岡島悦子×篠田真貴子(後編)若い時こそ“過剰適応”しなくていい。キャリアは後からついてくる

年間200人以上の経営者が頼るリーダー育成のプロ、岡島悦子さんと、2017年3月の上場が話題となった「ほぼ日」の最高財務責任者(CFO)、篠田真貴子さん。20年来の仲である2人が失敗ばかりだったという20代30代を振り返った前編に続き、後編では30代以降のキャリアの“つくり方”について。

岡島悦子さんと篠田真貴子さん

岡島さん(左)と篠田さんからは自身の経験をもとに20代30代への名言アドバイスが次々と。

浜田敬子 Business Insider Japan 統括編集長(以下、浜田):今や誰もが認めるスーパーキャリアのお二人が赤裸々に語ってくださった20代、30代の頃の話、とても興味深かったです。岡島さんは若手女性社員向けのリーダー育成にも長く携わっていらっしゃいますよね。最近の傾向として気になっていることはありますか?

岡島悦子さん(以下、岡島):もったいないなぁと思うことは多いですね。何かと言うと、どの産業も非連続のイノベーションを目指そうという時代、若者ならではの視点のフレッシュさや新しさこそが価値なのに、会社や上司が求める正解を先回りして考えて過剰適応する子がとても多いこと。上司忖度(そんたく)ってやつ? 上司が求めてもいないのに、自分から正解を当てにいっちゃう。

浜田:男女ではどちらに顕著ですか?

岡島:おそらく女子の方がその傾向が強く、ミレニアル世代は「戦いたくない」志向が強いから、ミレニアル女子は特に過剰適応度が高いということになりますね。

篠田真貴子さん(以下、篠田):私は30代前半で痛い思いをして「周りの評価に合わせることは、決して長期的な幸せにつながらない」ということが腑に落ち、今に至るわけだけれど、ペコちゃん(岡島さん)の場合はどうでした?

承認欲求の物差しでしか自分を見られなかった

岡島悦子さん

岡島:私はシノマキ(篠田さん)よりずっと遅咲きで、解脱できたと思えたのは36、37歳の時。それまでは過剰適応しまくり。彼氏が変われば服もカラオケで歌う曲も変わるような女でした(笑)。それこそ母親からの期待にも縛られていましたよ。うちの母は決して毒親ではないんだけど、勝手に私が忖度していた。

浜田:先回りして親の気持ちを読む。分かる気がします。

岡島:私の母はものすごく能力が高い人で、自分が若い時に社会で活躍したかったけれどそれができなかった人なので、娘の私には頑張ってほしいと思っていたみたい。三菱商事を辞めると言ったら大泣きされてビックリしました。「初めての親不孝?」って焦りました。

親がどう思うかもそうだし、いつも承認欲求という外形的モチベーションの物差しでしか自分を測れていなかったなと思います。解脱できてからは本当にラクになりました。

抽象でなく具体の事例に触れる

浜田:何が転機に?

岡島:1つは結婚ですね。私は36歳の時に16歳歳下の男性と結婚したんだけれど、決断に至るまで生き方やお互いへの期待について徹底的に議論したんです。3年ぐらい、ベースキャンプみたいにやっていたかな。深い根っこのところで共感できる人が存在していることを確信できて、かつその人と一緒に生きていけるとなったとき、「誰からどう言われようと、私を理解して絶対に味方になってくれる人がいる」と思えたことはすごく大きかったんですよね。

そして37歳で社長になり、さらに解脱が進みまして。当たり前だけれど、最終意思決定者になると、自分の決断一つで日向も日陰も生まれる。万人に賞賛されることはあり得ない、ということが肌身で実感できてからは腹をくくれました。

篠田真貴子さん

篠田:ペコちゃんが結婚を決めたとき、私たち友人に自分の言葉で話してくれたんですよね。結婚をそんなふうに深めること自体がすごいなぁと感心したのを覚えています。マッキンゼー用語でいう「ソリューションスペースを広げる」、つまり「正解の定義自体を広げる」ということの実践だなと思いました。結婚ってここまでありでしょ?って。実にお見事でした。

岡島:そういう意味では、今の若い子たちにぜひやってほしいのは、たくさんの事例に触れること。抽象ではなく具体にね。結婚の形なんて百人百様で、同じ人と結婚を繰り返す人だっているんだから。生き方のサンプルとして親しか知らないと、すごく道が狭まってしまう。「へぇー、こんな人もいるんだ」って事例の情報を仕入れるだけでも、ソリューションスペースは広がると思うな。

浜田:あえて聞きます。岡島さんや篠田さんをサンプルとして捉えようとしたときに、「そんなに頑張れません。あなたたちが頑張りすぎたから、私たち若い世代はつらいんです」という反論を受けたとしたら?

