「日本の性被害者支援は中世レベル」——「詩織さん事件を検証する会」森ゆうこ議員に聞く現状と解決策

日本でもいよいよ「#MeToo」が広がり始めた。アメリカで俳優らがハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ被害を告発したことに端を発して、ツイッターなどで「#MeToo」と声を上げる動きが広がっていたが、日本でも有名ブロガーのはあちゅうさんの告発をきっかけに「#MeToo」と投稿する人が相次いでいる。

しかし、議論の方向ははあちゅうさん個人や書いてきたものへの批判とすり替えられ、矮小化され、社会のあり方や性被害者支援の仕組みの議論までは広がっていない。

これはここ半年取材や会見等で発言してきたジャーナリストの伊藤詩織さん(以下、詩織さん)の事件と重なるところがある。

2017年10月、詩織さんは自身の性暴力被害とその刑事告発が不起訴処分になるまでの一連の体験をつづった著書『ブラックボックス』を出版した。その中でこの本を書いた理由について、この国の捜査や司法、性犯罪ホットラインなど性犯罪の被害に遭ったときの救済の仕組みづくりまで取り組んでほしいからだと述べている。

私が本当に話したいのは、「起こったこと」そのものではない。

「どう起こらないようにするか」

「起こってしまった場合、どうしたら助けを得ることができるのか」 という未来の話である。それを話すために、あえて「過去に起こったこと」を話しているだけなのだ。

(中略)

あくまで私が伝えたかったのは、被害者が泣き寝入りせざるを得ない法律の問題点や、捜査、そして社会のあり方についてだ。

『Black Box』より引用

こうした訴えを受け、国会内では超党派で「準強姦事件逮捕状執行停止問題」を検証する会(以下、検証する会)が立ち上がり、検察や司法、性被害者支援の改善について議論が進められている。

Business Insider Japanではこの検証する会の呼びかけ人の一人である自由党・森ゆうこ参院議員(61)に話を聞いた。

超党派で「準強姦事件逮捕状執行停止問題」を検証する会

12月6日に行われた第3回検証する会では伊藤詩織さんが講演し、捜査や被害者支援の体制について改善を求めた。

提供:森ゆうこ議員事務所

ワンストップで被害者を守る体制がない

2017年6月、110年ぶりに刑法の性犯罪規定が改正され、被害者の対象に男性も含めること、性犯罪の厳罰化、非親告罪への変更などが盛り込まれた。

しかし、第3回検証する会で詩織さんが「スウェーデンでは病院内に24時間体制のレイプ救済センターが整備されているが、東京には24時間体制のレイプ救済センターが1つしかない」と指摘したように、被害者支援の仕組みは整っていない。

今回、「検証する会」を立ち上げた理由について森氏はこう語る。

「詩織さんが勇気を持って声を上げたことに対して、この問題をきちんと国会で検証しなければと思っている国会議員が党派を超えてたくさんいたということ。通常国会の刑法改正で、性被害の当事者が声を上げられなくても告訴できる非親告罪化が実現し、法律的には一歩進んだ。しかし、被害者支援の仕組みは遅れているなんてものじゃなくて、中世レベル。証拠を保全し後の立証に役立てる仕組みや、すぐに被害者の相談に乗り、心身のケアをするというワンストップで守る体制がない。これを何とか整えないといけない

第二回超党派で「準強姦事件逮捕状執行停止問題」を検証する会

「検証する会」には全野党の議員が出席、検証・議論を進めている。

出典:森ゆうこ議員事務所

具体的には、「性暴力被害者支援法案」(性暴力被害者の支援に関する法律案)の成立を目指しているという。この法案ではワンストップ支援センターの整備や捜査過程における配慮、啓蒙などが記述されている。

「この法案は与野党で対決するような法案ではない。詩織さんから『なぜレイプ救済センターが整っていないのか?』と質問されたが、何も答えられない。立法府にいる人間として申し訳ない。一刻も早く設置したい」

ブラックボックス状態の検察審査会

詩織さんの『ブラック・ボックス』によると、加害者として告発していた男性については、逮捕状まで出ていたにもかかわらず、直前で執行取りやめになったという。森氏はこの逮捕状執行停止や検察審査会のあり方についても疑問を投げかける。

