原因は漁業権販売? 北朝鮮からの「幽霊船」が示唆する悲惨な現状

沈みかけた船

警察によると、この船には北朝鮮の漁師と見られる男性8人が乗船していた。

Kyodo via Reuters

  • 日本では最近、遺体を乗せた北朝鮮からと見られる木造船が、日本海沿岸に漂着する事例が相次いでいる。
  • 専門家はその背景に、北朝鮮による中国への漁業権の販売があるのではないかと指摘する。
  • 相次ぐ漂着からは、北朝鮮の海産物や外貨を求めざるを得ない厳しい実情も浮かび上がる。

日本には最近、遺体を乗せた船が何十隻も漂着している。専門家はその背景に、北朝鮮と中国の間の漁業に関する取り決めの存在を指摘する。

ジャパンタイムズ(Japan Times)が12月12日に報じたところによると、日本の海上保安庁は11月の初め以降、日本海沿岸で北朝鮮からと見られる老朽化した船を50隻ほど発見しており、その多くから遺体や遺骨が見つかっているという。

直近では24日にも、山形県の鶴岡市と酒田市で、木造船1隻と計5人の遺体が漂着しているのが見つかった。身元は不明で、一部は白骨化していると言い、海上保安庁や警察が関連を調べていると時事通信が報じている

漂着が相次ぐ理由は定かではない。専門家が以前Business Insiderに語ったように、北朝鮮の食糧不足が原因である可能性がある一方で、北朝鮮の漁業従事者に課せられた年間漁獲量のノルマが影響している可能性もある。

あるいは、北朝鮮が自国の沿岸の漁業権を中国に販売したために、漁船が日本に近い沖合に集中しているのかもしれない。そこは、今の季節に貧弱な木造船で乗り出すには、荒れすぎている海域だ。

漂着した木造船

一部白骨化した8人の遺体を乗せた木造船が漂着、日本の海上保安庁に発見された(秋田県男鹿市。2017年11月27日、共同通信が撮影)。

Kyodo via Reuters

自国の海域から締め出される北朝鮮の漁師たち

専門家は、北朝鮮当局が外貨を求めて沿岸の漁業権を中国に販売したことで、北朝鮮の漁師たちは沖へ向かわざるを得なくなっていると指摘する。

韓国の通信社「聯合ニュース」によると、韓国政府と情報当局の消息筋は2016年、北朝鮮が黄海に続き、日本海の軍事境界線にあたる北方限界線(NLL)付近の漁業権を中国に販売、年間7500万ドルの販売代金の全額が金正恩氏の統治資金に流れていると明らかにした。

だが、漁業権をめぐる両国の取り決めが、どのような性質のものかは不明だ。

ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(SOAS)の研究員で、1998年から2001年にかけて北朝鮮で生活をした経験を持つヘイゼル・スミス(Hazel Smith)教授は、これは民間企業間の取り引きだったと見ている。

「全ての取り引きは、政府から一定の承認を受け、認可を得る必要があるものの、北朝鮮ではあらゆる規模の企業が、あらゆる種類のビジネスで、中国企業と個別に取り引きを行っている。漁業もその1つだ」と、同教授はBusiness Insiderに語った。

「こうした契約の多くは、口頭で交わされる」と言い、取り引きの事実を証明するのは困難だ。

北朝鮮における漁業の重要性

ナマズの養殖工場を視察する金正恩氏

三泉(サムチョン)にあるナマズの養殖工場を視察する金正恩氏。2017年2月に公開された写真。

KCNA via Reuters

北朝鮮政府は何年も前から、漁獲量を増やすことを人民に奨励し、漁業を軍務になぞらえるほど重要視している。

朝鮮労働党機関紙の『労働新聞』は11月の社説で、「漁船は祖国と人民を守る軍艦であり、魚は軍と人民に送る銃弾・砲弾と同じだ」 とげきを飛ばしたと、日本経済新聞は報じている

また、早稲田大学の重村智計名誉教授は、ワシントン・ポストに次のように述べている。「漁師たちは通常、決まった漁獲ノルマを課せられている。以前は海産物を中国に輸出していたが、新たな制裁措置により、海産物の輸出ができなくなった。それでも漁獲ノルマは存在している。漁師たちは(中略)もっと魚を獲ろうとして、海へ出る時間が長くなっていると考えられる」

北朝鮮政府が漁業を奨励するのは、人民が口にするタンパク源を増やすねらいもあると、スミス教授は指摘する。ただ、それが機能しているかどうかは、別の問題だ。

同氏は言う。「北朝鮮政府は25年前から、淡水魚の養殖を推し進めようとしてきた。タンパク源の必要性は以前から認識されている。北朝鮮ではほとんどの人が十分なタンパク質を取れていない。そこで政府は、国内に大規模なナマズの養殖施設の建設を奨励してきた」

しかし、依然として魚は主要な食料になっていないと、スミス教授は言う。売買や輸送には「莫大なコストがかかり」、冷蔵庫を所有している人も少ないためだ。

「北朝鮮の大多数の人にとって、過去も現在も、魚は主要なタンパク源ではない。そうしたくても不可能だ」

平壌にあるナマズ養殖工場を視察する金正恩氏

平壌にある順川ナマズ養殖工場を視察する金正恩氏。2017年11月に公開された写真。

KCNA via Reuters

そして、なお多くの漁師が必死の思いで危険な海へ乗り出していると、スミス教授は指摘する。

「人々はいまだ飢餓状態にある。冬には気温がマイナス20度まで下がることも多く、食べなくては身がもたない。彼らは今も貧困にあえいでいる」

「20年前に比べると、治安当局の目をかいくぐるのも、かなり容易になっている。治安当局の担当者たちも、家族を食べさせるお金を必要としているからだ」

「それでも、役人たちは比較的強い立場にある。海へ出る漁船に目をつぶるにしても、漁で得られた利益の一部を得る取り引きを結ぶにしても」

相次ぐ「幽霊船」の問題について、スミス教授は語る。「今後さらに増えたとしても、わたしは驚かない。人々はますます追い詰められ、海へ出ざるを得なくなっている。これは北朝鮮のおそろしく悲惨な現状を示すものだ」

[原文:A fishing deal with China could be the reason North Korean 'ghost ships' are flooding Japan]

(翻訳:高橋朋子/ガリレオ/編集:山口佳美)

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