「職場に子連れ」は非常識なの? 熊本“子連れ議会”騒動は何かがおかしい

Pablo Iglesias

子ども抱いて議場入りした、スペインの国会議員。日本で子連れ議場入りは物議をかもした。

REUTERS/Juan Medina

熊本市議会で緒方夕佳市議(42)が7か月の子どもを連れて議場に入り、賛否両論を巻き起こした問題で11月29日、熊本市議会は議会運営委員会を開き、議事進行を妨げたとして、緒方市議に対し、文書での厳重注意を決めた。

事務局の担当者は、Bisiness Insider Japanの取材に対し、議会運営委員会の判断について「委員会ではかなり厳しい意見も出た。子育ては応援しているが、議会ルールを無視したこととは切り離して考えるべきとの判断があったようだ」と話した。

世界のメディアでも報じられた緒方市議の行動に対しては「非常識」「子どもがかわいそう」「パフォーマンス」といった反対派の声も大きい。これまでの報道やラジオ番組で「子育てと仕事の両立に苦しむ人たちの悲鳴を、自分が赤ちゃんと議場に座ることによって知ってほしかった」とする緒方市議。日本では議場どころか「職場に子ども」をタブー視する風潮も。

議場と職場は違うのか? そもそも職場に子どもを連れて行くことは非常識なのか? Business Insider Japan編集部員、みんなで考えてみた。

抱っこひも姿の男性議員

私は2015年後半、ブリュッセルにある欧州議会で働いていた。欧州議会というと2010年にイタリア人議員が議会に子連れで出席し世界的にニュースになったが、その後も複数の議員が議会に子連れで参加している。けれど欧州議会でもこれは日常ではなく、パフォーマンスの意図を持ったもの。先述のイタリア人議員も理由として「ワーキングマザーの大変さに注目を集めたかった」としている。

私がいたときは「子連れ議会出席」はなかったが、仕事場に子どもを連れてきた(男性)議員なら見たことがある。ドイツ緑の党に所属する、ヤン・フィリップ・アルブレヒト議員だ。当時、EUの一般データ保護規則という大きな法律がちょうど交渉の大詰め。アルブレヒト議員はその取りまとめ役で、連日超多忙な状況だった。そんなとき、偶然廊下ですれ違った議員は抱っこひもをつけて小さな子どもを抱えていた。

こんなに世界的にインパクトを与える法律を制定している議員も、生活のある一人の人間なんだな、とやけにその光景が納得感を持って落ちてきたのを覚えている。

(91年生まれブロックチェーン世代記者、西山里緒)

アメリカ企業は合理的

前職の米系メディアでは、週末に子供向けの英語クラスも開かれていました。働くために、小学校の夏休み中に子供をオフィスの空いた席に座らせて宿題、読書をやらせる。社員は安心して仕事ができ、生産性が上がる。見方を変えると、合理的、経済的理由がアメリカ企業にはある。至上資本主義の賜物ですよね。

突発事態では、すぐに上司にチャットで連絡、保育園にゴーでした。チャット確認した上司は“Don't worry and let me know what the company can help you if any.”(心配ないよ、何か会社でできることあったら言ってね) のメッセージが来る。

小児科に行って帰宅して落ち着いたら、ログインして仕事やコンファレンスコール。今日は疲れたから寝ると言えば、明日頑張ってと返信を受けて、やる気がみなぎる。結果が全てだと考えると、経済的に見ると、アメリカ企業の体制は納得がいく。

女性社員が増えても、企業の生産性が上がらない旧体制が続けば、日本企業の成長にはつながらない。再び、ジャパンパッシングですね。日本売りです。あくまでマーケットアングルでこの問題を見ると。

(金融担当副編集長、佐藤茂)

