近年、重症化すれば心臓や脳にダメージを与える恐れもある性感染症の梅毒感染者数が増加している。国立感染症研究所は11月28日、2017年の梅毒の感染者が19日までの報告で5053人(速報値)になったと発表した。5000人を超えたのは1973年以来、44年ぶり。
これを受けて、葛飾区議会議員の鈴木信行氏はTwitter上で、梅毒感染者が増えたというニュース記事を引用しながら、「誰が日本に持ち込んだか分かるじゃん。一番日本に来ている外国人の支那人だよ」とツイート。
本当に梅毒感染者の増加と訪日中国人の増加は関係あるのか? Business Insider Japanでは専門家に取材した。
訪日中国人は2014年以降大幅に増加している。
REUTERS/Yuya Shino
「人種差別的」発言は窮地を招く
鈴木氏は28日、自身のツイッターで、「日本の「梅毒」流行は「爆買い」が一因だった!?」というNAVERまとめの記事や、訪日外客予測と梅毒感染者の報告件数を表したグラフを比較しながら、「このグラフを見比べると、訪日支那人(中国)の数値と梅毒患者の増加が符合するよな」とツイートし、梅毒感染者の増加と訪日中国人の増加の関係性について指摘。
誰が日本に持ち込んだか分かるじゃん。一番日本に来ている外国人の支那人だよ。
— 鈴木信行@葛飾区から外国人生活保護廃止 (@ishinsya) November 28, 2017
梅毒の感染者、今年5000人超す…44年ぶり https://t.co/ETPyFkuoOK
このグラフを見比べると、訪日支那人(中国)の数値と梅毒患者の増加が符合するよな。 pic.twitter.com/IBV0j1z4Ry
— 鈴木信行@葛飾区から外国人生活保護廃止 (@ishinsya) November 29, 2017
これに対し、世田谷区議会議員の上川あや氏は「下手したら辞職勧告決議案レベルのtweet。明らかに根も葉もない人種差別発言を議会人がすることが、どんな窮地をみずからに招来する可能性のあるのか、ご存知ない。」と批判、上川氏のツイートは3000以上リツイートされ話題になっている。
うっわー。この外国人生活保護廃止を訴える新人議員さん。下手したら辞職勧告決議案レベルのtweet。明らかに根も葉もない人種差別発言を議会人がすることが、どんな窮地をみずからに招来する可能性があるのか、ご存知ない。売名の炎上目的?政治の素人さんというのか、怖いもの知らずというのか… pic.twitter.com/dPoXFtdvMD
— 上川あや 世田谷区議会議員 (@KamikawaAya) November 29, 2017
専門家は「訪日客増加」説を否定
感染症に詳しい谷口恭・太融寺町谷口医院院長は、訪日客の増加は関係ないと説明する。
「訪日客が梅毒の感染源という『説』は私も聞いたことがあるが、もしもそれが正しいなら、他の性感染症も増えていなければならないが、そのような事実はなく、むしろ全体的に性感染症の罹患者数は減少傾向にある」
実際、国立感染症研究所が発表している「感染症発生動向調査」によると、確かに梅毒感染者は増加しているものの、性感染症全体では減少傾向にある。
「梅毒」以外の感染者はここ10年でほぼ変わらないか減少傾向にある。
提供:谷口恭院長
同医院では、過去10年で梅毒の罹患者数に変化はないという。外国人からの感染は以前からあるが、それは海外で感染した事例であり、訪日客からの感染という例は一例もないという。
感染経路についても、「感染しているのは“普通の”日本人の男女。感染経路は性的接触がほぼ100%」だという。感染者数の増加については、
「最大の理由は、『医師が見逃さなくなったから』ではないか」(谷口院長)
梅毒は無症状のことも多く、今までは自然治癒や別の抗生剤を飲んで治る「意図せぬ治療」をしていたが、「梅毒が増えている」というニュースを聞いた医師が積極的に梅毒の可能性を考慮するようになり、きちんと届け出しようと考えるようになった可能性が高いという。
一方、こうしたニュースを見て、「自分もかかっているかもしれない」と考え、検査を受ける人が増えたケースも考えられるという。厚生労働省も近年積極的に啓発をしており、「早期発見すれば治療と感染拡大防止につなげられる。不特定多数との性行為など、気になる人は早めに受診してほしい」と呼びかけている。
