楽天の「第4のキャリア参入」成功の道筋は米国Google Fiに習うのではないか?

楽天がついに携帯キャリア事業に新規参入することを正式に表明しました。

12月14日に日経新聞から記事が出たタイミングでは、また日経の飛ばし記事かとも思いましたが、同じ日に楽天からプレスリリースが出ました。

今年度中に新たに割り当てられると言われている、1.7GHz帯と3.4GHz帯の周波数を取得するための申請を行うようです。

図1

プレスリリースの中にいくつかキーポイントが数字で示されています。

・サービス開始時期:2019年中のサービス開始を予定

・目標ユーザー獲得数:1,500万人以上

・資金調達残高:2019年のサービス開始時において約2,000億円、2025年において最大6,000億円

最大で6,000億円を調達して設備投資に充てるというアナウンスがされています。しかし、6,000億円では携帯キャリアのインフラを構築するには全く足りないという声も聞こえてきます。

図2

実際、NTTドコモは半年で2,500億円以上(一年あたり約5,000億円以上)を設備投資に回しています。新規に携帯インフラをゼロから作るということを考えると、2025年までに6,000億円という規模では既存の三大キャリアに対抗していくのは物理的に不可能なようにも見えます。

*NTTドコモ 2018年3月期 第2四半期決算説明会(2017/10/26)

また6,000億円という金額は現在の楽天の規模であれば十分調達可能な金額であるとはいえ、決して小さな金額ではありませんので、そこまで大きな金額を調達して設備投資をするのに全く勝ち目がない勝負をするとも思えません。

すでに日本全国に巨大なインフラを構築している三大キャリアに対抗していくためには6,000億円という金額は物足りないようにも見えるわけですが、楽天は一体どういった戦略で第4の通信キャリアを目指すのでしょうか。

今日はその辺りの戦略を勝手に推測していきたいと思います。

はじめに断っておきますが、私は携帯キャリアの専門家ではありませんので、この記事に書かれている内容は色々な意味で多くの推測を含んでいる点をご了承いただければ幸いです。また、この記事の内容のうち「そこは違うだろう!」という点があれば是非コメント欄(編集部注:SNSなど)などでご指摘いただければ幸いです。

内容に入る前に語彙のおさらいをしておきます。技術的な定義はもちろん大事なわけですが、ここでは簡単にわかりやすくMNOとMVNOの違いを書いておきたいと思います。

・MNO: 自社でインフラを保有する携帯キャリアのことだとお考えください。

日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社です。

・MVNO: 現在の楽天モバイルのように自社でインフラを保有しない携帯キャリアのことだとお考えください。

楽天モバイルの強み

はじめに、簡単に現在のMVNO事業者としての楽天モバイルの強みをおさらいしておきましょう。

非常に簡単に考えると楽天モバイルの強みは大きく分けて2つあります。

1つ目は、他のMVNOに比べて顧客獲得コストが抑えられるという点です。楽天というブランドや楽天の他のサービスとのポイント連携などを考えれば、無名のベンチャー企業がMVNOを始めるより低いコストで顧客獲得ができていることは間違いないでしょう。

2つ目の強みは、他のMVNOに比べて解約率が低いと想定されることです。これも楽天モバイルと楽天の他のサービスとのポイント連携やポイントの倍率を優遇することで、楽天モバイルの解約率は通常のMVNOに比べて低くなっているだろうということは容易に想像できます。

MVNO事業の場合、通信回線は基本的にはNTTドコモの回線を利用しているわけで、混雑時に繋がりにくくなるほど回線料をケチらない限りにおいては、サービスレベルでの差別化が物理的に不可能なわけです。

そんな中、楽天はサブスクリプションビジネス(個々の商品やサービスに対価を支払うのではなく、利用期間に対して一定額を課金するモデル=定額制)の最も重要なKPIである、「顧客獲得コスト」と「ライフタイムバリュー」を最適化するためのブランドとインフラを有しているという点において、他のMVNOよりも有利なポジションにいることは間違いありません。

なぜ楽天モバイルが自ら携帯免許を取ろうとしているのか?

FREETELを買収して現在140万人まで契約者数が増えた楽天モバイルですが、大きくなればなるほどMVNO固有の悩みが出てきていることも容易に想像ができます。

MVNO事業者の弱みとしては、粗利益率マージンが小さい、インフラをMNOに依存しているためサービスレベルのコントロールが難しい、サービスレベルで競合のMVNOに対して差別化ができない、という3点が考えられます。

楽天としては現在抱えているこれらのMVNO固有の弱点を克服すべく、携帯キャリアの周波数を自ら取得しにいくということになったのだと考えられます。

1.7GHz帯と3.4GHz帯だけでは不十分?

あくまで、たら・ればの話になりますが、仮に楽天が今回割り当てを検討されている1.7GHz帯と3.4GHz帯の両方の周波数を取得できたとして、さらに仮に6,000億円ではなく、はるかに大きな設備投資費用を許容できたとして、現在の三大キャリアに匹敵する通信インフラを作り上げることは可能なのでしょうか?

