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マネックス、ライフネット、マネフォ…投資家・谷家衛がマネーゲームの終わりに仕掛ける3分野

谷家衛(たにや・まもる)は、日本がバブル経済の全盛期だった1980年代、「ウォール・ストリートの帝王」と呼ばれた米投資銀行のソロモンブラザース(Salomon Brothers)でアジアの投資責任者として働いた。ソロモンが得意としていた金融工学を駆使した取引手法を使って、債券トレーディングに明け暮れる日々を送った。

その後、米チューダーインベストメントの日本拠点を設立。1990年代後半に起きたアジア通貨危機が過ぎ、2000年代に入ると、谷家はチューダーのMBO(マネジメント・バイアウト=経営陣が株式を買い取る、企業買収の一つ)を行い、投資顧問のあすかアセットマネジメントを創り、さらに投資のアクセルを踏み込んでいく。

ニューヨーク証券取引所

REUTERS/Brendan McDermid

投資家として今までに資金を投下してきた国内外の企業数は100を超える。投資してきた総額や損失額を聞かれれば、「巨大な額になるだろうけど覚えていない」と答える。

マネックス証券、家計簿アプリのマネーフォワードライフネット生命、ロボアドバイザー「THEO」のお金のデザイン、クラウドファンディングのCAMPFIRE、軽井沢のインターナショナル・スクールUWC ISAK.....。

2017年11月、都内にある谷家のオフィスを訪れ、2つのテーマで話を聞いた。

現在、東京と香港を行き来する谷家は、どんな哲学の基にベンチャー投資をしてきたのか?そして、ライフスタイルや働き方、価値観が多様化し、低成長経済が続く日本で、これからどんな企業に資金を投下していくのか?

谷家衛氏

谷家が投資家として今までに資金を投下してきた国内外の企業数は100を超える。

Business Insider Japan


信じてきた金融工学の崩壊と親友・松本氏の誘い

Business Insider Japan(BI):30年の間、投資家としての谷家さんに一番影響を与えたことは?

谷家: 金融工学の崩壊とベンチャー投資を始めたことですかね。ソロモンがシティグループに買収されたのをきっかけに、ソロモンを辞めて、アメリカのヘッジファンド、チューダーを日本に持ってきました。そこでトレーディングを拡大しようと思っていたのですが、ロシア危機が起きました。僕が尊敬していた上司のジョン・メリウェザーさんが作ったヘッジファンドのLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破綻しました。金融工学をずっと信じてきてやってきたんですけど、 金融工学が全く通じない時代になりました。

ロシア危機:1998年にロシア通貨のルーブルが暴落。ルーブル建ての国債の債務不履行などへと連鎖した経済危機。1990年代にロシアは市場経済への移行を進めていたが、石油や天然ガスなどの資源輸出に大きく依存していたため世界の景気動向に大きく影響された。

ジョン・メリウェザー:元ソロモン・ブラザーズの債権トレーダーで、1980年代後半には副会長にまで上りつめた人物。その後、ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(The Long-Term Capital Management=LTCM)を設立し、高い運用成績を収めて市場の注目を集めた。しかし、1998年のロシア危機の影響を受け、LTCMは同年に破綻した。

松本大氏

マネックスへの投資がきっかけで、谷家はベンチャー投資をするようになった。(写真は松本大氏)

REUTERS/Lucas Jackson

谷家:そんな時に、僕の親友でマネックスの松本(松本大氏:マネックス証券を設立し、現在マネックスグループCEO)からマネックスに投資しないかと言われましたた。それがきっかけでベンチャー投資をするようになったんです。

BI:松本さんとは以前から?

谷家:ソロモン・ブラザーズの同期なんです。彼は3年くらいソロモンにいて、ゴールドマン・サックスに行き、最年少でパートナーになったんです。彼がマネックスを作って、それで途中で投資しないかと誘われて、チューダーから投資をしました。

松本大(まつもと・おおき):1987年から約3年間、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券で働く。1990年にゴールドマン・サックスに入社すると、4年後にはゼネラルパートナーに昇進する。1999年4月にマネックス(旧マネックス証券)を設立する。その後、カカクコムやユーザベースの取締役なども務める。

「いい起業家に賭けることは、アップサイドが無限」

BI:90年代後半の金融危機とマネックスへの投資は、谷家さんにとってある意味、ターニングポイントだった?

