「うぬぼれジャパン」が製造業に蔓延 コンプラ専門家・久保利弁護士に聞く品質不正の原因

日本を代表する製造業の現場で2017年秋、製品の品質にかかわる不正が相次いで発覚した。日産自動車とSUBARU(スバル)は、資格のない社員が自動車の完成検査業務を担当していた。神戸製鋼所など3社は、製品の品質データを改ざんしていたと発表した。

品質を最大の価値としてきた日本の製造業の現場で何が起きているのか。多くの企業の第三者委員会で事実の解明や、企業のコンプラインアンス態勢の構築に携わってきた、久保利英明弁護士に聞いた。


製品の品質に関わる主な不正

・日産自動車(2017年9月): 無資格者による自動車の完成検査

・スバル(2017年10月):無資格者による自動車の完成検査

・神戸製鋼所(2017年10月):アルミ、銅などの品質データ改ざん

・東レ子会社(2017年11月):タイヤコードなどの品質データ改ざん

・三菱マテリアル子会社(2017年11月):シール材などの品質データ改ざん

※Business Insider Japan まとめ

みんなで渡れば怖くない

Business Insider Japan(以下、BI):製造業の大企業で、品質をめぐる不正が相次いで発覚しました。

久保利弁護士(以下、久保利):古くから現場で続いていた事案が多く、中には30年も前から続いていたものもあります。集団で公表すれば、あまり大きくメディアに取り上げられず、一社のダメージは軽いという配慮があるのかもしれません。2007年ごろの食品偽装の際も、次々に問題を公表する会社が出ました。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ということが、こういう行動になっている。

いまはSNSの時代で、みんなが放送局を持っているようなもの。東レのように、不正についてインターネットの掲示板に書き込みがあって、会社が調べたらやはりそうだった。黙っていれば、今度は書き込みをした人が、もっとオープンな場で言ってしまうかもしれない。じゃあ、早く公表してしまおうということだったのではないでしょうか。

BI:弁護士事務所が担当した日産自動車の報告書は、検査の現場と管理者層に距離があったと指摘しています。

久保利:ガバナンスの問題だという人がいますが、コンプライアンスの問題と捉える必要があります。ガバナンスは、主権者である株主がいて、業務執行者であるCEO(最高経営責任者)や社長をコントロールできているかという問題です。社長がインチキをやれと社員に言った東芝のようなケースはガバナンスの問題で、そんなことをさせないように社外取締役や監査委員会がコントロールしないといけません。今回の不正は、経営陣の指示があったとは考えにくい。

私自身の経験から言えば、現場の知恵のようなものだと思います。舛添要一元都知事が厚生労働大臣だったころに、「消えた年金問題」がありました。年金の保険料を払わない人に請求しても、中には反社会勢力もいるし、怖い思いをします。だから、この人は行方不明だったことにしてしまおうと記録を消してしまった。そうすれば、面倒な手間はかからない。厚生労働大臣や社会保険庁長官は、そんなことをやっているとは夢にも思っていませんでした。

製造後の自動車

自動車をはじめとした日本を代表する製造業での不正続出は、日本ブランドの終焉を予感させる。

shutterstock

製造現場の「工夫」

BI:では現場が勝手にやったということですか。

久保利:日本では現場に相当な権限があって、現場の人たちは優秀です。その人たちが仕事をしやすいように改善や改良を考える中で、意味がないと思える仕事は、手抜きをしようという発想が出てきます

日産とスバルのケースでは、こんなことで検査をしなくても大丈夫だと現場の人たちは思ったのかもしれません。面倒だなと。だけど、これはやらないといけないと言われているから、仕方なくやって、ハンコさえ押せばいいという考えになったのではないでしょうか。トップの指示ではないでしょう。

では、知らなかった社長の責任はないかというと、コンプライアンス上は社長が監視・監督をして、内部統制のシステムを働かせ、正しくないやり方があれば、見つけないといけない。この点では、内部統制システムに欠陥があったわけであり、そのシステムを構築し、適切に運用されているかモニタリングする取締役会が義務を果たせていません。だから取締役会の中枢である社長も責任を逃れることはできません。

ガバナンス違反があったというより、内部統制組織がコンプライアンスをしっかり見る職責を果たさなかった、というのが今回の事案でしょう。

「甘え」の構造

BI:神戸製鋼所は、アルミニウム製品などでデータを改ざんしていたと発表しました。

久保利:神戸製鋼も同じで、トップが品質をいい加減にしろと言ったという問題ではないでしょう。まして日本工業規格(JIS)の問題で、痛い目にあったばかりです(注:子会社でステンレス鋼線の強度偽装が発覚し、2016年6月JIS認証を取り消された)。データを改ざんしろというトップは、普通はいません。

少し品質の落ちる製品ができたときに、現場はおそらく、品質が顧客から求められている仕様を満たしてはいないが、これは売らないと損をすると考えます。品質が落ちると顧客に言えば、今度は値引きを求められます。

