静かに広がるシリコンバレー・バッシング——なんちゃってIoTベンチャーの転落

このところ、「シリコンバレーは最近、調子に乗りすぎだ」という論調の記事をしばしば目にするようになった。 よく槍玉にあがる象徴的な件は、「Juicero(ジューセロ)」というベンチャーだ。Wi-Fiにつながるジュース搾り機を作るメーカーで、流行の「IoT」というやつである。フレッシュな果物や野菜を絞れる状態でパックにして通信販売し、それを機械にセットすると、手軽にフレッシュジュースが楽しめる。

Juicero_Press_Packs

機械でなく、手でパックを絞っても同じものができると暴露されたジューセロ。廃業に追い込まれた。

Juicero via PR Newswire

当地で人気の「IoTエスプレッソマシン」のジュース版ともいえ、「プリンターを売ってトナー販売で儲ける」のと同様のビジネスモデルである。

機械の単価は400ドル(約4万5000円)(最初は700ドルだった)という、ちょっとした高級ガジェットだが、有名どころのベンチャーキャピタルを含む多くの投資家から1億2000万ドル(約134億円)近い資金を集め、話題となった。ネットにつなげることで、材料に合わせた最適の絞り方ができることがウリだった。

ところが、2017年4月にBloomberg誌が「パックを手で絞っても全く同じジュースができる」という実験結果をYouTubeで公開したことで大騒ぎとなった。Juicero社は、機械のさらなる値下げやユーザーへの返金などに努めたが、結局9月に廃業した。 「IoT」という技術バズワード、「健康食品」というスノッブ趣味、「専用消耗財販売」という鉄板のビジネスモデルの三拍子そろった、現代シリコンバレー好みの案件であったが、結局はそればかりを追い求めて、「ユーザーのためになるプロダクト」を作ることを怠ったのである。 「最近のシリコンバレーは、自分たちばかり大儲けしているが、本当に人々のためになるものを作っていない」と言われてしまっても仕方ない。

「世界を良くする」はどこへ行った?

他にも例えば、知名度の高いベンチャーでいうと、「シェアリング・エコノミー手法を使ったお買い物サービス」のInstacart(インスタカート)や「ビッグデータ解析を使ったアパレルの定額通信販売」のStitchfix(スティッチフィックス)など、「バズワードで飾ったちょっとしたサービス」といったものが多い。別に悪くはないし、私も使っているものもあるが、シリコンバレーの合言葉「世界を良くする(make the world a better place)」からはかなり遠い感がある。

ウーバーに反対するデモ

コロンビアで起きたUberに対するタクシー運転手のデモ。既存のタクシー業界からの反発に加え、ドライバーからの評判も良くなく、Uberは「本当に人のためになっているのか」と疑問を持つ人が出始めている。

REUTERS/Jaime Saldarriaga

もっと本格的な技術力と破壊的な影響を持つ企業としては、例えば「ライドシェア」のUber(ウーバー)があるが、CEOのセクハラ事件やユーザー情報漏えいなどのスキャンダルに次々と見舞われている。

既存タクシー業界に嫌われるのは当然としても、ドライバーからの評判も悪い。先週も、ライバルのLyft社の車を利用して、運転手と雑談していたら、「以前はUberも運転していたが、売り上げ増加がドライバーには全く還元されない。運転手を人間として扱わない。あの会社はひどい」と散々であった。それまで「タクシー空白地帯」だった地元サンフランシスコでは確かに歓迎されるサービスであるが、その外では「本当に人のためになっているのか」と疑問を持つ人も多い。

詐欺だと訴えられユニコーンから転落

もっと本格的に悪質なものとしては、バイオベンチャーのTheranos(セラノス)が有名だ。従来よりも画期的に安価に血液検査ができる方式を開発したとして、大手ドラッグストアチェーンのWalgreensと提携し、7億ドル近くを資金調達し、一時は「ユニコーン(企業評価額10億ドル以上の未上場企業)・ランキング」の上位に名を連ねていた。しかし、2015年から2016年にかけて、同社の技術が疑問視されるようになり、実際には検査をほとんど外注していたことが暴露されて、「詐欺」だといくつもの訴訟を起こされ、ユニコーンから転落した。

