クックパッドは新たな料理動画・事業を始める。コンテンツを制作するためのクッキング・撮影スタジオを国内の数カ所に開設していくが、動画の制作主となるのはクックパッドが抱える6000万人(月間)のユーザー達だ。
同社は11月29日、ユーザーが持ち込んだ食材を無料で調理し、動画の撮影と編集ができるスタジオをオープンすると発表した。1拠点目は12月10日に代官山で、2018年末までに国内に5拠点を開設していく。
クックパッドは、ユーザーが調理を撮影し、編集・投稿ができるスタジオをオープンさせる。
出典:クックパッド
クックパッドは、動画事業の戦略の軸として、動画数、料理動画の広告、ユーザー課金の3つを挙げ、それぞれの軸で「圧倒的No.1のサービスを目指す」と同日、記者発表会に出席した岩田林平代表執行役は話した。「動画を自社で作るのは製作本数も限界がある。6000万人のユーザー基盤を活用して、他社にはできない圧倒的な本数を実現する」と岩田氏は、新たな事業の狙いを説明した。
スタジオでは調理師などを含め、利用者をサポートする人員を配置する。既存のスタッフはスタジオに転用せず、安全・衛生を管理できる専任のスタッフを置く。利用者は予約制で受け付け、食材を持ち込めば、スタジオにある資機材で調理し、動画の撮影・編集が無料でできる。同時に4人が撮影・編集できる。調理から撮影・編集は3〜4時間かかるという。最初はインフルエンサーを含め、料理動画の作成に意欲的な層を巻き込んで、スタジオを利用する機運を盛り上げる。
スタジオは、新商品の発表会などにも活用する。料理動画事業部の今田敦士部長は「これまで、新商品の発表会やイベントをクックパッドでできないか、とメーカーから要望をもらっていたが、自社はリアルな資産を持っていなかったので、対応できるものだけをオフィスで行なっていた。今後は、 スタジオをうまく活用できる。ユーザーを巻き込んで動画として投稿してもらうイベントにもチャレンジしていく 」と話した。
さらに、今田部長は、広告主とスタジオでタイアップすれば、スタジオの運営コストをゼロベースに下げられると自信をみせた。
ユーザーの動画は、クックパッドの静止画のレシピの画面に表示される。動画の権利はユーザーに帰属し、ユーザーは自身のSNSで制作した動画を自由に拡散できる。
cookpad storeTVで広告を強化
クックパッドが売り場と連動して、コンテンツを配信するサービス「cookpad storeTV」
出典:クックパッド
動画広告の販路は、流通現場に広告動画を配信する端末を配置することで拡大していく。
クックパッドは、オリジナルのサイネージ端末をスーパーに配り、売り場と連動した独自の広告コンテンツを配信する。サービス名は「cookpad storeTV」。
cookpad storeTVはすでに8月以降、全国100店舗でトライアルを行い、対象商品の売り上げを大幅に伸ばしたという。これを受け、岩田氏は「ハードはクックパッドはやっていなかったが、大きく投資をして進めて行く意味がある」と全国展開をした理由を説明した。12月から1000店舗でサービスを始め、早期に全国5000店舗に広げることを目指す。
コンテンツの内容は、流通業者から販売計画をもらい、計画に合ったものをクックパッドが動画にする。クックパッドユーザーが売り場で検索をしないレシピにも、買い物客の関心を引き、商品の購買につなげる。コンテンツの内容は、売り場の商品、地域、チェーンなどと特化できる。
広告主は、すでにクックパッドで広告を出している食品・飲料メーカーが中心となる。
クックパッドによると、メーカー側は、cookpad storeTVの広告を、個々の店舗にカスタマイズした販売促進のコンテンツとして扱い、広告の予算を広告・宣伝費ではなく、販売促進費からまかなう。今田部長は「販売促進費は広告費よりも大きな規模。新たな予算を取ることができる」と期待を口にした。
ユーザー課金の詳細は来年の早い段階で発表
動画のユーザー課金については詳細が決まり次第、公表するとした。今田部長は「ユーザー課金は広告と比べて、収益の安定性があり、基盤を拡大しやすい」と話した。
料理動画への本格参入について説明する岩田林平代表執行役(左)と料理動画事業部の今田敦士部長(右)。クックパッド広報によると、岩田氏が取材を受けるのは珍しく、動画への“本気度”が表れているのでは、とのこと。
動画で新たな利用者を開拓
料理レシピの動画と静止画では、ユーザーの利用時間帯が違う。
出典:クックパッド
クックパッドは2016年11月に、動画配信をする「cookpad TV」を始めた。Facebookやインスタグラムを活用し、2017年5月には100万フォロワーを達成した。
利用者の動向を調査した結果、静止画のレシピは買い物の時間帯に利用が集中していた一方、動画の利用は、就寝前、昼休み、早朝から出勤の順番に多く、ニーズに違いがあることがわかった。利用者の年代も、SNSを通じて動画を配信することで、10〜20代の利用者を伸ばすことができた。
クックパッドの料理動画は、料理を始めたばかりの10〜20代の利用者も掘り起こした。
出典:クックパッド
岩田氏は「動画は、これなら私も作ってみようかなと思う人や、男性の人も見ることがわかってきた。検索しないレシピとの出会いで、(料理をする層は)レパートリーが広がる。料理を始める層は、料理の頻度が上がる。動画に本格参入し、圧倒的なナンバーワンのポジションを築いていくと判断した」と説明した。
投資フェーズに突入 競合他社は急速に成長
クックパッドは2017年で創業20年。来年にはサービスを開始してから20年を迎える。
岩田氏は、発表会で「最初の10年は事業基盤作りのサービス開発に集中、その後10年は事業基盤を土台とした事業化に注力してきた」と振り返り、「(これからは)さらなる成長のため事業基盤作りに再度注力する投資フェーズに入った 」との見方を示した。
今回、スタジオの開設と「cookpad storeTV」の開発とハード面に大きな投資をした。
特に一般のユーザーによる動画投稿は、自社で動画を作るよりも制作コストが抑えられ、動画の“味”も出る。しかし、キッチンや撮影機材などのハード面にネックがあり、岩田代表は取材に「ユーザー投稿は、(競合の)各社がやりたいと思っているが、なかなか投資ができない」と業界の現状をとらえ、先んじて投資を決めた。
クックパッドの利用者は、依然として他社よりも圧倒的に多いものの、減少傾向。一方、デリッシュキッチンとクラシルが急速にユーザーを伸ばしている。
出典:ヴァリューズ
一方、クックパッドのユーザーは減少傾向にあり、料理動画の「クラシル」「デリッシュキッチン」がユーザーを伸ばしている。
ネット行動分析サービスを提供する「ヴァリューズ」によると、ユーザー数はクックパッドが2000万人台、デリッシュキッチンとクラシルは300万人前後だったが、2017年4~8月にかけて、クックパッドのユーザーは288万人減少している。一方、クラシルとデリッシュキッチンは、アプリ利用者がそれぞれ約100万人近く増加した。
このタイミングで動画に本格参入する理由について、岩田氏は「動画をつくる楽しみを感じてもらえることを重視した。料理の作り手を増やすことにこだわった」と述べた。
競合他社が急速に開拓した料理動画の市場で、クックパッドはユーザー投稿型の新たな動画市場を打ち出した。2018年、国内の料理・動画の競争は激しさを増しそうだ。
(文、撮影:木許はるみ)