詳しくは以下の記事をご覧いただく方が勉強になるかと思いますが、結論から申し上げると、1.7GHz帯と3.4GHz帯だけではどれだけ巨額の設備投資をしても現在の三大キャリアに匹敵する通信インフラを作り上げることはほぼ無理だと考えられます。

楽天は「第4のキャリア」になれるか(アゴラ言論プラットフォーム:池田 信夫氏:2017/12/15)

(もちろん例外はあるのですが、一般論として無線電波は周波数が小さいほど遠くまで電波が届く傾向にあります。従って800メガヘルツ帯と1.7GHz帯を比べると、800メガヘルツ帯の方が少ない基地局数でよりエリアをカバーできることになります。)

随分と回りくどい書き方をしましたが、今回総務省が割り当てを検討している周波数だけでは到底現在の三大キャリアに匹敵するインフラを構築できないことは、やる前からわかっているわけです。

そんな状況でも楽天が第4のキャリアを目指して新規参入する勝算はどこにあるのでしょうか?

Google版携帯キャリア: Project Fiをご存知ですか?

GoogleがProject Fiと呼ばれるMVNO事業を行なっているのをご存知の方はどれくらいいますでしょうか?

図3

Googleは自ら携帯インフラを構築することはせずに、アメリカにおいてはT-MobileとSprintという二つの携帯キャリアとパートナーシップを組んでいます。利用者がGoogleが発行するSIMカードを設定すると、利用者の位置や周囲の利用状況により、T-MobileとSprintのどちらかより電波がつながりやすい方に自動的に接続を切り替えてくれるというサービスがGoogleのProject Fiです。

今回、楽天が第4のキャリアを目指す際に最も近いモデルがProject Fiのモデルになると個人的には感じしています。

どういうことかと言うと、今回新たに割り当てられる周波数が仮にすべて取得できたとしても自前の基地局だけでは、ボーダフォンを買収した直後のソフトバンクのように、「繋がらない!」と言う苦情が山ほど来ることは目に見えているわけです。

そこで、NTTドコモのネットワークと自社のMNOのネットワークを併用することで、カバー率と効率性の両方を上げようとしているのではないでしょうか?

以下で、おそらくこのようなやり方で新規参入するのではないか?という具体的なステップを勝手な推測にはなりますが、書いていきたいと思います。

ステップ1:「ライトMVNO」から「フルMVNO」になる

先日、日本最大級のMVNOであるIIJが2018年を目処にフルMVNOを目指すことを発表しました。

「フルMVNO」と「ライトMVNO」の違い(IT media Mobile 2017/12/7)[4]

現在提供されているMVNOのサービスは、いずれもライトMVNOという分類になります。フルMVNOというのはライトMVNOに認証やコアネットワーク部分を追加したものになります。

フルMVNOの最も重要な要素は「独自のMNCを持つ」ことです。MNCとはMobileNetworkCodeの略で、移動体通信において、事業者のコアネットワークを識別する固有の識別子となります。

このように記載されていますが、フルMVNOになるとネットワーク識別子を自社で保有することができます。

図4

「これがMVNOの生き残る道!「フルMVNO」化を進めるIIJ:週間モバイル通信 石野純也」(engadget 2017/11/8)という記事にもあるように、フルMVNOになると自社で独自にSIMカードを発行することができるようになります。

図5

それだけではなく、携帯端末上で電波のマークの横に自社のネットワーク名が認識されるようになります。

現在、楽天モバイルなどのMVNOから提供されるSIMカードは、NTTドコモのSIMカードを借り受ける形になっており、携帯端末上でも「NTTドコモ」とネットワークが表示されているかと思いますが、フルMVNOになることでIIJや楽天が独自のSIMカードを発行し、携帯電話上でもそれぞれのブランド名で認識されることになるわけです。

図6

少し余談になりますが、iPad Proなどで採用されているeSIMと呼ばれるデバイスに直接組み込まれているSIMが今後主流になってくると、これらのデバイスに直接通信サービスを提供するにはフルMVNOである必要があるという事情もあります。

冒頭のITmediaの記事に以下のような記載があります。

ホストMNO以外のMNOとも事業者間接続を独自に持てることが、フルMVNOのメリットの1つです。これにより、フルMVNOはさまざまなローミングサービスを提供可能になります。海外で安価なローミングを提供したり、セキュリティを付加したローミングサービスを提供したりできます。逆に、国内で海外旅行者がSIMを差し替えることなく安価にインターネットを楽しめるようなサービスも提供可能です。

ここで「ホストMNO以外のMNOとも事業者間接続を独自に持てる」というのは最大のポイントです。

つまり楽天がフルMVNOになることで、自社で構築する楽天MNOとNTTドコモMNOの両方に接続することが少なくとも技術的には可能になるわけです。

■ステップ2:携帯電話免許を申請・取得する

ステップ2は、総務省に周波数割り当ての申請を行い、実際に周波数を利用できるようになることです。

図7

楽天から発表されているこの表にあるとおりに諮問が行われて行くと、2018年の3月末頃にはどの携帯事業者にどの周波数帯が割り当てられるかが決定するものと思われます。

