「知的ブルーカラー」時代の人材教育に有効なアメリカ流短大とは

日本で大学教育をいわゆる「G(グローバル)型」向けと「L(ローカル)型」向けに分けるという議論が盛んだ。

アメリカではすでにこの2つの線引きがはっきりされている。州によって仕組みは異なり、私が住むカリフォルニア州では、4年制の州立大学が「University of California(UC)」と「California State University(CSU)」の2系統があって、明確に前者が「リサーチ向け」(G型に近い)、後者が「職業教育向け」(L型に近い)と定義されている。

ただ、日本でイメージする「L型」と少し異なるのは、カリフォルニア州では「地元産業」がIT・ソフトウエアという知識産業なので、コンピューター技術者などの知識型技能者はG型の人もいるがL型でもある、という点だ。実際、アップルやグーグルに就職する学生は、スタンフォード大よりも地元のCSUのほうが数が多い。

この2系統の他に日本の人に説明しづらい、もう一つの高校卒業後の教育機関がある。「コミュニティ・カレッジ(CC)」という2年制の学校である。

アメリカの大学生

Shutterstock/Rawpixel.com

公立の2年制カレッジなので、簡単に言う場合は「短大」と説明するが、日本の短大とは大きく異なる。州や自治体によって運営の仕組みは違うが、アメリカ・コミュニティ・カレッジ協会(AACC)に加盟しているCCの数は約1100校、学生数は1200万人で、4年制以下の大学に通う学生の40%弱を占める。

日本の短大との違いは、無試験で入学できること(ただし授業ごとの定員はある)、4年制大学への転学の道が広く開かれていること、そしてキャリアチェンジや教養のために「パートタイム」で学ぶ社会人も数多くいること、の3つだ。上記の学生数には「パートタイム学生」も含まれている。

CCという高校と大学の間の「中間的存在」は日本にはなく、私も子どもが大学進学に直面するまで、あまりきちんと全貌を理解していなかった。いろいろな考え方の参考になると思うので、我が家の学区での実例をここで挙げてみたい。

学費3000ドル以下、地元に必要な人材育成

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筆者の学区内にあるCollege of San Mateo

撮影:海部美知

カリフォルニア州のCCは、おもに学区が主体となって運営し、州も一部費用を負担する。「学区」は場所により区分が異なるが、わが学区はだいたい「郡」の大きさ。高校よりは数は少ないが、「近くにあって自宅から通える」ような分布で設置されている。

学費も安い。うちの学区の住民であれば、2年の短大卒業学位(Associate Degree)をとるのに必要な60単位の費用は授業料3000ドル以下、教科書や諸経費を含めてもバカ高いと悪評の4年制大学に比べて圧倒的に安い。「地元に必要な人材を育成する」ための教育機関と位置づけられているためだ。

アメリカでは高校まで公立は無償で、無試験で学区の高校に行くのだが、CCはその仕組みがさらに先まで続くといった感覚だ。地元の高校とも種々の提携関係がある。門戸が広く、いろいろな人がいろいろな目的に使える「便利」な存在でもある。

核となる学生は、高校卒業後にすぐ入学し、2年制で履修するフルタイムの学生だが、この部分は技能職向けの「職業訓練」と4年制大学の「教養課程」の機能を兼ねている。

うちの学区には日本の商業・工業高校のような職業訓練校がなく、その機能をCCが担っている。それぞれのCCは特徴あるコースを備えており、例えば看護師、美容・エステティシャン、調理師、スポーツトレーナー、自動車修理、消防技術、建築技術、手話、コンピューター・プログラミングなどあらゆる専門の技能訓練を行っている。

社会人の学び直しにも有効

一方、数学、科学、文学、経済学などの一般教養の授業も充実していて、ここで規定の単位を規定の成績以上で取得すれば、4年制大学の単位として認められる。UCやCSUとは特に転学関係が深い。うちの学区から近い2つのCSUへは特に優先的に転学できるように提携している。

志望大学に落ちても浪人する必要はなく、CCで2年間、一般教養の単位を取って再チャレンジする道が開かれており、これを利用してトップクラスの大学に転学する事例は私の周りでも多い。

