米社との和解でも“東芝劇場”は終わらない、続編は「やっぱり半導体事業は売らない」の真実味

債務超過を解消するため、半導体部門を分社し、これを売ることにした。しかし、提携先の米ウエスタンデジタル(WD)に売るのか、いわゆる日米韓連合に売るのかで話は二転三転。最終的にWDが矛(ほこ)を収め、売却先がようやく決まった—— 。

今年の“東芝劇場”を要約するとおおむねそんな感じで、2015年の不正会計発覚に始まった長編物語はようやく結末を迎えたように見える。しかし2018年、恐らく続編が始まるだろう。巷間指摘される、独禁当局の判断うんぬんではない。「やっぱり半導体事業は売らない」という新しいストーリーだ。

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東芝のドタバタ劇は簡単には幕を下ろさない。続編の予告編はすでに始まっている。

Toru Hanai/Reutuers

予告編は始まった

実際、予告編は始まっている。東芝の株式を株主でアクティビスト(注:いわゆる「モノ言う株主」。投資先企業の経営陣に提言したり、経営改革を迫り、企業価値の向上を目指す投資家のこと)のアーガイル・ストリート・マネジメント(ASM)が売却を見送るよう提言している書簡を東芝に送付した。

東芝が半導体子会社の「東芝メモリ」を売ろうとしたのは債務超過回避が目的だった。しかし6000億円の第三者割当増資が完了し、もはや虎の子を売る必要はない。手元に残しておけば企業価値は向上し、保有株式は値上がりする。ASMに限らず東芝の株主となったアクティビストたちは、こぞってそう声を上げるに違いない。

この2年あまりの東芝劇場は「おれは西室(泰三元社長)よりも優れている」とか「西田(厚聰元社長)は許せない」といった歴代経営者の嫉妬と、監督官庁である経済産業省の杜撰(ずさん)な「原子力ルネッサンス政策」が紡ぎ出した「内ゲバ転落編」だった。2018年からの続編の主人公はアクティビスト。題名はさながら「株式おもちゃ編」といった感じだろうか。

その序章が奏でられ始めたのは、2017年10月12日にさかのぼる。少々説明調になるが、なるべく丁寧に記す必要があるだろう。

東京証券取引所

東証は2017年10月12日、東芝を特設注意市場銘柄から外した。

REUTERS/Thomas Peter

この日、東京証券取引所は東芝を特設注意市場銘柄から外した。特設注意市場銘柄に指定されるのは、有価証券報告書の虚偽記載などで内部管理体制に不備が認められた銘柄である。指定されると、1年ごとに「ガバナンス体制をこう改善しました」というようなことを書いた内部管理体制確認書を証券取引所に提出しなければならない。

取引所は確認書に基づいて当該企業を調査する。問題が認められないと判断すれば指定を解除するが、「問題あり」となれば翌年も確認書の提出を求める。この作業を3回続けても状況は改善していないと取引所が判断すれば上場廃止となる。

2015年春に不正会計が表面化した東芝は同年9月15日、特設注意市場銘柄に指定され、1年後に確認書を提出している。その時の東証の判断は「なお問題あり」だった。しかし半年後の2017年3月15日の再提出を経て、10月12日に「問題なし」とした。

東証が東芝増資で働かせた忖度

何がどう変わったのか。東証は指定を解除した理由として、①社外取締役だけで構成される指名委員会を設置し、取締役の選任・解任プロセスを改善した②社外取締役だけで構成される取締役評議会を設置し、意思決定プロセスに対するチェック機能を強化した——などを挙げている。

確かに一見、ガバナンスが効くような仕組みは作ったかもしれない。しかし、再提出後の東芝経営陣の迷走ぶりはご案内の通り。2017年3月期決算も発表を延期した。とても内部管理体制が強化されたとはいえまい。

東芝・綱川智社長

2017年5月15日、記者会見の席で東芝の再建策を説明した綱川智社長。

REUTERS/Toru Hanai

東証は少なくとも2018年3月15日までは経過観察をするべきだった。しかし2018年3月の確認書再提出を受けてから審査を始めれば今期の債務超過が確定し、上場廃止となってしまう。それを避けるには、一刻も早く第三者割当増資ができる環境を整えなければならなかった。かつてダイエーの経営破たん時にも問題となった「too big to fail」を避けようという力学が強く働いたのだ。

とはいえ特設注意市場銘柄の第三者割当増資はさすがに認められない。そこで実態は何も変わっていない東芝の内部管理体制が強化されたとお墨付きを出し、増資に道を開いた。それが政府の意向なのか。官邸の意向なのか。はたまた忖度(そんたく)なのかは判然としないが、とにかく東証は東芝のために裁量を効かせた格好だ。

増資報道で誰が大儲けしたか

「ブラックボックスとなっている東証の判断をどうにかすべきだ」と投資銀行幹部は言う。同幹部は上場廃止を前提とした再生スキームを東芝に提案していたから、儲けそこなったことで憤っている面はあるだろう。しかし「東証の指定解除をきっかけに東芝株に群がったアクティビストのやりたい放題を見過ごしてよいのか」という指摘は一考に値する。

実際、6000億円の第三者割当増資が報道されると、翌日から東芝株の売買高は急激に膨らんだ。売ったのは恐らく株式の希釈化(きしゃくか)を嫌気した投資家ばかりではない。「11月9日のNHK報道を受けて空売りをかけ、増資を決議した時点で買い戻したアクティビストがいるはずだ」と関係者は言う。報道内容は、上場維持に向けて半導体子会社の売却が遅れる事態に備え、東芝が第三者割当増資や公募増資を中心に、6000億円規模の資本増強策について具体的な検討に入ったというものだった。

東芝株の11月8日の終値は320円。10日は297円まで下落した。アクティビストは12月5日、1株262円で株式を購入しており、ノーリスクで1株50円あまりのサヤを抜いている計算になる。「増資報道は誰が仕掛けたのか。その後、誰が東芝株を売買したのかは調査する」と金融庁幹部は語る。

この増資完了を菅義偉官房長官は「心から歓迎する」と語ったが、ゆがんだ市場の規律を政府が「是」とする姿勢は首をかしげざるを得ない。東芝を取り巻く闇の深さがうかがい知れる。

(文・悠木亮平


悠木亮平(ゆうき・りょうへい):ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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