Uber創業者のトラビス・カラニックも、Theranos創業者のエリザベス・ホームスも、「強気・ワンマン」で知られ、いったんケチがつくと叩かれやすいキャラクターであったことも火に油を注いだ。

自動運転車

AIと自動運転ブームも「雇用が奪われるのではないか、人の幸せにつながるのか」という論調が根強い。

Zapp2Photo / Shutterstock

実際には、企業向けのソフトウエア・サービスやインフラ、サイバーセキュリティーなど、地道によい技術をもつベンチャーも多いのだが、一般消費者から見えるもので大きな影響を持つ、またはその可能性を秘めたベンチャーが、最近とんと出現しない。

シリコンバレー的には現在は「AIと自動運転ブーム」と言ってよいが、(実態はともかくとして)「雇用が奪われるのではないか、本当に人の幸せのためになるのか」という論調が根強い。iPhoneが出たときや、Facebookが爆発的に広がった頃のような、「一部批判もあるが、多くの人が楽しい・よいと思う」楽天的な雰囲気とは違う、曖昧な気分が漂う。

「一攫千金」がトランプ政権からも狙い撃ち

2016年の大統領選でトランプが選出された時点ですでに、シリコンバレー人は「外の人たちはこれほど怒っているのか」と愕然とした。そして、一般的には「お金持ち優遇」といわれるトランプの共和党政権の下でも、「シリコンバレーの成金のヤツラ」を叩く気分は続いている。

ドナルド・トランプ氏

最終的には葬り去られたが、トランプ政権下で提案されたストックオプション課税に関する法改正は、シリコンバレーを震撼させた。

Jonathan Ernst/Reuters

少し前、トランプ政権の目玉政策である「税制改革」が検討されている中で、「ストックオプション」課税に関する法改正が提出された。結局は葬り去られたが、この法案にシリコンバレーは一時震撼した。

現在は「オプションを行使するとき(excercise時)、すなわち実際に株を買うとき」に課税するのだが、これを「オプションを受け取ったとき(vesting時)」に変更するというのが最初の案だった。

オプションは「株を買う権利」なので、受け取るときに実際には株は手元にない。「行使する」ときならば、入手した株を売れば現金が手に入って税金を払えるが、「受け取る」ときでは、現金持ち出しで税金を払い、株価がその後上がらなければ紙くずとなり、税金分がまるまる損になってしまう。オプションの数によっては、たいへんな税負担となる。

シリコンバレーのベンチャーは、現金の代わりに、ストックオプションを給与の一部として従業員に与え、将来株価が上がれば多額の報酬が手に入り、株価が上がらなくてもゼロになるだけで損はしない、というのを魅力として人を雇っている。もし最初の案が通ってしまったら、実質上オプションが使えなくなり、従業員が雇えなくなってしまう。当然のことながら、シリコンバレー勢からは大反発が起き、ロビイング合戦の末、結局法案には盛り込まないと11月15日に決定した。

なんとか法制化は免れたが、このような案が出てきたこと自体、従業員に至るまで「一攫千金」が見込めるベンチャーの仕組みが標的になったことを示唆している。

今のところ、ベンチャー資金量はやや減速気味とはいえ、それほど景気は悪くない。アメリカの将来を開くイノベーションの担い手はやはりシリコンバレー、との認識も決してなくなっていない。

しかし本来、シリコンバレーは「一攫千金のゴールドラッシュ気質」と、「ヒッピー的なユートピア・理想主義」が渾然一体となっている土地柄なのに、最近は前者ばかりが強くなっている感がある。私も、最近は2000年のバブル後の「お金目当ての人が去った静かな時期」を懐かしく感じるようになってきた。

シリコンバレー内部の人で、現状に警告を鳴らす人も多い。シリコンバレー人は、なんとかバランスを戻すように頑張らなければいけないと思う。

(文中敬称略)


海部 美知(かいふ・みち):ENOTECH Consulting CEO。経営コンサルタント。日米のIT(情報技術)・通信・新技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。

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