そこで「特採(トクサイ)」という制度を悪用することで、事態を切り抜けようと考えたのでしょう。特採とは、ちょっと品質が落ちるけれど、最終製品に影響はしないから、これは特別に採用すると顧客から了解をもらった場合に、納品することです。しかし、売り手側である神戸製鋼側が、買い手に内緒で勝手に特採にしてしまうと、値引きもせず、納期にも間に合う。現場としてはいいことづくめです。こうした悪しき慣習が長年続いてきたのではないでしょうか。

BI:顧客側の求める水準が高すぎるという指摘もありますが。

久保利:確かに顧客が求める品質がすごく高いので、少々品質が落ちても事故は起きないと勝手に判断する甘えのような構造があった。しかし、結果的にはEU航空安全局は、データ改ざんがあった神戸製鋼の製品が使われた飛行機について、使用を中止するよう求める勧告も出るなど、甚大な影響が出ています。

久保利英明弁護士

企業のコンプライアンス態勢の構築を専門とする久保利英明弁護士。

撮影:小田垣吉則

神戸製鋼の現場も深く考えてやっていたというよりも、とにかく目の前の顧客への納品をどう間に合わせるのか考えたのではないでしょうか。会社の内部では前例踏襲になってしまって、正義感のある人がいても「そんなこと今さら言うなよ」と言われて黙ってしまう

バブル崩壊と現場の緩み

BI:製造現場は、高い品質を維持するよう気概を持って仕事をし、それが日本製品のブランドの源泉になってきたように思います。変わってしまったのでしょうか。

久保利:30年前のバブル経済が原因だと思います。当時は、土地を転がせばもうかった。大蔵省(現・財務省)の役人も、接待漬けになっていた。そうした時代に、額に汗して働けと言われても、給料は上がらないし、あまりおもしろくない。ちょっとぐらい手抜きをしたっていいんじゃないの、という風潮が生まれてきました。そうなると、企業内の倫理はだんだん緩んできます。勤勉さや律儀さ、矜持(きょうじ)というものが、この30年でだんだんと失われました

昔は、一生懸命いいものづくりをすれば、顧客が喜んでくれる。消費者がハッピーになる。これが、いい会社だとみんなが思っていました。それが行き詰まり、みんなが緩んだ。ぴりっとしていた現場が、ルーズになってしまった。本当は品質基準に合っていないのに、代金はちゃんと入ってきます。これは、楽でいいじゃないかという風潮がメインストリームになると、とても現場で声は上がりません。

BI:個別の最終製品まで、影響を精査したうえで公表しないと、パニックを引き起こす心配もあります。調査が不十分でも公表のスピードを重視するのか、あるいは精査を優先するのか。どういった対処が望ましいのでしょうか。

久保利:いったん公表をした後で、追加で問題公表すれば、かえってパニックになります。いくつかの事業部について調査をしてから発表するといったことは必要ですが、販売した先のその先までは、自分たちでは調べられません。調べてもわからないことも当然あります。ある程度調査をして、わかったことは、はやく公表するのが、リスクマネジメントとしては当然でしょう。

ある程度で公表するしかない

久保利:10年ほど前、不二家の小規模シュークリーム工場で、期限切れの牛乳を使った問題が発覚しました。シュークリームの味も、健康にも問題はありませんでした。ましてや工場生産の菓子には何も問題がありませんでしたが、コンビニなどですべて販売が中止されました。

消費期限を過ぎた牛乳は使えません。一方で、賞味期限を過ぎるとやや味が落ちます。不二家のケースは、賞味期限は過ぎていたが、消費期限は過ぎていませんでした。社内基準を消費期限より厳しくしていたからです。

工場で働く女性

製造現場の「甘え」の意識が一連の不正の背景にある、と久保利氏(写真はイメージ)。

Prasit Rodphan / Shutterstock

それで、消費期限は過ぎていないと会社が言ったら、ボコボコにたたかれて、不二家は倒産しそうになりました。この種の不祥事は、発表の内容次第で、本当におそろしい事態になります。賞味期限を過ぎるとやや味は落ちるけれど、加熱してクリームをつくるのに、ほとんど問題はないですよと言っても、わかってもらえません。結果として、流通菓子から飲み物まですべて不二家の製品は店頭から排除されてしまいました。

ある程度のことが説明できないと、逆にパニックになります。どういうタイミングでどこまで公表するか。判断は非常に難しい。

今回の一連の不祥事は、納入先やユーザーまで完璧な調査を求めたら、何年やっても終わりません。隠そうと思っても、隠しきれるものではありません。ある程度で公表するしかないのです。

有事のマネジメント

BI:三菱電線は、経営陣が3月に不正を認識したのに、10月まで出荷を続けていたとされます。

久保利:子会社内部で対応して、親会社には報告していなかったのではないでしょうか。富士ゼロックスの問題と似ている点があります。富士フイルムホールディングスに言わずに富士ゼロックス限りで隠蔽(いんぺい)をしていて、それが発覚し、ゼロックスの社長の辞任に至りました。

