努力しても成果がでない人はここに無駄がある——成果を出す人は「後ろから」考える

「一生懸命なのに要領が悪い」「がんばっているのに成果が出ない」

自分自身、もしくは部下や後輩に対して、どうしたら改善するのかと相談を受けることがあります。努力そのものをしない人に対して、改善を促すのも難しいですが、努力するのに成果が出ない人には仕事の進め方に共通点があります。

私は、それを「前からやる」タイプと呼んでいます。逆に要領が良い人や生産性高く成果を出す人の共通点を「後ろから考える」タイプと呼んでいます。その2つのタイプの違いを説明します。

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「前からやる」or「後ろから考える」を見分ける質問

私は11年間「数字の読み方、活用の仕方」というテーマで、リクルートグループの社内講座の講師をしていました。

ケーススタディとして、こんな課題を出しました。

「あなたは ある営業部の営業企画担当です。担当事業部長から 次のようなデータを渡されました。さらに、「5月は計画通り、営業担当35人で売り上げ1億500万円、1人あたり300万円の売り上げだった。課題はないか?」と問われました。あなたはどうしますか?」

1カ月あたり4営業組織ごとの売り上げデータです

注:1カ月あたり4営業組織ごとの売り上げデータです。 :「合計」は全て目標を達成しています。 :単位(万円)

この課題に対しての受講者が最初にとる行動は、おおよそ4つのタイプに分類されます。

  1. 何をしたらよいか分からないタイプ
  2. すぐに計算を始めて、分析しだすタイプ
  3. そもそも何のために分析するのか考えるタイプ
  4. データの確からしさをチェックするタイプ

あなたは、どのタイプに近いでしょうか?解説しましょう。

1. 何をすればよいか分からないタイプ。これは数字にアレルギーをもっている人が多いです。数字に関する仕事に苦手意識が強く、普段はできるだけ避ける人が多いのではないでしょうか。まぁ、仕方ないですよね。このタイプの部下には、数字に関係しない仕事をしてもらうのが良いでしょう。

2. すぐに計算を初めて、分析しだすタイプ。アクションが早いですよね。しかし実は、この行動をとる人たちが私の言う「前からやる」タイプです。「一生懸命なのに要領が悪い」「がんばっているのに成果が出ない」人の予備軍なのです。着手が早いのは良いのではないかと反論が聞こえてくるかもしれません。はたしてそうでしょうか?

このタイプの人には、次のように伝えます。

目の前の情報や素材に対してすぐに作業を始めてはいけません‼ まずやるべきことは、そのデータが正しいのかどうか、確認することです。数字の桁数は妥当ですか? 構成比やシェアの数値に矛盾は無いですか? 出所は確かですか? 正しくないデータを分析した時間は、まったくの無駄。さらに、正しくないデータで事業判断をすれば……。怖いですね。この「目の前の仕事からやる」=「前からやる」タイプは、無駄な仕事や事故(間違った判断)をする可能性があるのです。

3.そもそも何のために分析するのか考えるタイプを選んだ人を、「後ろから考える」タイプと呼んでいます。一見遠回りに思えますが、目的を明確にしたうえで仕事を進めるので、その目的を実現するために、適切な手段を選ぶことができます。枝葉の事象に惑わされないので、臨機応変な対応をすることもでき、結果的には要領よく、生産性高く仕事を進め、結果を出すことができます。

4. データの確からしさをチェックするタイプを選んだ人は、数字を正確に取り扱える人です。

「前から」「後ろから」で異なる仕事の進め方

先ほどの質問は、たった1つの表の分析の仕方から「前からやる」タイプか「後ろから考える」タイプかを簡易に判別したに過ぎません。ところが、この「前からやる」タイプと「後ろから考える」タイプの仕事ぶりを比較すると、仕事のステップ(進め方)が異なることに気づきます。自分自身や同僚の仕事の進め方から、タイプを見極めることもできるということです。

仕事の進め方は、作業・整理・仮説・論点・分析・結論といった要素に分けられます。これをどのような組み合わせと順序で行うかによって「前からやる」「後ろから考える」タイプに分けられます。

まず、「前からやる」タイプの典型的な仕事のステップは①作業→②整理→③分析→④結論です。最初作業から始めます。先ほどの質問の選択肢で、すぐに計算を始める、分析しだすタイプは、まさに作業から始める人ですね。

一方の「後ろから考える」タイプの典型的な仕事のステップは①結論→②論点→③仮説→④作業です。ポイントは、最初に結論が何かを見極めて、その時点で解は出ていなくても、自分なりに明確にすべき論点と、こうではないか、という仮説を立てた上で作業・分析をしていることです。先ほどの質問の選択肢で、3.何のために分析するのか考えるタイプは、まさに結論が何かを考えるところから始めています

