ためになるけど分かりにくい「デザイン思考」、東大卒の元商社マンが漫画化

デザイン思考イメージ

デザイン思考はプロセスが多く、全体の流れを把握しにくい。

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イノベーションを起こすためのプロセスとして、シリコンバレーのデザインファームIDEOが体系化した「デザイン思考」。日本でも数年前から企業研修や大学のカリキュラムなどに導入が進んでいるが、「抽象的で分かりにくい」「面倒くさそう」と敬遠する声も少なくない。その分かりにくさを、日本のお家芸とも言える漫画を使って解きほぐそうという試みが『まんがでわかるデザイン思考』。

手がけたのは、ビジネス書のイメージとは遠い小学館。果たして、漫画の力はどこまで理解を助けるのか。

等身大の主人公通じて全体の流れ追う

これまでも漫画は、とっつきにくい内容を身近な存在に変換するツールとして、歴史小説や学習参考書など、幅広いジャンルで活用されてきた。大人向けの実用書を漫画にする流れをつくったのは、2009年に出版され大ヒットした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』。同書は漫画ではなく、ライトノベルの作風を盛り込んだ小説だったが、ビジネス書の読者層を広げる手法として認識され、ビジネス・自己啓発・教養コミックというジャンルが確立。自己啓発書『7つの習慣』を解説した『まんがでわかる7つの習慣』などヒット作も生まれた。

ただ、こういったジャンルを手掛けるのはビジネス書が得意な出版社が中心で、『ドラえもん』や『名探偵コナン』などの国民的作品を輩出してきた小学館は、大人向けの書き下ろし実用コミックをあまり手掛けてこなかった。コミック誌出身の編集者が学芸書担当に異動したのを機に、2017年から2018年にかけて、同ジャンルで5、6冊の出版を企画。「まんがでわかるデザイン思考」はその1冊だ。

まんがの中身さし

『まんがでわかるデザイン思考』の一場面。主人公の成長ストーリーにデザイン思考を組み合わせている。

C)小田ビンチ・坂元勲/小学館

担当編集者の畭(はり)俊之さんは、「デザイン思考は、直球のビジネス分野であり、解説書なども多く出ています。しかし、プロセスが非常に多く、複雑なためか、全体の流れを俯瞰できるような書籍が見当たらないと感じたのが、企画のきっかけです」と語る。

東大出身、元商社マンの漫画家がシナリオ担当

デザイン思考は「着想」「発案」「実現」の3つのステップを通じ、イノベーションを創出する手法だが、各ステップにも「ブレインストーミング」「プロトタイピング」など、より細分化された手順が存在する。また、単独でできることもあれば、グループ作業に向いていることもあり、全体を直感的にとらえるのは容易ではない。そこで、作品では、「自分と同じかそれ以下の目線で、デザイン思考の流れを追体験できるよう」(畭さん)カフェチェーン企業に勤める25歳の男性社員が、万年赤字店舗の店長を命じられ、デザイン思考を活用して立て直しに取り組むストーリーにした。

シナリオは東京大学卒業後、商社勤務を経て漫画家に転身した小田ビンチさんが担当。作品に登場する課題や発見には、小田さんのサラリーマン時代の体験も反映されている。

thinking

同書を監修した田村大さん(リ・パブリック共同代表)は、IDEOと2000年代初めから協業し、デザイン思考を日本で広めた一人。イノベーションの実践教育を行う 東京大学i.school の共同創設者でもある。

ビジネス思考を「21世紀の必修科目」と形容する田村さんは、「デザイン思考の概念を紹介する書籍やセミナーは多くあるが、自分の仕事にどう生かすかを学びたいという具体的なニーズに対応できる本が日本には見当たらなかった。この本は、サラリーマン店長とカフェという分かりやすい舞台を設定することで、ビジネスマンが手に取りやすい一冊になっている」と語る。

イノベーション成否の鍵は「客のおじいさん」

田村さんによると、作品中で客として登場し、主人公をサポートする「文房具会社会長のおじいさん」が、デザイン思考の成否の鍵を握るキーマンだという。

主人公がステレオタイプ的な見方をしたときや、アイデアが尽きて袋小路に入りかけたとき、「おじいさん」はどこからともなく現れて、主人公が見落としているものについてヒントを与える。

優れたデザイナーは観察の達人で、常に観察しています。デザイン思考でも最も重要なプロセスは観察なのですが、普通の人は『観察してください』と言われても、自分が既に持っている思考に当てはめて解釈したり、当たり前のこととして見過ごしたりしがちです。だから、デザイン思考の実践にあたっては、この作品のおじいさん的な助言者が不可欠です」と田村さん。

例えば、「カフェを経営する」という課題を与えられたときに、デザイン思考は「カフェとは何か」から考えていく。その点が、「人気カフェの共通点を調べて、いいとこどりをする」というような、従来のロジックに基づいたオーソドックスなやり方と大きく異なるという。

「日本企業はイノベーションも自分の組織だけで取り組もうとしますが、そうすると既存の枠を超えた発見には至らず、『デザイン思考は使えない』という結論になることも少なくありません」

作品にはレストランで働く同僚たちや、試行錯誤を否定する上司も登場する。編集者の畭さんは、「主人公だけでなく、自分の周囲にいそうな登場人物を追うことで、イノベーションの推進に必要な条件や、それを阻むハードルも可視化できるかもしれません。デザイン思考を学びたい人だけでなく、敬遠していた人にも読んでもらえれば」と語った。

(文・浦上早苗)

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