篠田:よく言われますね、それ。でもサンプルはサンプルで、あくまで一例なんです。私の同級生の中にも「あえて頑張らない」という選択をした人も大勢いるし、何をもって幸せと感じるかは人それぞれ。私は偶然の出会いや運や「たまたま好きで続けられた」という縁があって今ここにいるだけ。世代を代表している感覚なんてまったくない。真似したくない人は私を見ないでーと言いたい(笑)。

岡島悦子さんと篠田真貴子さん

男性上司なのに「話が通じない」と嘆く男子はいない

岡島:同感。「どこかにモデルがいる」と思う時点で思考停止していると思います。いろいろあっていいじゃん。

最近、予防医学研究者の石川善樹さんと話していて分かってきたのは、どうも女性は男性に比べて目標を近くに置きたい傾向があるらしいです。ロールモデルを身近で等身大で当事者意識を持てる場所に置きたい。だから、目に入ってくる先輩を「未来の自分を投影可能なモデルかどうか」という目で選別して、自分の志向に合わなかったり距離があり過ぎたりすると嫌悪すら持つ。男性はそれがあまりないんです。だって、男性に「目指したい人物像は?」って聞くと「織田信長」とか答えるでしょ。

篠田:たしかに! 竜馬とかね。そういえば、「則天武后みたいになりたいです」っていう女子、見たことない(笑)。

岡島:そうなんですよ。どうも女子は目標を小刻みにしたいようで。きっと人生の早めの時点でライフイベントが次々と押し寄せて来ちゃうからだと推測するのだけれど。

篠田:あと、ついでに話させてもらうと、最近読んだネット記事に「女性が一番相談しやすいはずの女性上司が無理解だとがっかりする」という文脈の記述があって愕然。前提を疑うべし、ですよね。「男性上司なのに話が通じない」って肩を落としている男性、私は見たことありませんよ。

岡島:おっしゃる通りだし、そもそも他人に正解を求めにいってもムダ。そこで思考停止して、動ける幅が狭まるだけだから。正解を探そうとせず、自分らしい形は人と違ってもいいんだ、とある意味「なんでもあり」で考えればラクになるのに。

好きなことは無意識にその方向に進んでいく

篠田:人に嫌われるのが怖かった時期もあるというペコちゃんが、そこまで自由を布教できる人に質的転換を果たせたのはなぜでしょうね?

岡島:きっともともと気質として持っていた「新しい価値観を面白がれる」という部分が、解脱によって開花したんだと思う。「それ、面白そうじゃん」と嗅覚に響くものを自分で体現するのが好き。だから、仕事の領域も前例気にせずどんどん広げるから、いつのまにか世の中の既存の枠組みに当てはまらない仕事になっていく。「職業:岡島悦子」みたいな。

篠田:納得しました。その気質があるから、社会人1年目から「三菱商事で社長になったら面白い」という発想も湧いたんですね。その点、私はいまだに自分の天職のようなものを見つけられていないかも。自分で起業した経験もないし、ペコちゃんほどは突き詰められていないですね。

岡島:そうかなぁ。私が思うに、シノマキのすごさと面白さは、新しいものに対する好奇心に加えて、それに対する自分自身の正義のジャッジメントができること。だから、今、糸井重里さんと一緒に世の中をいろんな角度で見ながら判断していく仕事はすごく向いているんだろうなと思っているんだよね。

篠田:たしかにそうかも。未整理の事象や抽象的な状態を前にして、「どれどれ、こういうふうに切り分けるときれいですよ」「実は裏から見ると青が赤になっちゃいます」なんていう仕事が大好きだし燃えちゃう。

岡島:だよね。自分に向いていることも好きなことも、無意識に分かっていて、自然とその方向に進んでいくものじゃないかな。かくいう私も今こんな仕事をやっているなんて、20代の頃には全然想像していなかったし。

篠田:私も。声を大にして言いたいのは、私たちは今こういう肩書きでやっているけれど、最初から目指していたわけではありません!ということ。

岡島:旅をしてたらいつの間にかここにいましたってくらいだよね。道中、人に会って、面白いことが起きて。

浜田:道中のアクシデントもプラスに変える力が重要そうですね。

岡島:楽観的であることは大事かもしれないですね。「なんとかなるさ」と思える力。

篠田:それは先天的な性格では決してなくて、意志によって獲得できるものですよね。「楽観的であろう」と心に決める。

岡島:言えてるね。

岡島悦子さんと篠田真貴子さん

30代半ばからのモードチェンジを意識して

篠田:女性の年齢ごとのステージについては、どう考えています?