彼氏と犬も職場に

以前外資系広告代理店にいた際に、何人もの同僚が赤ちゃんや小学校低学年の子ども、外国人の上司は彼氏と犬まで頻繁に連れてきていたが、連れられてきた子どもたちも親の職場を見られて嬉しそうだった。毎日連れてくる必要があるのであれば、託児所などの設備を整えるべきだと思うが、お互いに少し配慮をしてあげるだけでみんな働きやすくなる。

オフィス風景

shutterstock

「仕事の邪魔」といった生産性をそんなに気にするのであれば、過労死するほど生産性が低い国にはなっていないし、こういうときだけ「仕事がやりにくい」を出すのはあまりにもダサい。

なぜここまで余裕がなく、子育て世代に冷たい国なのか。このまま不幸な働き方が続くようであれば、優秀な人材はみんな海外に行くだろう。若い世代としてはそちらの方が心配でならない。

(88年生まれ、子どもいない男性記者、室橋祐貴)

「非常識」とはかけらも思わず

「子連れで会社に来てたんだって?びっくりしたよ」。

前職の新聞社時代。第一子の育児休業中に、大手町にある会社に行く機会があった。復職前に、上司との面談が設定されていた。育休中なので当然、9か月の息子は保育園入園前。抱っこひもに入れて地下鉄に乗り、久しぶりの職場に足を踏み入れると、子連れの自分が、何か異様に感じたのを覚えている。

復職後に、冒頭の言葉を50代のベテラン女性記者に言われて私は一瞬、戸惑った。「普通はあり得ない」というが、先輩記者は子持ちだったし、ましてや時代は動いている。

「非常識かな」という疑問をかけらも持たず、むしろ「子どもの顔をみて和んでもらいたい。自分の状況を理解してもらうことにもなるし」などと、能天気に構えていた。

保育園の後も子どもをベビーシッターに預けて、深夜まで取材に奔走した先輩の時代には「子どもはいないかのように働くこと」が、当たり前だった。職場に子どもは「あり得ない」と感じる人もいれば、「必要なこと」と考える人もいる。全く違う価値観が一つの会社に存在しているのが、2010年代の日本なのだ。

(5歳と3歳育て中、働き方担当記者、滝川麻衣子)

私は会社を辞めて日本を出た

私も息子を何度か会社に連れて行った。土曜日に1時間ほど出社する必要が生じ子連れで行ったときには、私が原稿を書いている間、上司が息子の相手をしてくれた。けれど、息子が興奮して大声を上げた際、別の上司が遠くからやって来て「うるさい!皆が仕事してるんだから、静かにせんか」と息子を怒鳴りつけた。どちらも、同じくらいの年齢の、男性管理職だった。

こんなこともあった。息子が2歳になる直前、水疱瘡にかかり、登園停止になった。こっちは会社を休むわけにはいかないので、高校時代の同級生の母親まで動員して、息子は難民のように各家庭を転々とした。水疱瘡5日目か6日目の夜勤の日、どうしても預け先が見つからず、職場に連絡を入れると、「それは困ったね~」という反応で、それ以上の指示がない。

「来いってことだろうな」と判断し、夕方、息子を連れて行った。

当時の私は、自分が休んだら、既存のメンバーではカバーしきれないような業務を担当していた。職場の同僚たちは、私に休まれるくらいなら、子連れでも来てほしいようだった。幸い、息子は1回しか泣かなかった。どうにかこうにか仕事が一段落した午後11時。今度はどうやって帰るか問題が勃発した。

子どもたち。

働き方が多様化すれば、子連れの職場は増えるのか。

撮影:今村拓馬

通常なら私は午前1時半の退社で、会社が依頼したタクシーで帰る。しかしそれに息子を乗せていいのか。万が一事故にあったら、誰が責任を取るのか。たしか部長がそんな問題提起をして、結局、私と息子は終電で帰宅させてもらった。昼は昼で、家で子どもを見ており、夕方から周囲に気を使いながら、息子の様子も見ながらの仕事で、本当にぐったりした。