こういうのは、最後は私利私欲だと思います。親会社に言えば、自分の首が飛ぶ。親会社に怒られたくないし、処分されるのも嫌だし、お客さんにも話をしないといけない。そうこうしているうちに時間がたってしまう。

BI:日本企業は有事に弱いと指摘する声があります。

久保利:有事に本当に強い経営者は世界中どこを探しても、あまりいないと思います。平時というのは、まだ有事ではない状態です。絶対に有事にならない平時なんてありません。だからこそ、平時に有事のことを考えるのが経営者です。そういう意味では平時に強い経営者も日本にはあまりいないと思います。社員が課長になり、部長になり、やがて取締役になって、社長になります。どこで経営の技術を学び、研さんを積むのか。ムラの文化を覚えるだけで、世界で通用する経営者マーケットの中で、本当に優秀だと言われるような経営者を育てることができていない

「三権分立」の確立を

BI:営業部門は、できる限り顧客の求める仕様を実現して、商品を売ります。品質保証部門は、きちんと品質を保持する。製造現場は、優れた製品づくりに力を注ぎます。三つの部門のけん制機能に不具合が生じているのではないでしょうか。

久保利:品質保証部門があまり堅いことを言うと営業も困るから、目をつぶりましょうというのが「特採」という制度。でも、そこで目をつぶってはいけません。三権分立なんだから、けんかし合わないと。本来、契約を結ぶのは営業部門です。契約書どおりの基準を満たさなければ、営業部門としては恥なんです。「品質を保証するよ。その代わり、この値段でお願いします」と顧客とやりとりをします。もっと値引きしろと言われても、もう納入しないよとけんかをしたっていい。この品質をきっちり守ってくれよと、営業部門も製造部門にプレッシャーをかけるべきなのです。

現場はいい製品をつくるよういくら努力をしても、若干品質に達していないものは出てきます。しかしその製品を納めることができれば、納期を守ることができる。そこで営業が顧客とコミュニケーションを取り、値引きで収まれば問題はない。近代資本主義は、誠実さがないと、全体がおかしくなってしまいます。

持ち場ごとに、倫理を守ることが大切です。品質保証部門は、頑固だと言われても原則を守る。品質保証部門が片目をつぶると、あとでリコールになるような製品を顧客に売ることになります。三権分立は本来、適正な製品を適切な利益で売れるようにするモデルのはずです。

「うぬぼれジャパン」はもう通らない


久保利弁護士

「もはや日本製は超一級ブランドではない」と語る、久保利英明弁護士

撮影:小田垣吉則

BI:日本のブランドが傷ついたといわれます。どう、取り戻しますか。

久保利:マーケットにおける日本の評価は、すでに崩れています。最近は海外の高級ホテルでも、日本製のテレビをあまり見かけません。テレビという最先端の分野で日本製品を見なくなっているということは、他の分野でも同じことが起きているのではないでしょうか。ブランドを取り戻すには正しい現状認識が必要です。もはや日本製は超一級ブランドではないのです。

その上で正しいこと積み重ねていくことしか信頼回復の道はありません。いまは、上が下にやらせるコンプライアンスに傾きすぎています。社長が命令をして、マニュアルはこうして、行動準則はこうだと。それではダメです。札幌農学校に赴任したクラーク博士が、規則をつくる際に、規則は一つあればいいと言いました。校則は「紳士たれ」だけです。矜持を持って天に恥じることなく、誰に言っても恥ずかしくないことをやる。自分の頭で考える。やらされるのではなく、やりたくなるコンプライアンスが必要です。

アサヒビールでは、それぞれの現場が自分たちにどういうルールが必要か考えています。コンプライアンスの専門家やコンサルは、実際の現場を何も知らないんです。マニュアルづくりをコンプライアンスと思ってはいけません。社会がどんなメッセージを送ってきているか。それに対して、自分たちの会社は何を変えるべきか考える。社長からやらされるだけでは、それはできません。

BI:素材メーカーは、こうした問題が起きやすい。まだあるんじゃないかと指摘する有識者もいます。

久保利:際限なくあると思います。ほかの会社は静かにしているが、黙っておこうという会社もあるかもしれない。社風というけれど、日本の会社は根本的にはみんな似ています。お家の恥は言わずにこっそり隠しておこうというのが原則でしょう。隠すのがうまい会社と、下手な会社があるということではないでしょうか。でもいずれ全部、顕在化します

BI:自動車の完成検査は、制度の形骸化が指摘されています。

久保利:昔からやっているから続けているのだとすれば、どんどん見直しをしないといけません。前例踏襲で30年も40年も続いてきたことは、だいたい無意味なことが多いはずです。日産やスバルは、意味がなくなってきたからやめましょうと、なぜ省庁に言えなかったのか。自動運転の時代に入れば、もっと他にチェックが必要な事項は出てきます。変化に応じて、制度も変わらないといけません。それをせずに、安穏と暮らしてきたのが、いままでの日本ではないでしょうか。だから、いい警鐘を鳴らしてくれた事案だと思います。これまでのうぬぼれジャパンでは、もう通りません。

(聞き手・構成:田中博・小島寛明、撮影:小田垣吉則)

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