2018年、日本のIPO市場(IPO=Initial Public Offering=新規株式公開)は大型ベンチャー企業の上場が予想されており、戌(いぬ)年ながら「ユニコーン元年」と称される年になりそうだ。
市場の期待に答える新規上場が実現されれば、eコマースや仮想通貨、インバウンドなど日本の成長産業を代表する企業が、マーケットにデビューすることになる。
2018年はグローバル市場を目指していくつユニコーンが上場にこぎ着けることができるだろうか。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
100億円超のユニコーンは日本に約20社
フリーマーケットアプリを運営するメルカリは、日本ではまれな評価額が10億ドル(約1100億円)を超える未上場スタートアップ、「ユニコーン」だ。2017年中の上場を計画していたが、2018年後半にいよいよデビューすると市場関係者は期待する。市場の中では、上場時の時価総額は1000億円をはるかに超えるとの見方もある。
海外では企業価値が10億ドル(約1100億円)を超えるユニコーンは珍しくないが、国内では企業価値が100億円を超えるベンチャー企業は20社超と言われている。これらの大型ベンチャー企業がさらに成長し、2018〜2020年に上場を果たしていくだろうと話すのは、新日本有限責任監査法人(Ernst & Young ShinNihon)・企業成長サポートセンター室長の鈴木真一郎氏。
「2018年は日本のユニコーン元年となる。多くのスタートアップが大型資金調達を成功させ、グローバル市場を目指すユニコーンが誕生する1年になることが期待される」と鈴木氏は言う。
メルカリHPより
メルカリは2016年3月に約84億円の資金を調達して、海外事業の拡大に向けてアクセルを踏んだ。1年後にはイギリスでアプリをローンチし、アメリカに続く海外展開を広げた。アプリのダウンロード数は2017年12月16日時点で1億を突破し、わずか2年でその数は10倍に膨れた。
メルカリの山田進太郎会長は2017年12月、Business Insider Japanの取材の中で次のように述べている。
企業がある程度、大きくなると社会的な責任が出てきます。 単純に自分たちのお客様と自分だけでなく、社会的な一部に組み込まれ、社会の公器になります。株式市場にいることで、適切な会社へのフィードバックが受けられると思っているので、しかるべき時期が来たら上場した方が良いと考えています。(山田進太郎・メルカリ会長)
フリマアプリなどeコマースの拡大は、消費者の購買方法と物流の流れを変え、物流業界にも大きな影響を与えている。モノの流れが変われば、金の流れも変わる。2017年の最大のIPOは12月に上場した佐川急便を傘下に持つSGホールディングスで、上場日の時価総額は6000億円を超えた。
高速バスから移動ソリューション会社へ
低成長経済が続く、高齢化大国・日本で、規模を拡大している市場の一つが「インバウンド関連市場」だ。訪日外国人客の数は年間で3000万人(2017年12月28日現在)を超える勢いで、安倍政権が目標とする4000万人に着々と近づいている。
2017年、海外でも人気を集める日本の寿司とラーメンは、その需要の強さが後押しし、回転寿しのスシローと博多ラーメンの「一風堂」を展開する力の源ホールディングスが東京証券取引所に上場した。
WillerのHPより
そして、市場が2018年、上場の可能性が高いとして注目している1社が、大阪市に本社を構える高速バスのWiller(ウィラー)だ。
創業1994年と20年以上の歴史があるウィラーは、ピカピカのベンチャー企業ではないが、ピンク色の高速バスで知られる「Willer Express」を全国で展開して収益を伸ばしてきた。売上高は2016年12月期で175億円、ウィラーグループの社員は700人を超える。
ウィラーは高速バスの運営にとどまらず、ユニークな移動ソリューションを展開している。例えば、2階建ての「レストランバス」に乗れば、地方に点在する酒蔵や美食家が好む野菜の畑を回ることができる。バスの1階ではシェフがローカルの食材を使って料理を作り、客は2階席で舌鼓を打ちながら日本の食と文化を経験できる。
海外事業も手がけるウィラーは2018年、「Willer Vehicle(ウィラー・ビークル)」という名のサービスを台湾やベトナムを中心に本格化させる。特別に開発したウィラー・ビークルには運転手がつき、コンシェルジェとオンラインで会話をしながら、旅に出かけられる。コンシェルジェは多言語に対応するという。旅行者にとっての課題である言葉と交通を解決するサービスとして始めたという。
ビットフライヤーが株式上場を検討
国境を越えてその利用が拡大し、価値は2017年の1年間で一時20倍に膨れ上がり、世界が注目し続けているのがビットコインを中心とする仮想通貨だ。日本でも、仮想通貨の取引所を運営するbitFlyer(ビットフライヤー)やCoincheck(コインチェック)が取引量と認知度ともに上がってきている。
bitFlyerのHPより
そして、国内最大の取引所を誇るビットフライヤーが株式上場の検討を始めた。事情に詳しい関係者によると、同社は上場の準備を進めており、早ければ2018年中の可能性もある。ビットフライヤーは2014年1月に設立。米投資銀行のゴールドマン・サックスで決済システムの開発をした経験を持つ2人のエンジニアによってつくられたベンチャーだ。
ビットフライヤー・CFOの金光碧氏は、「ビットフライヤーにとって上場の意義は大きいと考えている」とBusiness Insider Japanの取材でコメントした。
ビットフライヤーの設立からわずか3年で、仮想通貨の普及は急速に進んでいる。ビットコインで買い物ができるeコマース・サイトが立ち上がるかと思えば、家電量販店はビットコインでの支払いをスタートさせた。東京・渋谷では、仮想通貨を保有する客が集うバーまでオープンした。
一方アメリカでは、シカゴ・オプション取引所(CBOE)とシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が2017年11月に、ビットコインの先物取引を始めた。そして翌月には、インターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)が先物取引価格に連動したビットコインの上場投資信託(ETF)を上場させるため、米証券取引委員会(SEC)に申請した。
メガベンチャーを育てる
「経営者の上場意欲は依然として旺盛だ」と言う鈴木氏は、2018年の上場企業の数は100を超えるだろうと予想する。
Business Insider Japan
2017年、国内の上場企業数は90に達したが、2018年は100社を超えるだろうと、鈴木氏は予想する。「株価動向にも左右されるが、経営者の上場意欲は依然として旺盛だ」とみているからだ。
過去10年で、日本のベンチャー企業へのリスクマネーは大幅に増加した。そして、日本のスタートアップが一度のラウンドで調達する資金規模は年々拡大している。
現に、宇宙開発のベンチャー企業「ispace」は2017年12月、総額約102億円の資金を調達したが、国内のシリーズAラウンドの調達額としては過去最高を記録した。
もちろん、年間投資額で見ればアメリカの約7兆円や中国の約2兆円に比ベれば、日本のベンチャーキャピタルは約1000億円と依然として小さい。
しかし、国内の大手企業がこぞって組成してきたコーポレートベンチャーキャピタルを含めると、日本のベンチャー投資額は今後、3000億円、5000億円、そして1兆円へと拡大していくだろうと、鈴木氏はみる。
その上で、「2020年以降のグローバル市場で、日本のベンチャー企業が競争するためには、リスクマネーの供給が飛躍的に増加することによって、1回のラウンドで100億円を超える資金調達ができるようなメガベンチャーを育てていく必要があるだろう」と加えた。
(文・佐藤茂、野中利紗)