私はシングルマザーだったので、職場でも「夫がいない」「稼がないといけない」事情が周知されており、職場に育児を持ち込んでも、比較的寛容な対応だった。難民キャンプ的な一時預かりもずいぶん利用した。だが、夫が稼いでいる家庭の、ワーキングマザーの負担やプレッシャーは、私の比ではないだろう。

職場に子どもがいることで、生産性は下がるかもしれない。だが、子どもが病気になったとか、実家があてにできないとか、とにかく自分でどうにかしないといけないときに、朝からあちこちに電話をかけまくったり、関係先に謝りまくったり。そういう作業で発生する疲弊コストはなかなか論じられない。結局、私は会社を辞めて、小学1年生の息子を連れて日本を出た。

(バイリンガル14歳の母、記者・編集者、浦上早苗)

「現場任せの無神経な経営者」という視点

この問題は一般企業だと、「社員が困ってることに気づいてない無神経な経営者」って文脈もありますね。社員やマネジャーでは「どうなるかわかんないけど連れてきてもしゃーないよな。預けるとこもないし」って思ってても大きな会社だと現場判断だけでできないんですよ。隣の部署から横槍も入る。

悩んで稟議上げてるうちに時間がどんどん経ってしまう。必要としている方は今日明日どうするかという話なのに。

スタートアップレベルの小規模企業なら社員と経営者の距離が近いから、問題はすぐ認識される。そして結果的にトップ承認で「あ、連れてきていいよ」となって会社のムードができる。つまり、社員に先行して、社長が奨励する空気を作れていないから、現場が判断できず混乱している側面もあるんじゃないか。

(テック担当副編集長、伊藤有)

ひどいヤジ、居眠り横行議会に革命?

前職で不正が横行した議会を取材していた立場からすると、子どもを議員が連れてくることで、議員自身も議会活動に真面目になるのか、と期待します。少なくとも議員が議場で寝なかったり、傍聴席からすごいヤジが飛んでいるのに、世論を無視した議論・決議をしなかったり、もっと議員も「子どもにいいところを見せなくちゃ」と自分を律するのでは?と。

また、子育てをしやすい環境や少子化対策を議論する議場で、なぜ子どもを排除するのか。その風潮が、子どもを育てにくい社会にしているのかな、と思います。熊本市議会で、ベテランの男性議員が子連れに関して怒っている姿をみると「あんたたち、誰が家庭で子どもを育てたと思ってるの?」と問い詰めたくなりました。

また議会は、答弁書の読み合いで記者も眠くなる。それは、市民も同じで、活発な議論がないから、議会から市民が離れていると思います。逆に、子どもにとって、答弁の読み合いは、いい子守唄。子どもの表情は、議論の活発さを表す指標になるかもしれません。

(最近まで議会取材をしていた32歳独身女性記者、木許はるみ)

おじさんたちは怖がっている

子育てと仕事の両立で特に悩んだことはない、アラフィフの“おじさん”だが、熊本市議会のご同輩に向けて一言だけ。

「なにをそんなに怖がっているのですか?」

Swedish Member European Parliament Jytte Guteland

REUTERS/Vincent Kessler

怒りは恐怖の裏返しだ。私自身、毎日、アメリカから届くニュースをチェックしていると、この先、世の中はどうなっていくのだろうと不安に感じることがある。記事にもよく出てくるが、今の時代、変化は「指数関数的」だ。これまでの常識は通用しない。今話題の買い取りサービスだって、買い取るのはいいけど、どうやって儲けるのか、さっぱり分からない。

熊本市議会のご同輩たちも同じなのだろうと思う。世の中はどんどん変化していく。スマホ? SNS? AI? 何のことかさっぱり分からない。どんどん置いていかれる気がする。そして今まで安全だと思っていた自分たちのテリトリーにも、理解不能な存在が現れた! 「どうなっているんだ!」「俺たちをどうするつもりなんだ!」

