでもいるように思えるが、日本社会をそのままカプセルに詰めて移動したような支店ではなく、日本とは縁もなかった企業を買収して統治できる人材が必要とされている。

ここでは語学力を含むコミュニケーション力、多様な人材のマネジメント力、事業やファイナンスへの知見が必要になるが、この全てが備わった人材を配置できたとしても、M&A後の事業成功の確率は50%以下だろう。日本企業によくある買収価額が高過ぎるという、買収に成功したが故の「勝者の呪い」も含め、それほどM&A後の事業の成功は難しい。昨今も日本企業による海外M&Aの失敗例がささやかれるが、企業内の心ある人間達は失敗を冷静に分析し、10年かけてでも買収後のマネジメントができる人材を育てる方向にシフトしている。

生き残りをかけた中途採用

気付いたときには画一的な「自社向けエリート人材」ばかりになってしまった企業では、生き残りをかけて中途採用を強化している。組織内の人材スペックをざっくりと分解すると、

  1. 現場をしっかりまわしてくれるオペレーショナルな人材(エンジニアなども含まれる)
  2. 顧客と共に事業拡大や事業創出ができる人材
  3. 事業をファンドマネジャー的視点から見て最適なリソース配分が出来る経営人材

の3種類に分けられる。

多くの場合はこれらのスキルを同時にこなせる人材はほぼいない。よって、組織での「偉い、偉くない」ではなく、実戦で戦えるように各人を目的スキル別に育成していかなければならない。そのため、自社に不足する人材は外部から採用してくることとなる。

これは企業のリーダーとなる経営人材の登用において「今までがんばってきた社内の人間をないがしろにするのか」という怨嗟の声が湧き上がる可能性もあるが、伝統的に純血主義を取ってきた企業でさえ、「経営幹部だろうが、社内にいない人材は外から連れてくる」という意思決定を既にしている。

パナソニック

パナソニックは「元」パナソニックの樋口泰行氏を出戻り経営陣として迎え入れた。

REUTERS/Kim Kyung Hoon

2017年はパナソニックが日本マイクロソフトから「元」パナソニックの樋口泰行氏を代表取締役兼専務に迎えたことが注目を集めた。ここまでドラスティックでなくとも、突然、中途入社してきた人間が役員や上司になることは増えるだろう。

グローバルに展開する日本企業に所属するビジネスパーソンは、優良企業ほど生き残りをかけて、純血主義、年功序列を捨てていくことを認識し、自分がどういう種類の人材となって組織内でどういうポジションを得たいのか、自分のスキルの棚卸をして、自己承認欲求との折り合いをつけることが必要になるだろう。

人は若い日には年功序列を憎み、年齢を重ねると年功序列が恋しくなるのが世の常である。日本企業が本気でリーダーをつくる時代になった今は組織と個人の向き合い方を考える過渡期であろう。


塩野誠(しおの・まこと):経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター。国内外の企業や政府機関に対し戦略立案・実行やM&Aの助言を行う。10年以上の企業投資の経験を有する。主な著書に『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』など。人工知能学会倫理委員会委員。

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