オフィス改革で減った残業と内定辞退 。増えた管理職の負担どう減らす?

グローバル事業用不動産企業のCBREの 日本法人東京本社では、社長を含む約600人のスタッフが、固定席を持たない働き方をしている。

2フロアに分かれた約3700平方メートルのオフィスには、従来型のデスクのほか、ファミレス風の座席やハイテーブルなど15タイプの作業スペースがあり、どこで仕事をするかは各人の自由。スタッフは1日平均4回、多い人は9回場所を替えるという。同社は2014年の本社移転に伴い、「働き方を変え、生産性を上げる」ためにこのようなオフィススタイルを導入した。実際に付き合い残業が減り、生産性も向上したが、旧来の働き方に慣れた社員たちの戸惑い、混乱も産み、今なお試行錯誤が続いている。

カフェで働く社員

オフィス内のカフェでコーヒーを飲みながら働ける。夜は社内イベントや勉強会の場にもなる。

「丸の内の一等地」に負けないオフィスを

「移転が決まって現地を訪れたとき、プレッシャーで体が震えました」

外注のインテリアデザイナーとしてCBREの新オフィスを設計し、完成とともに同社に転職したシニアディレクターの金子千夏さんは当時を振り返る。

ロビー

オフィスを入ったところにあるロビースペース。眼下には皇居前広場が広がる。

浜松町や埼玉など国内4拠点を統合した移転先は丸の内に立つ高層ビルの上層階。大きな窓の外には緑豊かな皇居前広場が広がる。

CBREはグローバルでは大手だが、日本での一般的な知名度は高くない。金子さんは、当時の社長から「日本で一流の会社として認められたい。プロフェッショナルな環境で社員に誇りを持って働いてほしい」の言葉とともに、「日本一のオフィスをつくる」という課題を与えられた。

日本の一等地という場所に負けない「日本一のオフィス」とは。導き出した答えが、「生産性を上げるオフィス」。そのためには社員の働きやすさを追求するべきだと考えた。

皇居ランナーのためのシャワースペース

2フロアに分かれたオフィスには、多様なワークスペースが配置されている。モニターが設置された机、立って仕事や打ち合わせができるハイテーブル、電話やプレゼンの練習に使えるガラスドアで仕切られた個室。さらには、誰にも声を掛けられたくないときに逃げ込めそうな壁を向いた椅子。広報担当の細田巌さんによると、ファミレスやカフェのようなカジュアルな席が人気が高いという。

人気座席

ファミレス風のスペースは人気が高いという。

オフィス内のカフェでコーヒーを飲みながら仕事をするのも自由。“皇居ランナー”向けのシャワールームや女性のための搾乳室など、仕事以外のスペースも充実している。

一方、個人スペースはロッカーのみ。社長も同様で、日々好きな場所に座っているという。

オフィスを見て入社を決意、内定辞退も減少

社内の部署を超えたコミュニケーション促進のために「フリーアドレス」(自由席)を導入する企業は珍しくなくなったが、CBREの狙いは生産性向上にあり、単なる自由席でなく、“モード”に合わせた席を配しているのが特徴だ。

ロッカー

スタッフの個人スペースはロッカーのみ。右上は社長のロッカー。

「同じデスクワークでも、コミュニケーションが必要なときもあれば、電話に煩わされず集中したいときもあります。モードに合わせた作業スペースを選べれば生産性も上がるのではないでしょうか」(金子さん)

実際、2017年4月に実施した社内アンケートでは「固定席に比べて自分の生産性が向上したと感じる」との回答が87%に達した。部署間コミュニケーションも促進され、他部署との協業による売り上げが売上高全体に占める比率は、移転前より4ポイント上がり16%になったという。

生産性向上を数値で示すために、ペーパレス化も進めた。あらゆる資料や決裁フローをデジタル化し、オフィス内の紙資料は移転前から92%減った。同時にコピー機も移転前の37台から10台に削減。今、オフィスにはゴミ箱が6つしかない。

金子さん

金子さんは他社のインテリアデザイナーとしてCBRE東京本社のオフィスを設計し、移転とともに同社に転職した。

オフィス環境の改革は、社内風土を変える有力な手段にもなるという。

「在宅勤務制度を整えても、使いづらい雰囲気があれば導入は進みません。帰りやすい雰囲気、家で働きやすい風土を、オフィスの機能でつくりだすこともできます」(金子さん)

