高騰を続けて世界中の投資家たちの購買意欲を駆り立ててきた仮想通貨のビットコイン。クリスマス・ショッピングに賑わうリアルの現実社会とは対照的に、バーチャル通貨のビットコインは2017年12月に急落し、日米で波紋が広がっている。
同時に、取引の急増に伴い、そのネットワークの脆弱性が現れ始めている。
ビットコインの取引所を運営するビットフライヤーとコインチェックは12月下旬、ネットワーク手数料の高騰を理由に、送金手数料を大幅に引き上げた。
今村拓馬
ビットコインの取引所を運営するビットフライヤー(本社:東京港区)とコインチェック(本社:東京渋谷区)は12月下旬、送金手数料を大幅に引き上げた。両社ともに、ビットコインの取引ネットワークが混雑し、取引所が支払うネットワーク手数料が高騰したことを理由にあげた。
コインチェックが12月20日に、送金手数料を2倍の0.002BTCへ変更すると発表すれば、ビットフライヤーは同手数料をクリスマスイブの24日早朝から一時的に約4倍に引き上げ、0.0015BTCとした。ビットフライヤー・広報担当者は、同社がビットコインのネットワークを支える「マイナー(採掘者)*」に支払う手数料が上昇したことによる、止むを得ない引き上げだと説明した。
今後、さらに市場参加者が増えていけば、ビットコインの取引量は増加し、手数料は引き上げられる可能性がある。アメリカではビットコイン決済大手のビットぺイ(BitPay)が、100ドル以下のビットコイン決済を一時的に中止するなど、悪循環は続きそうだ。一部の調査では、手数料は3カ月ごとに2倍になっており、特に11月以降に急上昇しているという。
1回あたりの平均手数料は26ドル(約2900円)に達した。
出典:Ars Technica
また、ビットコインの取り引きに要する時間が長期化する問題がある。12月中旬時点では取引の確認に平均4時間半かかっている。仮にビットコインを売却しようとしても、現金化するまでに長時間かかる上、大幅な手数料が上乗せされることになる。
事態を注視し続ける金融庁
金融庁の担当者は、「ビットコインのネットワークで発生している混雑や、取引所による手数料の引き上げに関しては認識している」とした上で、「仮想通貨の取引環境のみならず、取引所が利用者に対して取引におけるリスクなどについて適切に説明をしているかを注視している」と話した。
また、同庁担当者は、手数料の大幅変更に関して、「一般論として、業者と利用者が契約に基づいて行われているものである」と加えた。
金融庁は、取引所が利用者に対して取引におけるリスクなどについて適切に説明をしているかを注視している。
REUTERS/Issei Kato
ビットコインのネットワークの混雑は、仮想通貨を利用して資金を調達するICO(Initial Coin Offering)においても影響が出ている。
マカオでカジノ建設プロジェクトを進めるドラゴン・コープは、約5億ドル(約560億円)のICOを計画していたが、予定より2週間遅れると発表。同社は、ビットコインとイーサリアムにおける大幅な遅延が生じており、送金困難な状態が続いていると、発表分の中で述べている。
しかし、楽観的な見方も聞かれる。
「中期的には手数料の引き下げ競争が始まる」
ICOに詳しいエンジニアは、「取引所の手数料は、中期的には下がっていくだろう。取引所は差別化がしにくいビジネス・モデルで、基本的には価格競争が起きやすい業界」と話す。
同エンジニアは、「事実、日本でも新規参入の取引所ではスプレット(手数料)を極力下げて参入してくる例も多いし、世界的に見ると安い取引所が多く存在する。 中期的にはユーザーが慣れていくに従い、より低い手数料の取引所へ流れていくはず。 そうなれば、手数料は下がっていくだろう。 為替などの類似業界のアナロジーからも手数料は下落方向にいくのではないか」と加えた。
ビットコインは年初から12月16日までに2200%値を上げて、一時1BTCあたり2万ドルに近づいたが、12月23日には1万4000ドル近辺まで下落した。
*マイナー(採掘者)/マイニング(採掘):採掘者が行うマイニング(採掘)とは、ビットコインで用いられるブロックチェーンのネットワークの中で、新たなブロックを作り、その報酬としてビットコインを手に入れる行為であり、ネットワークを維持する根幹である。取引は、そのトランザクションがブロックに含まれることで承認される仕組みになっている。
(文・佐藤茂、室橋祐貴、西山里緒)