谷家衛氏

「いい起業家に賭けるというのはダウンサイドが限られていて、アップサイドは無限」と語る谷家。

Business Insider Japan

谷家:そうですね。松本に投資をして、いい起業家に賭けるというのはダウンサイド(下振れするリスクまたは損失するリスクの意)が限られていて、アップサイドは無限で素晴らしいなと思うようになりました。さらに他の投資に比べて、 良い起業家に投資することは、自分も少し一緒にやっているように思えて、大きな喜びがありました。

僕は金融工学からきていて、今では信じられないですけど、すごく細かかったんです。1ベーシスポイント*の半分とか、1ベーシスポイントは1万分の1ですけど、その半分の利益を取る取引をやっていたんです。今はもうすっかり忘れてしまいましたけど、計算がとても得意でした。(*ベーシスポイント=0.01%。債券の利回りや、金利の変動に使われる単位)

ベンチャー投資も最初はビジネスモデルや市場の大きさを徹底的に分析したりしてました。でも、ビジネスモデルや市場の大きさにかけた案件はことごとくうまくいきませんでした。結局、よく知っているマネックスの松本や、惹かれた人たちに投資した方がうまくいった。そこで思うのようになったのは、誰がやるかに尽きるんだということ

谷家衛氏

「(経営者の)個性を社会の基準に関係なく表現できる会社は、すごく面白い会社になる」と話す。

Business Insider Japan

BI:投資家としての谷家さんが考える良い企業とは?

谷家: その人の個性を思いきり出せない限り、良い会社も良い学校も作れないと思うんです。答えはなくて、その人(経営者)の個性を社会の基準に関係なく表現できる会社はすごく面白い会社になると思います。常に中心にいる人たちの個性が伸びるように一生懸命応援するようにしています。

エンジェル投資をした時に、求められればアドバイスをします。だけど、「 僕の意見は参考にして 、最後は自分で決めて」という風にしています。やっぱり自分のやり方があるし、その事業について一番真剣に考えているのは経営陣だから。

マクロで伸びる分野にいる

BI:谷家さんが今までやってこられた投資哲学は?

谷家:誰がやるかに尽きるということと、マクロで伸びる分野に投資するということです。マクロで伸びる分野は3つに分けています。

1つ目は、今もこれからもやっていこうと思っているインドや中国での投資です。需要がどんどん増えるけど、そこにまだインフラが整っていないエリアです。これから成長する市場で、需要の拡大にマッチするモノやサービスを提供できる会社ですね。北京のショッピングモールに投資したり、清華大学とのジョイントベンチャーで下水処理場の運営会社をやったりしました。

当たり前かもしれないけど、マクロ経済で伸びる分野にいることは必要だと思ってます。どんな天才もマクロには勝てないと思います。

BI:マクロは定量的にいくら分析しても不確実だし、何が起きるかわからないということですか?

谷家:と言うか、時代の流れ、経済の流れはありますよね。自らの国で中産階級がどんどん増えて、需要が増える中でやっている企業と、ある程度できあがった市場でやっている企業では、置かれているポジションが全く違いますよね。

日本の高度経済成長期に現れた松下幸之助や本田宗一郎、盛田昭夫みたいな偉大な起業家はこれから、中国やインドから多く出てくるだろうと思うし、それは自然なマクロの流れだと思うんです。今から日本で繊維業をやろうとしても、簡単ではないですよね。マクロで成長する分野や場所にいないと、事業や企業をスケーリングすることはより難しいですよね。

インドの街並み

谷家衛が注目する3つの投資分野の一つがインドや中国での投資。(写真:インドの街並み)

REUTERS/Jayanta Shaw

既得権益破壊型とポスト資本主義型

谷家:二つ目は、 日本のように高齢化して人口が減っていくという中では、どうしても供給が過剰になってきます。そんな環境では、既得権益を壊すような企業ですよね。最初にやったのはライフネット生命です。オンライン銀行やオンライン証券が始まったから、オンライン生保も必ず現れる時代が来ると思って、出口さんや岩瀬君を誘って、ライフネット生命の立ち上げを行いました。

ベンチャーキャピタルの立ち上げも手伝いました。松山太河君と衛藤バタラ君がイーストベンチャーズ(East Ventures)を始める時、彼らはまたといない素晴らしい才能だと思い、立ち上げの応援をしました。最近はIDEOや高野さんと一緒にD4Vを立ち上げました。

出口治明:ライフネット生命・創業者。京都大学を卒業後、日本生命に入社する。ロンドン現地法人の社長を務めた後、2006年にライフネット企画(ライフネット生命の前身)を設立。出口氏は2006年、知人を介して谷家氏と出会い、理想の保険会社像を語る。谷家氏の賛同を受け、出口氏は起業を決意。(ライフネット生命HPより)

