日本は「シェルター元年」北朝鮮、津波……Xデー報道に注文増加:2018急上昇ワード

ミサイル発射実験や核実験など度重なる挑発で、国際社会を不安に陥れた北朝鮮。日本海を隔てて目と鼻の先にある日本もまた、危機感が高まった1年だった。朝鮮半島非核化への道筋が見通せない中で、2018年は国民ひとり一人が覚悟と対応を迫られるかもしれない。

そんな年に、ぜひ覚えておきたいキーワードの一つが「シェルター元年」だ。2017年10月の衆議院選挙で自民党が選挙公約に地下シェルター整備を盛り込んでおり、今後、さまざまな動きが加速しそうだ。

小型エアコン並みのコンパクト化

「今週中に何とかつけてほしい」——。株式会社シェルター(大阪府羽曳野市)の西本誠一郎社長のもとには、こんな電話が相次いでいる。週刊誌やテレビでアメリカと北朝鮮が軍事衝突する「Xデー」の“予測”が流れるたびに、その前に対応してもらいたいという顧客からの悲鳴が上がっているという。

社名から想像できるように、同社は主に外国製の家庭用シェルター用ろ過器の輸入・販売を手掛けている。主力商品は、イスラエルの「Beth-El」社が開発した6人まで対応できる「レインボー36V」だ。

西本社長

小型エアコン並みの大きさに収納できるイスラエル製の家庭用シェルター用のろ過機。西本誠一郎社長にとって、シェルターの普及は悲願だ。

撮影:田中博

分厚い堅牢(けんろう)な壁に守られた地下室でひたすら時が過ぎるのをじっと待つ——。

核シェルターというとこんなイメージを浮かべる人は多いはずだ。だが、レインボー36Vは全く違う。事前に居室に吸気口と排気口を設けた上で、特殊フィルターを収めたエアコン形の収納庫を設置。有事の際にはフィルターを取り出して吸気口に取り付け、有害な物質を取り除いて排気する仕組みだ。

このフィルターは放射性物質だけでなく、猛毒のVXガスやサリン、炭そ菌などの有害物質を99.995%除去できるという。吸気口を通して安全な空気を室内に送り込み続けるため、ほかにすき間があったとしても室内に外気が流れ込まないようになっている。停電時でも手動ポンプで装置を動かし続けることが可能だ。1台で6~8畳まで対応でき、それ以上の広さでも複数台設置できるため、水や食料を持ち込めば普段使っている部屋が安全な避難場所に早変わりするというわけだ。

この半年で1000人から問い合わせ

齢(よわい)81歳を数える西本氏がシェルター社を設立したのは約55年前の25歳のときだ。

冷戦下の西ドイツ(当時)やスイスを訪れて市場調査を実施、来たるべき時に備えて核シェルターの必要性を痛感し、ドイツ式とスイス式の製品をこつこつと売り続けてきた。この間、販売台数は計10台。ところが2017年3月からイスラエル製品の取り扱いを始めたところ販売が飛躍的に増加、価格は280万円(税抜き、送料・取り付け工事費別)と決して安くはないにもかかわらず、約1000人から引き合いが来て約40台売れたという。

西本氏は「この半年間で、これまでの55年間の4倍になりました」と感慨深げに語る。

受注状況が一変したのは、内外2つの要因によるとみている。

外部要因は、何といっても「核戦争」への危機感の高まりだ。国際社会の非難にも耳を貸さず、北朝鮮が複数回にわたってミサイル発射実験や核実験を強行、これに対する米トランプ大統領の過激な発言やツイートが緊張感をますます高めていった。日本でもJアラート(全国瞬時警報システム)が鳴り響いたことで、脅威を現実のものとして感じた人は多いはずだ。「平和ボケした日本がようやく目覚めたということでしょう」と西本氏。

内部要因として西本氏が挙げるのは、製品のコンパクト化だ。収納庫の大きさは幅68センチ、高さ41センチ、奥行き22センチとまさに小型エアコン並みで、壁に掛けていれば場所を取らない。従来型がパイプやタンクむき出しの大人の背の高さを上回るような“ゴツい”ものだったのに比べると、抵抗感がはるかに弱いといえる。

シェルターの定義はバラバラ

北朝鮮問題に解決の糸口が見出せない限り、今後もシェルターへの関心は高まることはあっても低くなることはないだろう。

記憶にある人は少ないかもしれないが、自民党は2017年10月に行われた衆議院選挙の選挙公約に核攻撃を想定した地下シェルターの整備を盛り込んでいる。同年12月初旬に開いた国土強靱(きょうじん)化推進本部の会合では、ワーキングチームで具体策を検討していくことを決めた。

もっとも、政府や党内でも議論はまだかみ合ってはいないようだ。ある政府関係者は「ひと言でシェルターといっても使う人によって定義がバラバラ。政府内では小中学校や公民館など自然災害時における避難場所を想定してしまうケースが多い」。自民党内の議論でも「自分の選挙区を想定してか、災害の避難場所の整備を急ぐ声が多かったようだ」とこの関係者は首をかしげる。

今後、こうした避難場所に地下シェルターを整備しようという議論が進む可能性はある反面、「Jアラートが鳴っていれば安全な建物内にとどまってほしい。外の避難場所に駆け出していくのはやめてほしい」というのが政府の立場。具体的な避難方法なども策定し、明示しなければいくら地下シェルターを備えたとしても宝の持ち腐れになりかねない。実際の予算措置まで見据えた動きは2018年度以降になるはずで、実現までには紆余曲折も予想される。

地域によっては津波用に需要

そうした意味で、地域によっては核攻撃より関心が高いのは災害用だろう。建設業を営む小野田産業(静岡市)は2018年3月から津波・火山用シェルター「SAM」を販売する。高さ2.1メートル、直径2.24メートルの円筒形で、素材に難燃性発泡スチロールを用いているため燃えにくい上に水に浮くのが特徴。内外装は衝撃に強いコーティング材を使っているため、ある程度であれば爆破などにも耐えうるという。重さは約200キロで床面積は約3平方メートルと場所を取らないため庭や屋上に設置することを想定している。

津波用シェルター

津波用シェルター「SAM」。津波で海に流されても水に浮く。

提供:小野田産業

最大のセールスポイントは、「子ども部屋や趣味部屋として普段使いしてもらうことで、いざというときにちゅうちょなく逃げ込める。シェルターは最後の使い方なのです」と建設部の滝川真哉プロジェクトリーダーは説明する。

通常は中央の丸テーブルと壁内部に広がる半円のベンチが備えられ、外部からの電源供給によって電気製品を使うことも可能だ。ところが被災時には一転、テーブルをベンチの高さにそろえることでベッドに変身、ベンチの下はペットボトルが100本以上入る大容量の収納庫として活躍する。内蔵バッテリーも備えているため、事前に蓄電しておけば400ワットの電力を供給することができ、天井のLED照明で40時間もつという。

平時には大人6人がゆとりをもって座れる空間があり、被災時には10人まで逃げ込める。

シェルター内部

「SAM」の内部。被災時はテーブルを下げてベッドにすることも。

提供:小野田産業

価格は99万8000円(税抜き)。東京での展示会に出展したところ「おおむね好評」(滝川氏)で、初年度の販売目標は津波用20台、火山用3台。3年目にはそれぞれ60台、10台を計画しているという。

まだまだ緒に就いたばかりのシェルター整備。しかし、官民でさまざまな動きが出てくれば、国民のあいだで相乗的に認知度や関心が高まっていくかもしれない。

(文・田中博)

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