味・価格失敗なし、暴風雨でも鍋料理でも。中国人の食生活を一変させた出前アプリ

私が住んでいる大連は、12月の気温がマイナス10度を下回ることも珍しくない。セントラルヒーターのおかげで、室内は洗面所やトイレもぽかぽかだから、外に出るのは一層おっくうになる。こんな日に外出せず、熱々のしゃぶしゃぶを食べられたらどんなに幸せだろう……。数年前までは妄想に過ぎなかったこんなわがままは、今やスマホ1台でかなえられる。Made in Chinaの出前アプリさえあれば。

配達する人

外に出たくない悪天候の日でも、フードデリバリーは普段通り食べ物を届けてくれる。

撮影:包志紅

ランチはもう外食しない

今の会社に入って3カ月、隣の部署の人たちが昼食に出かけるのをまだ一度も見ていない。彼らは毎日、出前アプリで昼ごはんを調達している。深センで働いている友人の会社でも、皆出前で昼食を選んでいる。

キャンパスに複数の学食がある大学生でさえ、食堂に行かずに出前を頼む人が増えているようだ。近くの大学の前を通ったときに、出前のバイクが何台も停まっていることに驚いた。

市場規模グラフ

単位は億元。2017年以降は予測。

2016-2017中国オンラインフードデリバリー市場研究報告より抜粋

市場調査会社艾媒諮詢(iiMedia Research)が2017年3月に公表した「2016-2017中国オンラインフードデリバリー市場研究報告」によると、2016年の中国のオンラインフードデリバリー市場規模は前年比23.1%増の1662億4000万元(約2兆8000億円)。「美団(メイトゥアン)外売」「餓了麼(Ele.me)」「百度外売」の3社が、シェアの9割超を握っている。

火鍋

火鍋の鍋、スープ、たれ、具材も配達してくれる。

店舗のメニュー画面より

出前アプリの使用方法は簡単だ。食べたいものを選んで決済すれば、GPSで配達場所を特定し、30~60分ほどで届けてくれる。パクチーなど苦手な食材がある場合は、備考欄に入力すれば外してもらえる。ユーザーのレビューが豊富なため、味や価格で失敗するリスクも低い。

注文できる料理は多種多彩。中華料理は当然のこと、イタリア料理、日本料理、韓国料理もリストにある。

寒い日に、「熱々の火鍋を食べたい」と思ったら、鍋の食材、だし、調味料まで届けてくれる(お金を払えば鍋も売ってくれる)。今夏、中国南部を台風が襲ったときは、食事を届けるために暴風雨の中を走り回るバイクの姿が、ニュースで感動を呼んだ。雨の日も、雪の日も、配送員は大きな遅れなく食べ物を配達してくれる。

ユーザー2億5600万人、配送員は700万人

ユーザーの中心は大学生から30代前半までのサラリーマンだ。社食のない会社に勤めていて、周囲に飲食店がなかったり、あっても混んでいるという人にとって、出前アプリは救世主的な存在と言える。

中国語ができない外国人にとっても、出前アプリはありがたい。

ソーシャルメディアで人気を集めるイスラエル人留学生の高佑思( Raz Galor )さん(23)が、外国人留学生に「中国の魅力」をインタビューした動画では、「モバイル決済」「シェア自転車」「出前アプリ」を称賛する声が多数寄せられた。高佑思さんは自ら出前の配送員を体験し、その様子を動画投稿。中国で2000万回以上再生されている(動画は英語字幕あり)。

業界の元祖は、上海の大学院生たちが2008年に立ち上げた「餓了麼(Ele.me)」。長い雌伏の時期を経て市場が爆発したのは、スマートフォンやメッセージアプリが普及したこの2~3年だ。艾瑞諮詢によると、出前アプリのユーザー数は2016年時点で2億5600万人。宅配便業界より勤務がフレキシブルで稼ぎやすいため、同業界から人材の流入が加速し、700万人が配送に従事しているという。

アリババ vs テンセントの2強構図に

市場成長とともに業界内の競争も激しくなり、各社はユーザー獲得のために、クーポン券を乱発している。2017年は大規模な再編が起き、シェア自転車市場同様に、アリババvs 騰訊(テンセント)の構図になりつつある。

業界構図

作成:浦上早苗

2016年にアリババから12億5000ドル(約2100億円)の出資を受けて傘下入りした餓了麼が2017年8月、バイドゥ(百度)傘下の百度外売を買収したニュースは、中国で大きな話題になった。百度外売は2014年に設立されたが、思うようにシェアを伸ばせず3位に甘んじていた。

一方、美団外売を運営する「美団点評」は今年10月、筆頭株主であるテンセントなどからさらに40億ドル(約6900億円)の出資を受け、企業価値でAirbnbやスペースXを上回る世界4位のユニコーンになった。

美団点評はもともと、アリババから出資を受ける「美団」とテンセントから出資を受ける「大衆点評」という口コミサイト業界1、2位のライバル会社が2015年に合併して生まれた会社だ。美団点評は合併を機にアテンセント陣営に属し、アリババは美団のライバルの「餓了麼」との関係を強めることになった。

アプリ

美団外売アプリのトップ画面(左)と店舗の画面(右)

市場の拡大にルール整備や規制が追い付かないのも、ほかの新興業界と同じ。個人が自宅で料理を作り、販売しているケースも珍しくなく、「賞味期限内の食材を使っている」「キッチンが清掃されている」といったことを保障する体制は整っていない。

路上の放置自転車には目をつぶれても、食の安全となると話は別。中国当局は11月、出前アプリの掲載店舗に飲食店経営の許可証取得を求めることなどを盛り込んだ「オンラインフードデリバリー食品安全監督管理弁法」を2018年1月から実施すると公表した。

14億人の胃袋の新たな支え手として、アリババ、テンセント、さらには国を巻き込んで成長するフードデリバリー。2020年に7000億元(約12億円)市場に成長するという試算もある。シェア自転車のように、日本に殴り込みをかける日も遠くないかもしれない。

(文・包志紅、編集・浦上早苗)

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