ステップ3:設備投資をして携帯基地局を建てる

図8

仮に楽天に周波数が割り当てられることになれば、最大6,000億円の資金を調達して設備投資を行い、携帯電話の基地局を建てていくことになります。

この基地局を建てる際に重要になるのが、「カバー率」と「効率性」です。

例えば、東京の都心部のような場所では基地局の密度を高くする必要があるでしょうし、人口密度の低い地方では可能な限り基地局を建てないというのが経済合理的な発想でしょう。

上で述べたように、楽天モバイルがフルMVNOとして楽天MNOとドコモMNOの両方に接続が可能になるとした場合、楽天MNOとしてはピーク時間帯のアクセスが多いエリアだけに基地局を立てていくことが最も合理的です。

というのは、ライトMVNOからドコモMNOへの支払い金額はMVNOが利用するピーク時の回線の太さによって決まっています。従ってMVNOから見ればピーク時のドコモMNOへのトラフィックをできるだけ抑えることが経済的には重要です。

携帯電話の通信のピークは主にランチの時間帯と深夜の時間帯になりますので、これらの2つの時間帯で人口が密集している場所から優先的に基地局を立てていくことになると考えてよいでしょう。

ステップ4:楽天MNOとドコモMNOを自動的にスイッチ。トラフィック最適化を始める

最後に、ここまで来れば楽天モバイルがフルMVNOとして自社で発行したSIMカードからのトラフィックの最適化を楽天MNOとドコモMNOの間で機械的に行っていくことになるでしょう。

具体的には上で書いたように人口が密集してるエリアや、トラフィックが多い時間帯は自社の楽天MNOに多くのトラフィックが流れるようにし、逆に地方などにおいてはドコモMNOに多くのトラフィックを流して行くことになるでしょう。

ここで勘の良い方であれば出てくる質問が一つあると思います。それは、「もしドコモがMNOとして楽天MVNOとの接続を拒否したらどうなるか?」という議論です。

結論から申し上げると、ドコモが特定のMVNOとの接続を拒否するのは現時点では相当難しいと考えています。これがもしソフトバンクやKDDIが相手であれば特定のMVNOとの接続を拒否したり、契約条件をMNO側に有利な形にすることもまだ少しは可能かもしれません。しかし、総務省の方針で過去に国有会社として設備投資を行なったNTTドコモはMVNO業者に対して回線を開放するように国から「指導」されています。

さらに前述のとおり、IIJは既にドコモMNO回線を利用してフルMVNOになることが合意されているので、IIJはよくて楽天はダメだというロジックは現在のNTTドコモのポジションからすると相当厳しいことになるはずです。

楽天がMNO化することによるメリット

このように見てみると今回の楽天の「第4の携帯キャリアを目指す」という戦略は、「NTTドコモの回線にうまく乗りつつ、効率が良い部分だけに自社でインフラ投資していく」ということなので、悪い言い方をすれば良いとこ取りをしている戦略に個人的には見えます。

楽天の新規参入が発表されてから「たった」6,000億円の投資で携帯キャリアを構築するのは無理だという批判が多々ありましたが、もしここで書いたような内容が実現可能なのであれば、相当小さな設備投資で本当に第4の携帯キャリアが作れてしまうかもしれないとも思えるのです。

冒頭で現在のライトMVNOとしての楽天モバイルの強みは以下の2つであると述べました。

1)他のMVNOよりも顧客獲得コストが低い

2)他のMVNOよりも解約率が低い(ライフタイムバリューが大きい)

仮にこの記事で書いたようなことが起こると、楽天モバイルとしては以下のようなメリットが得られることになります。

3)NTTドコモMNOへの回線費支払いを減らすことができる

4)サービスレベルの向上:データ通信の高速化

人口密集地帯・ピーク時間帯では、楽天MNOとドコモMNOを併用

過疎地帯では、自社の設備投資を抑えつつ、ドコモMNOを利用

5)海外のMNOへの独自に接続が可能に(海外や日本への海外からの旅行者に独自のローミングサービスが提供できる)

eSIMへの対応も可能性としては十分にあり得る

繰り返しになりますが、ここで書いた内容はあくまで個人的な憶測の範囲を出ませんが、非常によくできた戦略だなぁと思ったので記事にしてみました。

読者の皆さんはどう思われましたでしょうか?

消費者から見れば規制産業で3社しかプレイヤーがいない状況で、料金が高止まりしている中で楽天のようにブランド力と財務基盤がある会社が新規参入することは間違いなくサービス面ではプラスに働くと思われます。

今後も携帯キャリア業界に注目していきたいと思います。

決算が読めるようになるノートより転載(2017年12月22日の記事)


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。

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