梅毒感染者は東京都が最も増えており、年齢別にみると最も増加率が高いのは20代女性だが、感染者数は男性が圧倒的に多く、30〜40代の男性が最も多い。感染者は2013年以降に急増しているが、国立感染症研究所は2014年の報告書で梅毒のみ感染者が増えている理由として、男性の同性間性的接触感染をあげている。
「梅毒は近年、10~40代の男性同性間性的接触感染が急増してきている。これは異性間性的接触による感染者が多くを占めるとされる性器クラミジア感染症や淋菌感染症が増加していないこととは、対照的である」(報告書より)
同様に、2015年の報告書によると、先進国を中心に男性と性交をする男性(MSM)が梅毒に罹患しているケースが増えているという。中国でもMSMにおける梅毒とHIV感染の増加が報告されている一方で、性産業に従事する女性の梅毒罹患率が低下したとの報告もある。2015年以降は異性間の性交による罹患の割合も増えてきている。
国立感染症研究所の担当者は東京新聞の取材に対して、「増加の要因で国籍が関係しているなどの分析はない。ツイートの内容はデータに基づいていない。その人の思い込みではないか」とコメントしている(「東京新聞12月2日朝刊」より)。
こうした分析を踏まえると、訪日中国人の増加が原因だとする根拠はなく、谷口院長が指摘するように医師の報告率の高まりと潜在的患者が積極的に受診するようになってきた可能性が高い。
鈴木氏は「どこか特定の国に原因がある」
ではなぜ鈴木氏は、「訪日客の増加」が原因、というツイートをしたのか。Business Insider Japanの取材に対し、こう説明した。
「梅毒感染者のグラフを見ると、 訪日中国人の伸び具合とちょうど符合する。中国人は大陸国で環境も悪いため身体の免疫が強く、その中国人が『爆買い』で日本に来て、性風俗を利用して日本人の若い女性が感染している。これは私だけが言っているのではなく、医師で言っている人もいる」
鈴木氏は11月29日、「興味深い記事です。是非ご覧ください」というコメントと併せて、日刊スポーツの記事「梅毒急増は中国の訪日客増加が関係?/性感染症連載」をツイッター上で紹介している。
中国における梅毒患者は、日本をはるかに上回って増えています。中国国家衛生・計画出産委員会のホームページでは台湾、香港、マカオを除いた患者数が43万3974人、死亡者は58人です(2015年)。中国の総人口は日本の約11倍ですが、梅毒患者は160倍。その流行には驚かされます。こうしたことから、中国からの訪日客の影響で日本の若い女性に梅毒患者が増えた。そして日本での感染が増えたという可能性が十分あるわけです
東京・西新宿の性感染症専門治療「プライベートケアクリニック東京」名誉院長 尾上泰彦医師
性感染症の患者自体は減っているという指摘に対しては、「専門的な内容は分からず、細かいところは今後調べていかないといけないが、梅毒感染者は今まで減っていたのに急に増えた。やっぱりそれはどこか特定の国に原因があるのではないか」と回答。
感染者の中でもっとも多いのが30〜40代の男性であることについて聞くと、「中国人が性風俗を利用して、若い女性が感染し、それが日本人男性にもうつっている」と説明した。
鈴木氏は、過去3度参議院議員選挙に立候補したが、全て落選。11月13日に行われた葛飾区議会議員選挙では、「外国人の生活保護廃止」を公約に掲げ無所属で立候補し(日本第一党推薦)、2587票を獲得、初当選した。鈴木氏を推薦した日本第一党は、もともと在特会(在日特権を許さない市民の会)初代会長である桜井誠氏が立ち上げた政党である。
鈴井氏も「侮辱には反撃を、韓国には鉄槌を。」と書かれた自身のブログで、「竹島」について積極的に取り上げ、2012年には在韓日本大使館前に設置された慰安婦少女像に「竹島は日本の領土」と記した杭を縛りつけて、慰安婦被害女性たちの名誉を傷つけた容疑で書類送検されたことがある。11月28日に公開した「韓国籍を捨て日本に帰化する韓国の若者!君たち迷惑だよ!!」というタイトルのブログでは韓国を「火病韓国」と呼称し、「日本国内の特別永住者が減少傾向にあるのに、新しく火病韓国から朝鮮系日本人が輸入されたのでは、もっと悪い方向に向かっているではないか」としている。
(文・室橋祐貴)