ミレニアルが消費と小売りを一変させる——米クリスマス商戦に見る地域、スモール、1点ものへのこだわり

小売業界の売り上げの約3割が集中する、11月末の感謝祭からクリスマスイブまでのアメリカの「年末商戦」が12月24日終わった。

しかし、この伝統的な商戦が、変わり始めている。「台風の目」は消費者人口の3分の1を占めると言われる「ミレニアル(1980年代〜2000年に生まれた世代)」だ。

物心がついたころには、インターネットが当たり前のインフラとしてあった彼らの消費行動のキーワードは、「オンライン」と「こだわり」だ。

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ユニオンスクエアのホリデーマーケットで、クリスマス飾りの店には客が殺到していた。

撮影:Morgan Freeman

誰が作ったのか分からないものは買わない

ミレニアルはベビーブーマー世代などとは異なる買い物に対する思想を持ち、ウォルマート・ストアーズや家電のベストバイといった量販店、つまり大量消費を前提として成り立ってきた小売業界には頼っていない。こうした世代が今、アメリカの小売業界を大きく変貌させようとしている。

マンハッタンに住むバーテンダーのキャット・ファンクさん(30)は、AmazonとEtsyで、全てのギフトを買いそろえた。Amazonプライムの会員で、ニューヨーク以外の州や海外への送料がかからない利点がAmazonでは大きいという。Etsyは、個人のアーティストが手作りのユニークな商品を売っているサイトで、大事な人へのギフトは、ここで見つける。

「ローカルかスモールビジネスを支援することを心掛けているし、そうすべきだと信じている。Amazonで買うのは無料配送ができるから。店舗で何か買って、郵便局の長い列に並んで、年末に焦りを感じるのは意味がない」

スイスから休暇旅行でニューヨークに来ていたダニエル・パーク氏(30)もこう言う。

「ホリデーマーケットで、ガールフレンドへのアクセサリーを、ブルックリンのアーティストから買った。ギフトは誰が作ったのか分かるものしか、買わないようにしている」

シティ・グループがスポンサーに

クリスマス前の1カ月間、ニューヨーク観光名所、ユニオン・スクエアなど3カ所では、地元の小売店やシェフが仮店舗を公園の一角に開く。この「ホリデーマーケット」は24年続いており、地下鉄乗り換えのハブでもあるユニオン・スクエアでは、2017年には170店超が出店。出店主は、日本人観光客に人気のブルックリン区のアーティストが多い。オリジナル商品だけに、ギフトの単価は決して安くないが、クリスマス前は身動きできないほどの混みようだ。

これに着目した米金融大手シティ・グループが2017年からスポンサーになり、無料のギフトラップ、無料のホットチョコレート、スマホのチャージングステーションなどを併設した。

ギフトラップ担当ボランティアのクリスチャン氏(30)は、こう説明する。

「60%が市民、40%が旅行客で年齢はさまざまだけど、若い人が年々増えている。毎年出店しているアーティストを覚えていて、あるいは親に連れてこられた記憶から、同じ人から買う人も多い。ローカルのスモールビジネスに愛着があるんです。私はスカーフ2枚、写真立て、古いニューヨークの写真ポスター、ゾウのクリスマス飾りを買った。どれをとっても、1点ものという感じがするから、ギフトにはちょうどいい。手作り石けんが裸で売られていて、ビニールに包まれていないという苦情があったけど、そういう人は、スーパーマーケットで買い物すれば、という感じです」

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量販店では見つからないような、繊細なアクセサリーを友達に買ってもらっている若い女性。ユニオン・スクエアのホリデーマーケットで。

撮影:Morgan Freeman

筆者が住むクイーンズで近所に住む教員のブリタニー・レボさん(27)も言う。

「(量販店などが)単価を下げて、クリスマスギフトをたくさん買うようにあおり、利益につなげようとする商魂に乗る意味がどこにあるのか、分からない。クリスマスを過ぎたら、チョコレートの箱一つでも返品する人もたくさんいるし、街に出た途端、同じものを着ている人がいたりする。それよりも、ローカルビジネスからオリジナルなものを買って、限定された人に贈った方がいい」

ファストファッションは着ない

筆者が住むクイーンズで、近所に住むミレニアルと洋服について話をしても、GAP、H&M、ZARA 、ユニクロなどファストファッションのブランド名は出てこない。

「H&M? ユニクロ? 気をつけたほうがいいわよ。明日には、同じものを着ている人に地下鉄で出くわすから」(音楽ジャーナリスト女性、20代)

「売っていた服を燃やすなど、資本主義の醜い面でもあるファストファッションに、お金を使いたくない」(バーテンダー女性、32歳)

彼らは徹底的にオンラインで自分や贈り主に合うものを探し、リーズナブルな価格で購入する。古着屋から買ってきたものをカットしたり、漂白剤でまだらの柄をつけるなど、工夫を凝らすことにも長けている。

もちろん地方に住むミレニアルにとっては、買い物を楽しむところが、全米どこにでもある量販店で成り立つショッピングモールしかないのは事実だ。

スモールビジネスでの買い物が30%増

それでも年末商戦のデータをみると、小売業界で起きている変化がわかる。 11月の感謝祭翌日の「ブラック・フライデー」(11月24日)から「サイバー・マンデー」(同27日)の4日間は、量販店業界にはショックな結果が出た。

BuzzFeedによると、Adobeアナラティクスが行ったオンラインショッピングの調査で、年商1000万ドル以下のスモールビジネスの利益の伸び率が、年商が10倍以上である大手小売店の倍以上に達したという。同時に、スマホから、スモールビジネスでショッピングした回数も前年比30%増となった。スモールビジネスの成長率の方がはるかに大きいという表れだ。

例えば、アーティストのオリジナル商品を集めた前出のEtsyの7−9月期決算は、売上高が前年同期比21.5%増の約1億ドルだった。オンラインだけのEtsyと単純に比較することはできないが、小売世界最大手で全米4672店舗ある(卸のサムズ・クラブなどを含む、スタティスティカによる)ウォルマートの同期決算は、同4.2%増の1230億ドル。オンライン・スモールビジネス、つまりミレニアルの需要に特化したEtsyの成長率がはるかに大きい。

同時に、ニュースサイトAxiosによると、2017年に閉鎖された小売店舗数は約6000店と過去最高に上り、同年1月に比べると、小売の従業員数は6万5000人も減少した。閉鎖された店舗には、Sports Authority、Kmart、GAP、ウォルマートなどが含まれる。

「オンライン」「こだわり」という思想の下、大量生産・販売されるものは買わないというミレニアルの消費行動が、じわじわとアメリカの小売業界を破壊し始めている。

(文・津山恵子)

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