夏期講座もあるので、すでに4年制大学に通うわが家の上の息子は、夏休み中にCCで化学の授業を、高校生の下の息子はコンピューターのクラスを受講した。高校との提携プログラムもあり、高校のうちにCCで必要な単位を取り終え、4年制に進学しても3年で卒業する、なども可能だ。高校を卒業できなかった社会人が高校をやりなおす仕組みもある。

また技能職といっても、企画の管理や専門的な判断ができる人材は必要。そのためにも、CCからCSUの学位を目指すことが奨励されている。

社会人のパートタイム学生も多い。学位取得よりも少ない単位数で、特定の専門過程の認定(Certificate)を取得できるので、いったん就職した後に、さらに上に行くための専門技能取得や、キャリアチェンジにも利用できる。少しずつ単位を取ってもよく、2年で終了する必要はない。

我が家のキッチンを改装したときのインテリアデザイナーは、一般企業を辞めてCCで勉強しなおしてデザイナーになったと言っていた。また、育児のかたわらX線技術者の単位を5年かけて少しずつ取得し、40代後半で就職した知人もいる。

主婦や退職者などが趣味として、美術や音楽、歴史、語学などの授業を受けに行くことも多い。私も子どもが巣立った後は、CCでプログラミングを勉強しようかな、などと考えている。

知的ブルーカラーが大量に必要な時代

CCは低所得層や、高校であまり成績がよくなかった人にも大学教育へのアクセスを提供し、いろいろなタイミングでの再チャレンジが可能になるような仕組みだ。

キーボードを打つ

Shutterstock/amperespy44

ただ、そういう人たちの中にはお気楽に通う人も多いため、4年制大学への進学をマジメに目指す学生は、相当自分を律さないと流されてしまうという危険はあり、4年制の学位取得率はそれほど高くない。教員の報酬も安く、授業の質は玉石混交とも言われる。

問題はありながらも、それでもアメリカのCCは使い方次第で役に立つ存在だ。

CCが最近特に注目される理由は、20世紀型の「高卒未熟練ブルーカラー」と「大卒管理職ホワイトカラー」という分類が時代に合わなくなり、その中間である、高度な技能と管理能力をあわせもった「知的ブルーカラー」が大量に必要になってきたということだ。

2015年に当時のオバマ大統領が「CCは無料にすべき」と意見表明をしたのも、こうした時代の変化を反映している。有名大学に人とお金が集中し弁護士が余る一方で、知的ブルーカラーの代表ともいえる「ソフトウエア・プログラマー」が全く足りない現状をなんとかするため、従来の仕組みでは「未熟練」になってしまう人をなんとか「知的」カテゴリーに移行させようということだ。

日本において「G/Lの分離」を考えるときも、20世紀型の「ブルーカラーとホワイトカラー」を分離するイメージではなく、その中間の幅広い「知的ブルーカラー」の育成を目指すべきと私は思う。

例えば、建設業の人がCCで簿記会計やコンピューターを学べば店の経営に役立つし、CADを勉強すれば3D完成図のシミュレーションができ、体力勝負の仕事ができなくなった場合もつぶしが利く。今や先進国では言われたことを黙々とこなす「未熟練労働者」ではなく、スキルを持ち、ITを使いこなし、自分で立案や判断のできる「知的ブルーカラー」が大量に必要なのだ。

ポイントの一つは、いろいろな時点で「上方への移行」が可能となるようなルートを多数用意することだ。少なくとも、CCから4年制へのような「転学」を日本でももっと自由にできるようにするのがよいと思う。高校卒業の時点で、その先がずっと固定されてしまうのでは夢がない。

キャリアチェンジは世の中が変化して、今までやってきた職業がなくなってしまう事態への対策にもなる。AIが仕事を奪うと大騒ぎだが、今までも、エクセルやワードは膨大な数の事務仕事をすでに奪っている。

社会人が技能を身につける場として、現在のところ日本では企業内訓練を除くと、個別の民間スクールや通信教育のようなものが主流だ。終身雇用や職人仕事といった「一直線」のキャリアパスを前提とした時代は「社会人再教育」のニーズが小さかったからだ。だが、「人生二毛作以上」時代を迎え、「複線・横移動」が可能なキャリアを念頭においた、幅広い分野をカバーするアクセス容易な仕組みが、日本にもそろそろあってもよいのではないか、と思う。


海部美知:ENOTECH Consulting CEO。経営コンサルタント。日米のIT(情報技術)・通信・新技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。

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