「この男性が帰国するところを空港で待ち構えて逮捕する直前に、菅官房長官の元秘書官、中村格(いたる)刑事部長(当時)が自分の決裁で逮捕を取り下げたことが国会で確認された。警察の捜査、逮捕状執行という公権力が適切に行使されたのか否か、これこそ立法府として検証すべき。すでに検察審査会で不起訴相当の議決が出ていることから、与党の国会議員から『司法への不当介入』『三権分立も知らないのか』といった批判も来るが、立法府が司法や行政をチェックしないで誰がやるのか。三権分立はチェックアンドバランスで機能している。きちんと検証するのが我々の責務」

森裕子参院議員

警察や検察相手だと尻込みする議員が多い中、森議員がこの問題に立ち向かうのは「不条理をなくすため」だと語る。

詩織さんは男性の「不起訴処分」を不服として検察審査会に審査を申し立てたが、検察審査会の結論は「不起訴相当」。

検察審査会は、20歳以上で選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた11人の「検察審査員」が審査する。不起訴とした検察官に対して、審査に必要な捜査資料の提出や会議での説明を求めることもできる。ただ、検察審査会が「起訴相当」として、検察の「不起訴」を覆す事例は圧倒的に少ない。2016年の検察審査会の受理件数は計2190件だが、このうち起訴相当の議決がなされたのは3件で、たった0.1%だ。

検察審査会はまさに現代のブラックボックス。この民主主義の社会で、会議が開かれたのかもわからない。どういう人が参加したのか、どの証拠を使ったのかもわからない。裁判員だって記者会見をする」

森氏が検察を追及するのは今回が初めてではない。自由党代表・小沢一郎衆院議員(75)が資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、嫌疑不十分で不起訴になった後、市民団体が検察審査会に審査を申し立て、「強制起訴」になった。森氏は疑問を抱き、検察審査会で何が議論されたのかを明らかにしようとした。

「審査会の開催状況を報告する審査事件票を請求しても黒塗りばかりで何も分からない。陸山会事件のときは、事実とは似ても似つかぬ虚偽の捜査報告書が提出されたことが発覚した。会議録を記載するなど検察審査会法の改正が必要。このままだと本来起訴されるべき人が起訴されない一方で、冤罪を防ぐこともできない。もっとみんなが納得できるような体制に変えていきたい」

「昔はそうだった」はもう誰も支持しない

他方、はあちゅうさんの告発をきっかけに声を上げる人も増えてきたが、詩織さんもバッシングを受け、性被害者に対する目は依然として厳しい。今後変わっていくのだろうか。

「やっぱりまだ『被害者にも落ち度があったのだろう』とか、『性に関わることを公に議論しない』というような風潮がある。でも、『昔はそうだった』という声はもう誰も支持しない。被害者が次々に声を上げ性暴力を許さないという世界的な潮流の中で、人権を重視しない国と見られてしまうのはどうなのか。すぐには変わらないが、日本も性被害者の人権が最大限尊重される社会になっていかないといけない

詩織さんの発信を受けて、「詩織さんとともに声をあげよう!」と署名を集める動きも広がっている。福岡県に住む25歳の福原桃似花(もにか)さんは「性について語ることのタブーを変えたい」という想いからchange.orgでキャンペーンを立ち上げた。立ち上げて1週間程度で2万人近くの署名が集まり、現時点では約2万3000人の署名が集まっている。

福原桃似花

幼い頃から「女性だから」足を閉じないとダメ、夜道を歩くのがダメ、そうした考え方への強烈な違和感があったという。

提供:もにかさん

内閣府の2014年「男女間における暴力に関する調査」によれば、実際に全く知らない人から無理やり性交されたというケースは11.1%。多くは顔見知りから被害を受けるケースだ。だが、警察に相談に行く被害者は全体の4.3%だけで、そのうちの半数は見知らぬ相手からの被害。顔見知りから受けたほとんどの被害者が警察に行ってすらいない。

仮に相談に行ったとしても、今の日本の法制度では、事件を起訴することも難しい。

今後、どう被害をなくし、仮に被害にあってもサポートを受けられる仕組みをどう作っていくか。日本でも「#MeToo」が広がった今こそ、どう社会を変えていくかが問われるべき時だ。

(文、写真・室橋祐貴)

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