エンジニアからコンサル出身まで、世界最強のベンチャーキャピタリスト達の経歴

「日本にはベンチャー企業が育たない」や「ベンチャーを育てるエコシステムがない」と言われることには少々、食傷気味だろう。

新しいアイデアやテクノロジーにリスクマネーが提供されないため、ビジネスが立ち上がらないとも言われる。

しかしながら、現実には政府の財政投融資と民間投資によって組成された官民ファンドも既に10を越える数があり、民間でも立ち上がって半年といったベンチャー企業に投資可能な、シードステージやアーリーステージへの投資を専門とするベンチャーキャピタル(VC)やスタートアップ・アクセラレーター(SA)は十分に存在する。

ゴールドマンサックス

ゴールドマンサックスなどの投資銀行よりもヒエラルキー的には“上”と評されるのが一流ファンドだ。

REUTERS/Brendan McDermid

最近ではシードステージ対象のVCやSAのビジネスモデルは起業家のアイディアに投資するよりも、例えばプログラミングやマシンラーニングでの解析ができる優秀な理系の修士や博士課程の学生を、「そんなに優秀なら起業してみない?」と部活のように誘って起業をさせるように促したり、「売れない」サービスやテクノロジーで起業した優秀な学生を「更生」させて、ベンチャーキャピタリストの考える「売れる」サービスにピボット(方向転換)させたりする傾向になってきている。

言ってみればリスクマネーの側が投資すべきビジネスや起業家を探すことに苦労している状況である。

企業がコーポレート・ベンチャー・キャピタルを立ち上げる例も後を絶たず、エクイティ性のリスクマネー、つまりベンチャー企業の株式投資は数千万円~数億円の単位ではかなりの選択肢がある状況である。

一方で従来から言われているように、アメリカのように起業家の考えたアイデアがビジネスとして成り立つ目途がついた際に数十億円単位で投資できるVCがないのが現状である。

生態系トップに君臨するVC

上記のことは、少しこの領域に関わっている人間であれば自明なことなので、もう少し筆を進めたい。

これまで日本では金融システムの進んだ先進国としては珍しく、優秀な人材(主に学業的な意味で)がデット(融資)側のビジネス、多くは銀行業務に偏っており、エクイティ(投資)側が手薄であった。

これは新卒学生の採用市場から財界まで、銀行の方が証券会社より格が上と考えられている空気にも表れている。これはアメリカ、イギリスの金融プロフェッショナルからすればにわかに信じがたいことであり、英米では融資業務を行う商業銀行より、日本で言うところの法人向け証券業務を行う投資銀行の方が格上と考えられている。そして最近では、巨大投資銀行よりも少数精鋭でアドバイザリー業務を行うようなブティック投資銀行の人気が再熱している。

ブラックストーン

ブラックストーンのような巨大ファンドよりもVCに魅力を感じるエリートも多い。

Brendan McDermid / REUTERS

そしてその投資銀行よりさらに生態系の上に君臨するのがKKRやブラックストーンといった巨大ファンドであり、MBA卒の学生たちから羨望の眼差しを受けるのはセコイア・キャピタルやクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズといったアマゾン、アップル、グーグルがベンチャーだった頃に投資を行い、世の中に送り出してきたVCの一群である。

こうした金融業界におけるヒエラルキーも日本とはだいぶ異なっている。日本では有名大学の新卒学生がメガバンクに数千人規模で入社しているが、これはデット側金融に多くの人材供給がなされていることを意味する。広い意味でのエクイティ側への人材供給が日本では過小になっているとも考えられる。

日本では霞が関でも民間でも、「イノベーションを起こせる人材」や「技術の目利きができる人材」の必要性と創出が叫ばれており、時にシリコンバレーの起業家やベンチャーキャピタリストがそのロールモデル人材として挙げられることも多い。

MBAだけでなく全員医学博士のVCも

ベンチャーキャピタリストを思い浮かべてみると、もちろんアメリカやイスラエルにもカリスマ性のある投資家は存在するが、1990年代後半や2000年初めに比べて、アメリカのベンチャーキャピタリストはエスタブリッシュメント化が進み、VCのヒエラルキーは明確になり、キャピタリストは投資フェーズと専門分野によって、細分化が進んだ印象がある。

また、ベンチャーキャピタル内部においても、業界の展望を語るパートナー(共同経営者)と起業家にメッセ、メール、電話をし続けて投資ラウンドに参加できるようにするアソシエイトというヒエラルキーがはっきりしており、カジュアルな服装をしていても金融プロフェッショナルっぽさが出ているのが実情である。

「事業創造できる人材」の創造は日本の大企業の今般の命題だが、経済産業省も「ビジネス・イノベーションを生み出すことが可能な人材」をフロンティア人材と名付けて、その創出を試みている。

ではこうした人材はどういったスペックなのだろうか? よく引き合いに出されるベンチャーキャピタリストのスペックを調べてみた。

その年に最も稼いだトップティアVCを米フォーブスが「ミダスリスト」として発表している。「ミダス」は触れるもの全てを黄金に変えたギリシア神話上の王のことであり、そこに掲載されるキャピタリストたちはUberやAirbnbなどに投資を行って育てた投資家である。

Airbnb

Airbnbのようなユニコーンが次々生まれる背後にもVCの存在がある。

Gabrielle Lurie / REUTERS

そのミダスリスト(2017年)中のキャピタリストのアカデミックバックグラウンドを公開情報で可能な限り調べてみると、MBAが47%で一番多く、何らかの修士号取得者(MBAと博士号を除く)は25%である。博士号(法学博士を除く)は7%であった。

またアメリカで司法試験を受験できる法学博士(JD)は6%で、これはおそらく弁護士であろう。ボストンなどでヘルスケアや創薬関連を手掛けるキャピタリストには博士号取得者も多く、なかには全員M.D.(Medicinae Doctor, 医学博士)を持つようなVCもある。

こうしたアカデミックバックグラウンドに加えて、事業の立ち上げであるシード、アーリーステージを対象とするキャピタリストには起業家、エンジニア出身が多く、シリーズB(注:事業拡大期の資金調達)からIPO直前までの投資を手掛けるキャピタリストには投資銀行やコンサルティングファーム出身者が多い。

ミダスリストで見ると、重複はありながら、コンサル出身21%、投資銀行等出身32%、ベンチャー企業出身は38%、エンジニア出身は12%であった。

米VCのミダスリストの例はあくまで一例ではあるが、このように多様なバックグラウンドと個人としてのプロフェッショナリズムを持ったキャピタリストが投資リターンという結果責任を負いながら、個人の名前で戦っているのが現状である。

事業創造できる人材や企業のM&Aなどに資する投資家マインドを持った人材を育成、探索している日本の大企業には参考にしていただければ幸いである。

(本文は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織・団体の公式な見解ではないことを予めご了承ください。)


塩野誠(しおの・まこと):経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター。国内外の企業や政府機関に対し戦略立案・実行やM&Aの助言を行う。10年以上の企業投資の経験を有する。主な著書に『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』など。人工知能学会倫理委員会委員。

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