「会社説明会やめます」サイバーエージェントの狙いは地方学生の格差解消と採用改革

2019年卒向けの就職活動が本格的に始まろうとしているが、2018年も「売り手市場」が続きそうだ。

12月18日、リクルートワークス研究所が発表した2019年の新卒採用の調査で、大学生・大学院生の採用が2018年より「増える」と答えた企業は15.8%となった。

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採用数の増加に伴い、内定率も上昇。2018年卒の内定率は10月1日時点で92.7%と9割を超え(ディスコ「2018年卒の就職活動調査」より)、ここ10年間でもっとも高くなっている。

出典:リクルートホールディングス

調査は約4670社を対象に行い(回答率66.8%)、2011年以降8年連続で「増える」が「減る」を上回っている。

内定率も上昇している。2018年卒の内定率は10月1日時点で92.7%と9割を超え(ディスコ「2018年卒の就職活動調査」より)、ここ10年間で最も高くなっている。

さらに、リクルートワークス研究所の調査では、約4割が初任給の引き上げを実施もしくは予定していると回答。人手不足が深刻化する中、優秀な人材を確保したいという背景がある。各企業の“人材囲い込み”は就活のあり方にも一石を投じている。

情報格差をフラットにしたい

インターネット広告大手のサイバーエージェントは2019年卒向けの会社説明会をやめることを発表した。

会社説明会の代わりに、現場社員が会社や事業について説明した動画をオンライン上で見られる「サイブラリー」を始めるという。

その狙いについて、新卒採用責任者の小澤政生さん(31)は「時間の有効活用」と語る。

まず挙げられるのが地方学生の大きな負担だ。

2時間の会社説明会のためだけに、夜行バスや飛行機で往復5時間かけて東京まで来ている地方の学生がいる。首都圏の学生と地方の学生では格差が大きい。全国からいい人材を採用したいと思っている会社側にとっても、地方の学生が足を運びづらいのは損。それをフラットにしたいと思った

実際、新卒採用支援事業を行うサポーターズが2017年卒生を対象に行ったアンケートでは、地方学生の就活に関わる費用は関東の学生よりも平均で6万円多い18.8万円。交通費が大きな負担になっており、特に四国や中国地方の学生の負担が大きいという結果が出ている。

サイブラリー

「サイブラリー」では15分程度の会社説明動画をどこでもスマホで見られる。現在はまだ9本だが、今後は数百本に追加する予定。

出典:サイバーエージェント

こうした現状を踏まえ、サイバーエージェントでは3年前から「FLAT」という、情報格差を「フラット」にし、社員が「ふらっと」地方の学生に会いに行く地方就活生支援パッケージを導入。スカイプなどを使ったオンライン面接や大学でのキャリア面談も行っている。結果的に、新卒採用に占める地方学生の割合は2〜3割から5割近くにまで増えているが、それでも学生からは「説明会参加の負担が大きい」という声が強く、今回の決断に至ったという。

社員の時間もより生産的に

また、負担軽減だけではなく、企業側にとっての「時間の有効活用」という観点でも、メリットが大きい。

今までの会社説明会では「どういう事業を展開しているのか」という基本的な質問も多かったが、「サイブラリー」を事前に見てもらうことでより具体的な質問が出るようになり、「会話の質」がグッと上がったという。

今回の「改革」は社員にとってもメリットが大きい。

サイバーエージェントでは、1回の会社説明会を準備時間も含め4時間かけて行い、年間で約50回開催、6人の採用担当者で合計1200時間も費やしていた。しかし、会社説明会をやめることで準備時間も減り、本当にやりたいこと、頭を使って考える時間に充てられるようになったという。

「今までは考える時間がほぼ取れない状況だった。だが、会社説明会をやめることで、今まで準備に使っていた時間で、地方に行って学生に会ったり、次年度の採用について話したり、採用が決まった学生を入社までに研修する時間に費やすことができる。いかに本当にやりたいことに時間をかけるか。良い採用と良い組織を作るための一環でもあるのです

良い人を現場社員も一緒に採用する

ただ、急に会社説明会をやめたわけではない。サイバーエージェントでは数日だけのものから実際に社員に同行して働くようなものまで、約40種類ものインターンシップを実施している。参加人数は合計で500〜600人にも達し、新卒入社に占める割合は4〜5割になる。インターンが採用に直結していることもあり、実質的には通年採用になっている。

「学生に『選択肢を持たせる』ことが重要なのです」(小澤さん)

小澤政生

新卒採用責任者の小澤政生さん。2010年に新卒で入社し、2012年から人事本部に異動。今まで1万2000人以上の学生に会ってきたという。

内定者や新卒社員、インターン生からの紹介を通して大学キャンパス内で複数の学生らとの面談を行うなど、口コミを通して学生に会う機会も多い。

こうした施策を行うことで、ここ数年、徐々に会社説明会を減らし、「学生と直接会う機会が減ることをどう補うか試行錯誤している。もし失敗したらまた戻せばいい」と判断した。

さらに、今年からは「YJCプロジェクト(良い人を自分たちでちゃんと採用する)」と呼ばれる、現場社員と人事が9チームに分かれて、それぞれがゼロから採用設計を行うプロジェクトを開始。チームによっては「月に1回は地方に行く」など、今後さらに採用ルートが多様化しようとしている。

長期的にはタレントプールが重要

今後、人材、特に若年層の人材不足がさらに深刻化する中で、採用についてどう考えているのだろうか。

「今は採用がすごい忙しくて急に突風が来たりする。しかもそれを毎年やらないといけない。長期的に考えると、これからはタレントプールが大事になってくる

サイバーエージェントの場合、事業がどんどん変わっていくので、VRや仮想通貨など「やらない」と言っていた事業が急に始まることもある。その意味で、タレントを「貯める」、最近出戻り社員とも呼ばれる「取り戻す」、この2つが重要になってくるという。やりたい事業がない、一緒にやりたい人がいないなどの理由で採用に至らなかった人や採用したかったけどできなかった人がいるとする。そういう人がいつ「必要な」人材になるか分からないのだ。その人材のデータは3年後には残っていないこともある。

「個人情報保護なども考慮しながらタレントプールの方法について考えていきたい」

「本当にやりたいことに時間をかけたい」「誰のための就活なのか」

小澤さんはインタビュー中何度もこの言葉を繰り返した。近年「働き方改革」が叫ばれているが、「残業禁止」「リモートワーク推進」など画一的なものになりかけている。いかに「無駄」を排し、選択肢を提供するか。採用活動からも、その企業の「働き方」や人材への考え方が見えてくる。

(文、撮影・室橋祐貴)

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