副業、プロボノ……「仕事も家庭も」完璧な人がやるもの?

副業、プロボノ(注:職業上持っている知識やスキル、経験を生かして社会貢献活動をすること)、2枚目の名刺……仕事と家庭だけではなく、第三の場を持つ人が増えている。

政府は現在、企業が就業規則を作成する際に参考にしている「モデル就業規則」の副業禁止規定を改定し、「原則的に副業・兼業を容認」とする方向で検討中だ。こうした流れにより、本業の仕事や家庭以外の活動を手掛ける人は広がるだろうか。

ここで、1つの障壁となりそうなのが、こうしたいわば「+α」の活動はあくまでも仕事と家庭を十二分にこなせている人がすること、というイメージだ。私が開いている「カエルチカラ・言語化塾」の参加者、木村恵美さん(33)もその1人だった —— 。

ジレンマ 女性

MikeDotta/Shutterstock


大学時代に障がいのある子どもの療育サークルにボランティアとして参加したことがきっかけで、私は大学卒業後、国家資格を取得し、地元の小さなクリニックで言語聴覚士として働き始めた。

2011年に結婚。相手は400キロほど離れた場所に住んでいたため、仕事を辞め、転居したが、3カ月後には関連した仕事でパートとして働きはじめ、半年後には言語聴覚士として再就職。中途採用だったが未経験のこともかなり多く、新卒の時よりもしんどかった。

一方で職場の人間関係は良く、仕事の悩みもプライベートなことも相談できた。仕事にはやりがいも感じていた。この仕事に出会えたことをとても幸せだと思えたし、今もそう思っている。

自分のことを語る言葉が出てこない

しかし、再就職して3年後、2015年に妊娠、出産すると、少し様相が変わってきた。

待望の第一子。出産前から育児書を読み、布おむつを縫い、子どもに一直線にまなざしを向けていた。出産後は、ますますその視線は無意識に子どもへと集中した。授乳のたびに何分飲んだとか、何時間授乳の間隔が空いたとか、何グラム増えたとか、そんなことをノートに取って毎日過ごしていた。子どもを見つめている時間はとても幸せだったが、想像以上に張りつめていた。

子どもが1歳になると同時に、予定通り仕事に復帰した。話には聞いていたが、幼い子どもの育児をしながら仕事をする毎日は本当に嵐のようだ。夫も私も同じように育児にかかわっているし、子どもの不調など緊急時には近くに住む夫の親兄弟も力を貸してくれる。それでも出産前と同じように働くことはできない。

出産前と同じように働けないことに対して職場は寛容だったが、結局は誰かに迷惑をかけてしまう。それは「仕方がないこと」だと周囲は言ってくれるが、自分では納得がいかず、でもどうしたらいいのかも分からず、自分にも仕方がないと言い聞かせてできることをやるしかなかった。

母と子ども

撮影:今村拓馬

そんな中、救いになったのが、産後2カ月のときに参加した、赤ちゃん連れで運動もできるというNPOの産後ケアクラスだった。衰えた体のリハビリと、母となった自分がこれからどう生きていきたいかということを整理するワークに取り組んだ。

これからの自分の仕事や人生、自分がどうしていきたいのかを言葉にしてみようとするのだけれど、全然言葉が出てこない。頭の中にイメージすることすらできない自分にがっかりした。妊娠中からずっと、子どものことばかり考えていた私は、自分を主語にして話すことを忘れていたのだ。子どもと向き合うこととともに、母となった自分と向き合う必要性を強く感じた。

その後、産後ケアクラスの参加者が主催するイベントの運営を一緒にやらないかと誘われて参画した。その仲間が、同じくNPOが主催するワークショップの進行役をやることになり、その運営にも携わることとなった。仲間と何かをつくっていくことがとても面白く、夢中になった。

目の前の課題をクリアして、また新たなことに取り組み形にしていく。そうやっているうちに活動の幅は少しずつ広がり、自分たちが住んでいる街に産後ケアを広めたいと、市民団体を結成して講座や講演を開催するようにもなった。仕事、育児に加えて、もう一つの居場所ができた。

「第三の場」がうしろめたいものに

だが、私にとって「救いの場」だったはずのこの活動が、子どもが1歳になり仕事に復帰した後、徐々に「うしろめたいもの」になっていった。「仕事で平均点にも届いてない自分」が第三の活動に手を出そうなんておこがましいと思っていた。

このうしろめたさは何だったのだろうか。根底には、やはり第三の場というのは「仕事や家事も十分にできている人がすること」「やるべきことをやった上で、能力や時間に余裕のある人がやることなんじゃないのか?」という意識が自分の中にあったのだと思う。

サードプレイスで働く女性

自宅と職場だけではない場所を持つことは、その人にとって新たな“チカラ”になる。

Rusian Guzov/Shutterstock

でも、よくよく考えれば、第三の場によって、仕事に支障があったわけではない。むしろ発見することも多かった。第三の場では、メンバーがそれぞれ自分のできることを持ち寄り、足りないものをカバーしていた。得意なことや喜びを感じることとは、人によってこんなに違うのかということがとても面白く、心強かった。自分の力を発揮することがチームや社会のためになるという実感と、自分ができないことは誰かが補ってくれるという安心感があった。

今まで仕事だけしていたときには分からなかった「自分はこんなことが得意・苦手なんだ」とか、「こういうことが最高に嬉しいんだ」ということに気が付くこともできた。この活動を通して得られた気付きを仕事にも生かし、自分の力を十分に発揮したい。そういう思いが強くなり、それができそうだという自信も得ることができていた。このことを認識してから、徐々にうしろめたさは消えていった。

外から眺める場を持つことはチカラになる

アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグは、その著書『ザ・グレート・グッド・プレイス』で、“ファースト・プレイス”は自宅、その人の生活を営む場所、“セカンド・プレイス”は職場、おそらくその人が最も長く時間を過ごす場所、“サード・プレイス”はコミュニティーライフの“アンカー”ともなるべきところで、より創造的な交流が生まれる場所であり、サード・プレイスが現代社会にとって重要であることを論じている。ここでいうサード・プレイスは、物理的な場所としてのカフェなどのことを指しているが、私は「活動」の面でも「第三の場」というのは重要だと思う。

仕事や子育てのなかで、やるべきこと、やりたいことはたくさんある。わき目も振らずにこなす毎日の中では「何のために働いているのか」「これから自分はどうしていきたいのか」と、ふと疑問に思っても、じっくり考える余裕はなく、一人で悶々と考えているのにも限界がある。

現状を外から眺めることができるコミュニティーを持っていることはチカラになる。「仕事、育児とどちらも完璧なんてとても無理」という働く母にとってこそ、第三の活動をとおして得られるものは大きいのではないだろうか。


カエルチカラ・プロジェクト+中野円佳(なかの・まどか):目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすプロジェクト。女性を中心に何らかの困難を抱える当事者が、個人の問題を社会課題として認識し、適切に言語化し、データを集め、発信することで改善の一途につなげる。https://www.facebook.com/kaeruchikara/

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