脅迫されながらも裏を取り続けた。セクハラ報道した記者たちが明かす舞台裏

脅迫にあいながら、裏取りを続ける—— 。

ハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏の過去30年に及ぶセクハラ行為のスクープは、次々にメディア・エンターテイメント・政界の有名人「加害者」をどん底に突き落とす「引き金」を引いた。取材した記者たちは、どんな困難をくぐり抜けて、まさに世紀のスクープをものにしたのか?

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タイムは今年の顔として、セクハラを告発した女性たちを選んだ。右下の腕は、まだ告発を実名で訴えることを恐れている女性たちの象徴だという。

TIMEのホームページから

ワインスタイン氏のセクハラを最初に報じたのは、ニューヨーク・タイムズのミーガン・トゥーヒーさんとジョディ・カンターさんの2人の女性記者。

タイムズは、女性に対するセクハラ事件を「調査報道」として力を入れてきた。ケーブルニュース局で最も視聴率を稼いでいた保守派の大物アンカー、ビル・オライリー氏が、数々のセクハラ訴訟に対し、総額5000万ドルもの示談金を払っていたことを報じ、辞任させたのも、タイムズだ。

2016年の大統領選挙戦中には、候補者だったトランプ大統領からスカートの中に手を入れられるなどセクハラ被害を受けたという女性の証言をビデオ入りで報じ、その後、10数人の女性がトランプ氏を次々に告発するきっかけを作った。

トゥーヒーさんとカンターさんは12 月13日公開のヴァラエティ誌に登場、トランプ氏がセクハラ告発にもかかわらず、大統領に当選したことが、一連の告発に影響を及ぼしている、と明かしている。

女性たち分断したトランプ氏の当選

トランプ氏の当選は、過去にセクハラを経験した女性を2つのグループに分断したという。セクハラ被害を今こそ、アメリカの歴史に残していこうと告発を決心した女性と、「セクハラを公にしても大統領に当選するのだから」と、気を落としてしまった女性の2通りだ。

しかし、トランプ氏が大統領に就任した直後の2017年4月、タイムズの報道でオライリー氏が辞任したことは、ワインスタイン氏の告発を迷う女性たちに、信頼性がある記事が出れば、加害者を辞任させることもできるという「影響力」を説得する材料になったという。

次のハードルは、ハリウッド界の人たちが長年、セクハラをセクハラと思っていなかったことだった。例えば、「キャスティング・カウチ(カウチはソファのこと)」といって、映画プロデューサーが、新人女優などを自分の部屋やホテルに呼び、カウチの上でセックスをさせたら、役を与えるという風習がある。女優の事務所は、「キャスティング・カウチ」のアポを取るのが仕事の一部であり、ホテル代は経費であり、「業界文化の一部だと、みなが受け入れてきたのです」とカンターさんは話している。

ワインスタイン氏

ハリウッドでのセクハラが次々と告発されたワインスタイン氏。

REUTERS/Mike Blake

トゥーヒーさんもこうインタビューに答えている。

「例えば、20年前にワインスタインにマッサージをしろと言われたという証言そのものは、捜査の対象にもなりません。でも、広い視点から見ると、彼女の証言は、加害者が繰り返すパターンの一部なのです。不適切な発言や体に触ること、そしてワインスタインの場合、強姦の疑いまであり、マッサージもその一部なのです」

「調査を続けるほど、広く深く広がった」というワインスタイン氏の権力が、関係者の証言を阻んでいたのも大きく影響した。ある若いアシスタントは、ワインスタイン氏にこう言われた。

「自分の責任を果たし、虐待に遭うかもしれないブート・キャンプ(米海軍のしごき訓練)を終わらせれば、ご褒美をやろう」

逆に言うと、暴行や虐待に耐えることができず、告発すれば、ハリウッドでは生きていけなくなることも意味する。

「ワインスタインの触手は、エンタメ業界の全てのエリアに及んでいたのです」(トゥーヒーさん)

ワインスタイン氏側の 弁護士グループ、PR担当者、危機管理マネジャーなどは、調査を始めた初期から連絡をしてきた。報道直前には「訴訟を起こす」と脅かし、タイムズに「徹底的な圧力」(カンターさん)をかけた。Gawkerという芸能界のゴシップブログサイトを倒産に追いやった辣腕弁護士を雇い、心理的圧力をかけたともいう。

マッサージとバスローブというパターン

一方、セクハラ告発の取材には、膨大な調査と時間がかかる。Business Insiderがニューヨークで11月30日に開いたイベント「IGNITION」では、タイムズのカンターさんのほか、ハリウッド・リポーター誌の統括編集長キム・マスターズさん、ワシントン・ポストのアイリン・カーモンさんの「セクハラ・スクープ担当者」が3人揃い、取材の過程を明かした。

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左からワシントン・ポストのアイリン・カーモンさん、ニューヨーク・タイムズのジョディ・カンターさん、ハリウッド・リポーターのキム・マスターズさん。右端はBuiness Inisder USのアリソン・ションテール編集長。

3人は、加害者が「告発した女性のことを知らない。でっち上げだ」と必ず反論するのに備え、被害者の家族、友人、同僚などにも取材し、セクハラを受けたという告白を受けた時期や内容が、本人の話と整合しているかどうかを確認したという。有名キャスターのチャーリー・ローズ氏のセクハラをスクープしたワシントン・ポストのカーモンさんは、こう話した。

「ローズ氏のセクハラは、“公然の秘密”で、2010年ごろから気になっていました。でも、証言をしてくれる人が見つからず、“お蔵入り”になっていたところ、タイムズのワインスタイン報道で、たちまち情報源が見つかったのです」

ポストのチームは、セクハラの加害者には「マッサージを要請する」「バスローブで歩き回る」などのパターン化した共通点があり、被害者や関係者の証言の整合性があるか確かめるため、どんな行為が行われたのかチェックする「表」も作成したという。

ワインスタイン氏を約20年取材してきたハリウッド・リポーターのマスターズさんは、ワインスタイン氏が気に入らない記事を書き続けてきた。ホテルで食事中に、ワインスタイン氏が遠くから駆け寄ってきて、「なんで、僕のことを書くんだ」「何が欲しいんだ」と怒鳴られたという話を披露した。

「そういうことがあったので、とにかく『もう一度、もう一度』と書き続けていこうと思いました」

(文・津山恵子)

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