「前からやる」タイプは後ろで時間がかかってしまう


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「前からやる」タイプは、まず作業に取り掛かるので、無駄な作業や不足作業が多くなります。例えば、最初、作業A、B、Cの3つをします。それから整理、分析と進むので、その時初めて作業Cではなく、作業Dが必要だったことが発覚します。つまり、作業Cにかかった時間は「無駄」となり、作業Dにかかる時間は当初想定していた時間への「追加」になります。このような無駄、追加を繰り返していくので、そのしわ寄せが仕事の後半に出てきて、本人のやる気とは関係なく、不測の事態が発生したり、納期に間に合わない!といった事態が発生したりするのです。

結果、非効率な仕事になり、時間がかかります。これが「一生懸命なのに要領が悪い」「がんばっているのに成果が出ない」人の典型的な原因なのです。

ただ、一部の天才的な人や異様に馬力のある(つまり何でも長時間かければ解決できる)人は、このような非効率な仕事の仕方であろうと成果を出すのです。このような先輩や上司が他の人の指導にあたると不幸な事態が起きます。その人の属人的な才能で何とかなってしまっているのですが、その他大勢の人にとっては極めて非効率なのです。自分自身がそうなっていないか、また管理職であれば、部下がそのような状態に置かれていないか、よく注意しておきたいものです。

「後ろから考える」タイプは「前に時間をかける」

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「後ろから考える」タイプは最初に結論を考えます。結論とは、例えばその仕事のゴール、つまり「誰に何をしてほしいのか?」「どのような状態が達成と言えるのか?」を明確にし、関係者で合意を得ます。この結論部分がずれていると、全ての作業がピントはずれになってしまうからです。

このタイプの人たちは結論が決まっただけでは、作業に着手しません。次に、結論を導き出すために必要な条件である論点を明確にするのです。このステップが仕事の成果を決めるといっても過言ではありません。ロジックツリーだとかMECE(ロジックツリーにヌケモレダブリがない)などという言葉を聞いたことがある人が多いと思います。こうした考え方も使いながら、結論を論点に分解していきます。。

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さらに、それぞれの論点を明らかにする仮説を作ります。仮説とは論点に対して、現時点で確からしいと思える答えのことです。ここでは無理やりにでも作成することが重要です。極論すると間違っていても良いのです。ただし、検証可能であることは重要です。

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この仮説作りには3つポイントがあります。

  1. 具体的で臨場感があること。例えば、営業組織の問題を解決するという論点に対する仮説であれば、良くない例としては「営業のマネジメントの問題」、良い例としては「事業計画が営業と共有されず、計画とフォローアップが行われていないこと」。登場人物とその動き(どのような場面で何が起こっているか)まで具体的に落とし込んで言語化することで、関係者で同一の認識を持つことができます。
  2. アクションにつながっていること。良くない例としては「若手営業のケイパビリティの問題」。これだと問題解決のために何をして良いのか分かりません。一方、良い例として「ベテラン営業のノウハウが若手に伝承されていない」といった内容であれば、営業ノウハウを抽出して、若手に伝える方法を検討し、実行すれば良いことが分かります。
  3. 検証可能・作業の切り口が見えるということです。良くない例としては、「A社と比較して、商品開発プロセスが弱い」。具体的に弱い点は何なのか、何を持って弱いと判断すればよいのか、よく分かりません。良い例としては、「A社には商品開発に親会社のスクリーニングがあり、それが差別化要因」などが挙げられます。親会社のスクリーニングがあることの効果が検証の対象となります。

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仮説ができたら、その仮説が正しいかどうかを確かめるための作業に入ります。

さらに丁寧に行う場合は、復路分析といって、結論→論点→仮説→作業といった往路で考えたことを、この作業をすると仮説が明確になるのか? この仮説が明確になるとこの論点が明確になるのか? この論点が明確になるとこの結論が明確になるのか、と逆のルートで確認をするのです。仕事の前半部分に時間をかけることになります。しかし、結論、論点、仮説が明確になっているので、仕事にヌケモレダブリは起こりにくくなります。

結論、論点、仮説の段階で関係者と共有ができるので、さらに手戻りも起こりにくくなります。つまり、全体で考えるとヌケモレダブリに加えて手戻りがなくなるので、全体の仕事の生産性が高くなるのです。

皆さんご自身、または、皆さんのまわりの人が「一生懸命なのに要領が悪い」。「がんばっているのに成果が出ない」という状態になっていたら、ぜひこの方法を試してみてください。


中尾隆一郎(なかお・りゅういちろう):リクルートワークス研究所副所長。大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長などを経て、現職。

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