シャープ、時価総額2兆円の実力は本物か? —— 東証1部復帰とホンハイ経営に期待と懸念

2016年8月に経営危機で東証2部に降格したシャープは12月7日、東証1部に復帰する。2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収を経て、105年の歴史を誇るシャープは債務超過を解消し、業績をV字回復させた。時価総額は、迷走を続けた東芝の倍の約2兆円まで拡大した。

シャープ

105年の歴史を誇るシャープは債務超過を解消し、業績をV字回復させた。時価総額は2兆円に迫る。

REUTERS/Toru Hanai

3期ぶりの営業黒字と東証1部への指定替えで、もともと2部銘柄を投資の対象から外している国内外の大口投資家の多くは、シャープ株を再び投資対象に戻し入れるだろう。当然、株価のさらなる上昇を期待する声が聞かれる一方で、市場にはシャープの持続的成長の可能性を疑問視する見方もある。

iPhoneなどの電子機器の受託製造(EMS)・世界最大手ホンハイの傘下で、シャープの事業基盤は株価高騰に見合うほどの強さを誇れるものだろうか?

10月27日、シャープは2017年度第2四半期(2017年4月〜9月)の決算を発表した。売上高は21%増加して1兆1152億円。経常利益は411億円を計上し、前年同期の経常損失から黒字転換した。

シャープの事業は4つのセグメントで構成されるが、売り上げの5割を占める事業基盤は、スマートフォンやタブレット、ゲーム用のパネルや液晶テレビなどの「アドバンスディスプレイシステム事業」だ。

シャープの収益推移

Stockclip

ホンハイのネットワークとシャープの独自性

ホンハイのグローバルネットワークを活用することで、シャープは液晶テレビの販売数量を中国や他のアジア諸国、ヨーロッパで拡大させた。アドバンスディスプレイシステム事業の売り上げは、前年同期比46%増加して5216億円となった。同事業に次いで増加率が高かったのが、スマートフォンやコードレス掃除機、調理器具などの「スマートホーム」事業だ。前年から10%増え、約2910億円となった。

シャープが中核事業の一つに置いている「IoT(Internet of Things)エレクトロデバイス」事業も堅調な伸びを見せた。スマートフォン向けカメラモジュールや、半導体、レーザーなどを扱う同事業は、販売数量の増加で売り上げは9%増の1922億円。そして、4つ目の柱であり、B to B事業である「スマートビジネスソリューション」は、海外で複合機の売り上げが増加するなどして、1627億円を稼ぎ出した。前年からは2%の増加となった。

シャープの復活のスピードは市場の当初の予想をはるかに超えていたと思う。国内の歴史ある数々の大企業が選択と集中を進め、事業の立て直しを図ってきているが、シャープの例はお手本になるのではないだろうか」と語るのはニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏。

鴻海(ホンハイ)精密工業の董事長、郭台銘(テリー・ゴウ)氏。

REUTERS

「内部技術者が高く評価され、魅力ある商品を開発しようとする意欲が高まらなければ、一企業が真の復活を達成することはできないだろう。そういう意味でも、シャープの内なる改革が進んでいると考えられる。ホンハイの世界ネットワークと、シャープが得意としてきたモノづくり文化がうまく重なり合ったのではないだろうか」と矢嶋氏は続けた。

株式アナリストの慎重論

一方で慎重な見方もある。SMBC日興証券で民生用エレクトロニクス分野を担当する桂竜輔アナリストは直近のレポートの中で、シャープの株価変動は、期待が先行して同社の復活を織り込んだ水準にあるだろうと述べる一方で、「下期(2017年10月〜2018年3月)から来期にかけての事業環境は厳しさが高まりつつある」と付け加えた。

桂氏は、小型パネルに続いて価格の下落が始まった大型パネルの価格動向は、シャープの今後の収益に影響を与える一要因として挙げている。加えて、「シャープは減価償却を上回る水準の投資を予定しているが、その中身と進捗は注目すべき」と述べた。

現に、シャープは第2四半期で事業拡大に向けて積極的な投資を行った。その結果、同社の「現預金」は9月末時点で4354億円となり、6月末時点の4660億円から減少している。計画では、シャープの今年度(2017年4月〜2018年3月)の設備投資額は1400億円となり、前年の780億円から倍増する。

また桂氏は、「ホンハイグループとの取引拡大やシナジー創出でいかに付加価値を創出するか、そして期待を現実にしていけるかに注目が集まる」と述べ、下期から来年度にかけてシャープの企業価値の真価が問われると説明している。

日立製作所やソニー、パナソニック、東芝など日本の電機メーカー8社の総従業員数は、2016年3月までの5年で約23万人の雇用が失われた。

REUTERS/Toru Hanai

2016年の運命の選択

2016年初め、ホンハイと日本の官民ファンド・産業革新機構は、シャープの買収をめぐって最終交渉を繰り広げていた。革新機構は当時、シャープと東芝傘下の白物家電事業を統合させて、日本のIoT開発の母体を作る構想を持っていたのだ。

革新機構が買収にこだわったのは、エレクトロニクス産業が国内で自動車に次ぐ雇用吸収力を持つ産業だったことも大きな理由だ。2016年3月までの5年間で日立製作所やソニー、パナソニック、東芝など日本の電機メーカー8社で約23万人の雇用が失われるなど危機感が募っていたからだ。

しかし、革新機構の構想が実現することはなく、エレクトロニクス業界自体も、8社(上述の会社に加えNEC、三菱電機、シャープ、富士通を含む)の年間売上の合算は2016年3月期で約45兆8000億円と、10年前の45兆7000億円からほとんど横這いのままだ。

企業再生に外部資本を活用して、海外の巨大な需要を取り込もうとするシャープは11月、同社の強みが商品の独創性と革新的なデバイスの創出だとして、挑戦する企業文化をさらに熟成させるとしている。ホンハイによる買収から1年が経った2017年は、シャープにとって再生から成長に転換する1年であった。2018年はさらに真価を見極める上で運命の年になるのは間違いない。

それは、停滞が続くエレクトロニクス業界にとっても、生き残りの道をどう模索するかという意味で示唆に富む1年にもなるはずだ。

(文・佐藤茂)

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