私の感覚では、女性は10年ごとより干支の一回りの12年ごとにステージを分けて考えるのがしっくりくると思っているんです。12歳まで、13歳から24歳、25歳から36歳……という感じで。その中で25歳から36歳までの時期というのは、先人が培ってきた膨大な知見を身につけていく時期。その後の37歳からは、獲得した先人の知見を元に「さて、自分はどうする?」とモードチェンジする時期かなと。

一方で、女性は出産リミットとして35歳という年齢も節目になるので悩みも複雑になりがちですよね。いずれにせよ、30代半ばからのモードチェンジは意識した方がいいかなと思います。

岡島:それは人材育成の現場の体感とも近いですね。私自身を振り返ると、30代半ばまでは苦手科目しかやっていなかったな。ファイナンスやってアカウンティングやって、IRは割と向いていたけれど、新規事業開発やってコンサルやって。どれも「やりたいことを自由に選んでいいよ」と言われたら選ばない仕事ばかり。

でも、それらの経験があるから、今まるっと経営者の相談に乗れるし、「じっくり財務三表見せてください」と言える。いろいろ経験する中で「自分は本当は人が好きなんだよな」という気づきを得られたというのはとても大きかった。私は自分を遅咲きだと思っているけれど、今に至るまでの経験は全部やっておいてよかったなと思える経験ばかりですね。

篠田:私たちに限らず、たくさんの具体例のサンプルを知ってほしいですね。すると、「いろんな方法があるんだ」と視界が広がって、「私はこれならできそう」と道を発見するヒントが得られるかも。

岡島:変化を前向きに受け入れることも大事。女性は出産もするし、生理もあるし、結婚すれば苗字の変更を受け入れたりと、もともと“変化に強い”生き物であるはずなんですよね。だから変化を怖がらずに、飛び込んでみる。すると、予想以上に面白くなることは多いと思う。若い世代がもっと肩の力を抜いて楽しめるといいですね。

(聞き手・浜田敬子、構成・宮本恵理子)


岡島 悦子 : 1966年生まれ。筑波大学卒業後、三菱商事に。ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職。グロービス・マネジメント・バンク事業を立ち上げ、代表取締役に就任。2007年、「日本に“経営のプロ”を増やす」を掲げ、プロノバ設立。アステラス製薬、丸井グループ、リンクアンドモチベーションなどの社外取締役も務める。

篠田 真貴子 :1968年生まれ。慶應義塾大学卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)に。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論修士学位を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。ノバルティスファーマを経て、2008年、東京糸井重里事務所(現・ほぼ日)に入社し、翌年より現職。


【イベント決定!】MASHING UP Women’s Empowerment Global Conference

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岡島さんと篠田さんも登壇予定のカンファレンスMASHING UPを2月に開催します。

MASHING UPは、女性が強くしなやかに活躍できる社会を創出するビジネスカンファレンスです。全ての参加者が新しいインスピレーションを得て、次の一歩を踏み出し、ビジネスや働き方に役立つ化学反応を促します。

近年、企業でも行政でも、女性活躍推進の取り組みが著しく増加しています。

しかし、多くのコミュニティは業種別、年齢別、国籍別で分けられ、お互いに交わる機会は限られています。女性のみで構成されることも多く、女性以外を十分に巻き込めていない点も、「多様性」を真に社会の活力としていくうえで、重要な課題であると考えています。

MASHING UPは異なる性別、年齢、国籍、業種、業界を混ぜ合わせ(マッシュアップして)、新しい対話を生み出し、ネットワークだけでなく、新しいビジネスを創出できる場を目指しています。

各業界の“ゲームチェンジャー”をスピーカーとして招聘することで、参加者の皆様が次のステップを踏み出すきっかけを提供します。初開催となる今年のテーマは「Unleash Yourself」。ジェンダー、年齢、働き方、健康の問題……。私たちの周りにある見えない障壁を、多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かしていきます。

Women’s Empowerment Global Conference 「MASHING UP」

  • 日時:2018年2月22日(木) 〜 2月23日(金)
  • 会場:TRUNK(HOTEL)東京都渋谷区神宮前5-31
  • 主催:株式会社メディアジーン
  • 詳細、チケット購入はこちらまで。Business Insider Japan特別割引チケット15000円 → 14000円。※上記チケットお申込みページでプロモーションコード【MashBI】をご入力ください。

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