岩瀬大輔:ライフネット生命・取締役社長。東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパンを経て、ハーバード大学経営大学院に留学。2006年に、谷家氏の仲立ちで、岩瀬氏は出口氏と出会う。(ライフネット生命HPより)

松山太河:ベンチャーキャピタルのイーストベンチャーズ(East Ventures)の共同設立者。早稲田大学に通いながら、ヤフージャパンの立ち上げに参画し、卒業後はアクセンチュアに入社。イーストベンチャーズは、東京、ジャカルタ、サンフランシスコにオフィスを持ち、アジアとアメリカを中心に150以上の企業に投資している。

衛藤バタラ:インドネシア出身。元ミクシィ取締役で、現在イーストベンチャーズ・代表取締役。

BI: それでは、低成長の経済が続く日本において、既得権益をディスラプトするテクノロジー以外で、谷家さんが注目している3つ目の投資領域は?

日本の子供達

高齢化、人口減少、供給過剰の日本で谷家が投資を拡大している領域が、既得権益・破壊型企業。

REUTERS/Issei Kato

谷家西洋的なモダンキャピタリズムは、経済の生産レベルが低い発展途上国で、全体を上げるためには良い仕組みだけれど、日本のような成熟国だと機能しないことが多くなってきています。キャピタリズムは国の底上げには効果を発揮するけれど、成熟してくるといろいろなところで格差という副作用が生じてきますね。それは収入であったり、知識であったり。

日本は西洋的なモダンキャピタリズムで経済が大きくなって、国は豊かになりました。しかし、格差が広がった今の社会ではもう一度、東洋的あるいは女性的な価値観が必要とされてきていると思います。いよいよ、社会の質を全体的に向上させる必要が高まってきていると思います。

個人として、新しいポスト資本主義みたいなものを作ろうしている考えや事業に興味があります。例えば、2人の共同創業者と一緒に創ったCampus for Hという会社は、マインドフルネスの概念をコアにしているベンチャーです。ヨガスタジオのスタジオ・ヨギー(studio-yoggie)では10年以上前からオーナー会長として活動しています。

マインドフルネスは禅と極めて似ているし、ヨガとかが見直されているのもその現れだと思います。Campus for Hでやろうとしている医食同源みたいな東洋的価値観ももう一回見直されつつある。そっちの方向の方がより多くの人が幸せになれると思います。

ロボアドバイザー「THEO」のお金のデザインや、家ちゃん(家入一真氏)のクラウドファンディングのCAMPFIREもポスト資本主義の範疇に入ると思っています。今までは富裕層だとか一部の人たちにしか届かなかったサービスを、できるだけ多くの人に届けようというものですよね。

家入一真:29歳でインターネット関連サービスの会社、paperboy&co.を上場した。以来、EコマースのBASEや、モノづくり集団のLiverty、CAMPFIREなどのベンチャー企業や事業を立ち上げた連続起業家(シリアル・アントレプレナー)。

東洋的価値観の必要性

BI:「資本主義では問題解決できない」。谷家さんが言われると説得力がありますよね。

谷家:昔はお金儲けばかりやってましたもんね。投資銀行からヘッジファンドと。でも、今はそれだけではないです。

谷家衛氏

「昔はお金儲けばかりやってましたもんね。今は、ポスト資本主義の分野に投資をしたり、自分で創っていくことに今はすごく関心があります」(谷家衛)

Business Insider Japan

軽井沢で作ったインターナショナル・スクール「UWC ISAK」でも、マインドフル・リーダーシップというのを導入しています。禅の考え方を西洋的・科学的に再現したものだと思っていて、自分にとって何が本当に大切なのかを考えるのはすごく大事だと思っています。

あるいは、感情が湧くのはどうしようもないし、誰でも一緒だと思うんですけど、そのあとどの感情が自分にとって大事なのかを考えてみて、その感情にフォーカスすることはすごく大事だと思っています。

ポスト資本主義の分野に投資をしたり自分で創っていくことに今はすごく関心があります。

【谷家衛が直接またはファンドや投資会社を介して投資した主な企業】

  • マネックス
  • ライフネット生命
  • 保険の窓口
  • マネーフォワード
  • お金のデザイン
  • CAMPFIRE
  • UWC ISAK(インターナショナルスクール・軽井沢)
  • スタジオ・ヨギー(studio-yoggy)
  • Campus for H

(文・佐藤茂、野中利紗)

(敬称略)

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