12月12日(現地時間)、ブルー・オリジンのニュー・シェパードが打ち上げられた。
Blue Origin/YouTube
- ジェフ・ベゾス氏のロケット会社ブルー・オリジン(Blue Origin)は12月12日(現地時間)、再利用可能なロケットと乗員カプセルの打ち上げと回収に成功した。
- 専門家は、商業有人弾道飛行に向けた「大きな前進」と評価。
- 同社は地球周回軌道や月飛行も可能な、大型でより強力なロケットの開発も進めている。
アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏の、謎多きロケット会社ブルー・オリジンは、ダミー人形と数種類の実験装置を積んだロケットの打ち上げに成功した。
13日夜、ベゾス氏はTwitterに動画を投稿、ニュー・シェパード(New Shepard)の7度目の打ち上げと着陸の成功を報告した。ニュー・シェパードは、ブルー・オリジンの科学者とエンジニアがここ数年、西テキサスの砂漠地帯で開発を続けているロケットと有人カプセル。
ビデオにはロケットの打ち上げシーン、地上数十マイルでのクルー・カプセル2.0(Crew Capsule 2.0)の切り離し、そしてロケットとカプセルが相次いで着陸に成功する様子が納められていた。ロケットとカプセルは再利用される。
クルー・カプセル2.0には、高さ1メートル、幅70センチの大きな窓がある。
Blue Origin
ビデオでは、カプセルは3つのパラシュートと小型スラスターを使い、時速1マイル(約1.6キロ)で砂漠に着陸。その後、「READY TO FLY?」という文字が表れる。文字はブルー・オリジンのウェブサイトリンクへのリンク付きだ。
専門家の1人、ジョージワシントン大学宇宙政策研究所所長のジョン・ログスドン(John Logsdon)氏は、今回の打ち上げで、ベゾス氏とブルー・オリジンは、地球と宇宙の境目とされるカーマン・ライン(the Kármán line)への有人飛行に大きく近づいたと考えている。
ログスドン氏は、2018年末までに同社が社員を乗せた有人飛行を行うと予想している。
「ブルー・オリジンは、実験機器のみならず、ニュー・シェパードを商業有人飛行に耐えうるものにするため、極めて慎重に、1歩ずつ、開発プログラムを進めてきた」と同氏はBusiness Insiderに語った。
「今回の成功は、大きな前進だと思う」
高高度での「逆バンジージャンプ」
#NewShepard (ニュー・シェパード)は今日、クルー・カプセル2.0の初飛行に成功した。カプセルには窓があり、中には計測機器付きのダミー人形が乗っていた。彼は素晴らしい飛行を体験した。
ブルー・オリジンは最終的に上空約60マイル(約100キロ)にあるカーマン・ラインへの商業有人飛行を目指している。同社が「宇宙飛行士体験(astronaut experience)」と呼ぶこのツアーでは、カプセルは弾道軌道の頂点に達すると、地球に向けて落下を始める。この時、乗客は数分間の無重力飛行と、窓の外に広がる息を飲むような地球の姿を体験することとなる。
「私の友人は、逆バンジージャンプと呼んでいる」とログスドン氏。落下するのではなく、高速で飛び上がるバンジージャンプだ。
計測機器を搭載したダミー人形「マネキン・スカイウォーカー」。
Blue Origin
ブルー・オリジンは、「宇宙飛行士体験」の料金をまだ明らかにしていない。カーマン・ラインへの商業有人飛行を目指す別の企業は、1人20万ドル(約2250万円)という価格を提示している。
今回の打ち上げでは、カプセルにダミー人形「マネキン・スカイウォーカー」が乗せられ、時速約2000マイル(約3200キロ)に達する打ち上げ時、無重力状態、そして着陸時の影響を確認した。
「我々の計測用ダミー人形“マネキン・スカイウォーカー”は、素晴らしい飛行を体験した」と同社はBusiness Insiderへのメールに記した。
さらに遠くへ、ニュー・グレン(New Glenn)の開発
左から、スペースXのファルコン、ブルー・オリジンのニュー・グレン、NASAのサターンV。
Blue Origin/Dave Mosher, Business Insider
ニュー・シェパードは高性能なロケットシステム。だがログスドン氏によると、大きな限界がある。「ニュー・シェパードは地球周回軌道には達していない」とログスドン氏は語った。
ニュー・シェパードの最高速度はほぼ時速3000マイル(約4800キロ)に達するが、地球軌道に到達するには、時速1万7500マイル(約2万8000キロ)が必要だ。
スペースXのイーロン・マスク氏は、このスピードに到達するには今回の打ち上げの100倍ものエネルギーが必要と語っている。スペースXのファルコン9(Falcon 9)、次期ロケットのファルコン・ヘビー(Falcon Heavy)、そして計画段階のビッグ・ファルコン・ロケット(Big Falcon Rocket)は、全て再利用可能で、宇宙飛行のコストを大幅に削減する。
しかしベゾス氏は、マスク氏が宇宙飛行を独占することを黙って見てはいない。ブルー・オリジンは、これに対抗する再利用可能なロケット、ニュー・グレン(New Glenn)の開発を精力的に進めている。完成すれば、約10万ポンド(約4万5000キロ)、アフリカゾウ約10頭分に相当する重量を地球軌道に送り込むことができる。また人員と装備を月面まで送り込むことも可能だ。
「ニュー・グレンは、机上の空論などではない」とログスドン氏。ブルー・オリジンはこの大型ロケットを製造する工場をフロリダのケネディ宇宙センターに建設していると明かした。
「着実に現実のものとなりつつある」
一方、スペースXは、ニュー・グレンと同程度の性能を持つファルコン・ヘビーの初打ち上げを2018年1月に行う予定。そしてファルコン・ヘビーを使ったテストフライトでマスク氏の赤いテスラ・ロードスターを火星軌道へ送るとしている。
(翻訳:忍足 亜輝/編集:増田隆幸)