そう、おじさんたちは怖がっている。怖いから懲罰だなんだと虚勢を張っている。

ご同輩たち、もう肩をいからせるのはやめないか。力を抜こう。そして、分からないことには「分からない」と言える勇気を持とう。これまで皆の先頭に立ち、いろいろな困難も乗り越えてきた。その自負があるだろうし、確かにそうだろう。でも、もういいんだ。よく頑張った。

これからはもう先頭に立たなくてもいい。いや、もう役目が終わったと言いたいわけじゃない。女性も、若者も、もちろんおじさんも、皆が交代で先頭に立って進んで行けばいい。その方が早く進めるし、楽だし、皆がハッピーになれる。だから怖がらずに、手をつなぐことから始めないか。

(アニメに夢中な高2が心配なアラフィフ翻訳記事担当、増田隆幸)

「もうばあばの家に行きたくない」

夏休みになって突然、小学5年の娘が「もうばあばの家に行きたくない」と言い出した。出産後すぐに山口県の実家を売って、東京に越してきてくれた両親に子育てをほぼ“丸投げ”して仕事をしてきた身にとって、娘の反抗期は私に初めて両立問題を突きつけた。

結局、午前中は塾の夏期講習でなんとかしのぎ、午後からは塾に近い私の職場に連れてきた。私が原稿を編集している間に空いている机で宿題をしたり、本を読んだり。打ち合わせに出るときには「何かあったら」と同僚に頼んだ。

今の編集部は11人、会社もベンチャーで子どもがいない若い社員も多い。そこに連れて来ることに躊躇がなかったわけではない。だが小学校5年とはいえ、さすがに毎日1人で留守番させることに踏み切れなかった。長期の夏休み、学童保育がある低学年と違い、高学年の子どもたちは本当に行き場がないのだ。

赤ちゃんと母。

shutterstock

だが、一つの“思惑”もあった。編集長である私が思い切って子どもを連れてきたら、他の編集部員も本当に困ったときには連れてきやすくなるのではないか。いや、預けられない時には、むしろ連れてこなくても家で仕事してもいいのだ。

以前の職場、「アエラ」という週刊誌は祝日も休みではなかったので、私を含め、複数の編集部員が何度か子連れ出勤をした。子どもが苦手な編集部員もいただろう。「うるさいな」と感じていた人もいたかもしれない。だけど、私は誰でも「お互い様」な職場がつくりたかったのだ。子育て中でなくても、自身の病気や親の介護など家族の事情で100%働けないことは誰にでもある。子どもを連れていく側も、いつも助けてもらっていることを感じてほしかった。

議会と職場は違う、という人もいるかもしれない。アンケートなどを見ると、「子連れ議会出席認めるべきでない」という人が圧倒的に多いのに驚く。「議会は神聖な場だから」「きちんとした仕事ができなくなる」というなら、寝ている議員はあれほどいることを先に問題すべきだ。

もちろん子連れ出勤の際、子どもが「お腹空いた」と言えばコンビニにも行った。いつもよりも多少効率も落ちたかもしれない。でも、子どもを明日からどこに預けようと心配することなく仕事ができることの方が、よほど仕事の質には影響すると思う。少なくとも部下にそんな心配を抱えながら仕事をして欲しくないと思う。(小5の娘の早すぎるプチ反抗期に悩む編集長 浜田敬子)


熊本市議会事務局によると、緒方市議は定例会開会日の11月22日に、長男を抱っこして本会議に出席しようとして議場に着席した。同市議会には「傍聴人は議場に入ることができない」と定めていることから、議長や事務局が制止。説得のために40分間、開会が遅れた。緒方市議からは、出産前から事務局に対し「議場に託児所を設けたりベビーシッターの補助をつけたりしていほしい」と要望があったという。「事務局に権限はないので、議員間で話してほしいと伝えていた」(担当者)という。

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