チームが一カ所に固まらないので、自分の業務が終わったら上司の目を気にせずに退社しやすい。新入社員の村瀬遥さん(23)は、「最初は皆残っている中で先に帰ることに抵抗があったけど、すぐに気にならなくなりました」と語った。

そもそも村瀬さんは就活時にCBREのオフィスを見て、入社を決意している。

「他社も受けましたが、面接でCBREを訪れて、絶対このオフィスで働きたいと思いました」

細田さんもオフィス改革が採用にも好影響を与えていると話す。

「オフィスから働き方や社風を想像できるためか、面接、内定後の辞退の割合が減りました」

“島”が消えると大変なのは管理職

CBREも移転前は、各自が固定席で働き、紙があふれたごく一般的な職場だった。オフィス移転とそれに伴う改革をスムーズに進めるため、事前に1年間を啓発や説明に費やしたが、今も現場ではトライ&エラーが繰り返されている。

誰がどこに座っているか分からない広いオフィスで、若手社員がのびのびと働けるようになった一方、中間管理職の負担は増した。金子さんは「チームが一つの“島”で働くのは、管理職にとっては目で管理できるから都合がいいんです。自由席になると、仕事の進捗の把握だけでなく、悩んでいる社員に気付きにくくなるなど、教育や評価の難易度が上がります」と語る。

オフィス

作業スペースは15タイプ用意され、1日に1人平均4回場所を替えるという。

一人の管理職が管理できる人数にも限界が出るため、チームのサイズを小さくしたほか、若手と先輩にペアを組ませ、日常業務の疑問や悩みを共有しやすい環境を整えた。

CBRE旧オフィス

移転前の浜松町のオフィス。固定席の上に紙があふれるごく普通の職場だった。

CBRE提供

自由な働き方の実践に欠かせないITツールも、人によって習熟度が違うため、オフィスには「ITサポートデスク」を設置し、担当者が常駐している。

カフェではワインテイスティング会や勉強会などさまざまなイベントが実施されるが、これも単なる福利厚生ではない。

細田さんは「自由席が横のコミュニケーションを促進するとは言っても、毎日同じ席に座って自分の仕事に没頭する人もいる。こういうオフィスを導入して、改めて『直接話すことの重要性』も分かり、会社が顔を合わせる機会を積極的につくるようにしています」と語った。

責任を果たしてこその「自由」

残業抑制に加え、副業の容認や在宅勤務の推進など、日本企業でも働き方改革の大波が押し寄せている。金子さんは、働き方改革とオフィス改革は同時に進めるべきだと指摘する。

電話スペース

気兼ねなく電話できるようにとつくられたブース。実際にはプレゼンの練習に多く使われている。

「業務が減らないなら、残業を減らした分、人を増やさなければいけません。また、副業を認めるなら、その人の本業の負荷も減らさないと、期待するような成果は出ないでしょう。働き方が柔軟になると、オフィスにはより多くの人が出たり入ったりするようになります。固定席のままでは、そのような変化には対応しにくいです」

もっとも、「自由な働き方は、信頼がベースなんです」とくぎも刺す。

メンバーの働き方が眼に見えない分、管理職は“目”ではなく成果で判断するしかない。そもそも、働きやすい環境を提供するのは、「成果を最大化」するためだ。

独立座席

仕事に集中したいときは独立性の高い席を選べる。

「朝早くから夜遅くまで机に座って働いて、頑張っていれば認められるという価値観は通用しにくくなります。管理職だけでなく、スタッフも本当の意味で自立した大人にならなければなりません」

オフィス移転から3年半。CBREでは「席を移りたいときに、混み具合が分からない」「ちょっとした用があるときに、人を見つけにくい」との不満に対し、人の動きを可視化できる赤外線センサーの設置を検討している。

センサー設置への反対は少ないが、「混み具合だけ分かればいい」という声と、管理職を中心に「誰がどこに座っているかまで知りたい」という声があり、何をどこまで可視化するについては意見が分かれている。

「管理する側、される側のニーズは違うし、皆が満足するような、完璧なオフィスにはなかなかなりませんね」と、金子さんは笑った。

(文・浦上早苗、撮影・今村拓馬)

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