中国AI大国への国家戦略——2030年に170兆円産業に。軍事面で米脅かす存在にも

中国政府が、中国のAI(人工知能)産業を2030年に世界トップ水準に向上させる野心的な国家戦略を発表した。

これに対しトランプ政権は「国家安全保障戦略」で、中国を「アメリカに挑戦するライバル」とみなし、中国に対抗する意思を鮮明にした。AIは経済と安全保障両面で、米中競合の新たな磁場になろうとしている。

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中国は国家を挙げてAI大国を目指すと宣言している。

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AIは、次世代の経済と安全保障に決定的役割を果たす技術として注目されている。自動運転やビッグデータを活用した都市管理システム「スマートシティ」、さらに医療映像や自動翻訳、音声・視覚など製造業と一体化すれば経済効果が高い。それだけではなく、軍事にも応用できる。 中国政府は2017年7月に「次世代AI発展計画」を発表。計画ではAIを「国際競争の新たな焦点になり、将来をリードする戦略技術」と位置付け、AI産業発展の3段階戦略を描いた。

第1段階は、2020年までにAIの全体的な技術とその応用を「世界先進水準に引き上げる」とし、関連産業も含めた規模を1兆元(約17兆円)と見込んでいる。

第2段階は2025年まで。基礎理論を進展させ、一部技術と応用を「世界トップ水準に向上させる」ことを目標としている。中国の産業アップグレードと経済の構造転換をけん引する主要な原動力にしようというのである。関連産業も含めた規模は5兆元(85兆円)。

そして第3段階として、2030年までに「理論、技術、応用の全ての分野で世界トップ水準」に引き上げ、中国を世界の主要な「AIイノベーションセンター」にする目標を設定した。関連産業を含めた規模は10兆元(170兆円)で、約10年で産業規模を10倍にする。日本の平成29年度(2017年度)予算の1.7倍に相当する規模になる。

基礎理論や人材不足が課題

AI産業育成については、習近平・中国共産党総書記も第19回党大会で真剣に取り組む姿勢を明確にした。

政治報告では「インターネットとビッグデータ、人工知能を経済と高いレベルで融合させ、中間層、富裕層の消費とイノベーションをけん引し、グリーン社会、シェアリング経済、現代的な供給ラインと人的資本サービスなどの分野を新たな成長分野に育てる」と重点部門を列挙した。党・政府を挙げてAI産業育成に取り組む姿勢がみえる。

中国IT産業の成長は目覚ましい。“御三家”といわれる「BAT」(百度、アリババ、テンセント=騰訊控股)をはじめ民間企業も既に、AI戦略を発表している。

通販サイトを急成長させた「アリババグループ」は10月、今後3年間にAIや半導体関連の研究開発費として1000億元(1兆7000億円)超を投入すると発表。将来は20億人の利用者を抱え、1000万の事業者が活用する“アリババ経済圏”を構築する「夢」を描いた。

日本のAI産業に大きな差をつけつつある中国は、科学技術関連の論文掲載数と発明品の特許取得量で、アメリカに次ぎ世界2位になり、ビッグデータのほか音声認証、視覚認証では世界トップに立っている。

その一方「アメリカと比べて基礎理論でのイノベーションが少ない」「高度なAI人材が不足」との指摘も根強い。今後10年強でアメリカを抜くには何が必要なのか。

4分野でリード企業を決定

Alibaba Group

アリババは今後3年間にAIなどの研究開発費として1兆7000億円を投入すると発表している。

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「発展計画」に続いて中国は11月15日、次世代AI発展計画推進弁公室を設立。第1期として、政府主導で4つのAI分野を定め、分野ごとにリード企業を選定する戦略を発表した。4分野とリード企業は、

  • 医療分野はテンセント
  • スマートシティではアリババ
  • 自動車の自動運転は百度
  • 音声認識はアイフライテック(科大訊飛/iFLYTEK)

御三家と科大訊飛が選ばれたのである。 発表直後から、通信アプリ微信WeChat を運営するテンセントの株式時価総額は、中国企業として初めて5000億ドル(約55兆8000億円)を突破。一時はフェイスブックを上回りアマゾンに迫った。ニューヨーク市場のアリババの株価も、年初と比べ2倍以上になった。

絡み合う協調と競争

中国AI企業の利点は党・政府による全面的なバックアップにある。「一党独裁下の国家資本主義」の強みと言っていい。 中国の肉薄にトランプ政権は警戒心を隠さない。

トランプ大統領が12月18日に発表した「国家安全保障戦略」は「(アメリカは)競争上の優位を維持するため、成長と安保に極めて重要な技術に高い優先順位を置く」と強調した。AIを戦略的技術と位置付け、中国へのライバル意識をむき出しにしたのである。この戦略の中でアメリカは、中国企業が知的所有権を盗み、サイバー攻撃を通じて「アメリカの革新的技術を不当に利用している」とも非難している。

しかし米中対立ばかりを強調すると実相を見誤る。「現段階では協調と競争が絡み合っている」と分析するのは、中国IT技術に詳しい米コンサルタントのエルサ・カニア氏。

「もたれ合い」の例を挙げると、米グーグルが12月13日に発表した北京のAI研究センターの立ち上げ。「中国にはAI分野で世界でもトップクラスの専門家が多く集まっている」と説明した。グーグルの研究施設はアジアでは初めて。中国政府がグーグルの検索エンジンやメールサービスを禁止しているのはよく知られている。

アリババも12月7日、米自動車大手フォード・モーターと戦略的提携を結んだと発表した。カニア氏によると、米中双方のIT投資は高レベルで推移。中国側は2012年から2017年まで、米ハイテク企業に641件、計190億ドルの投資を行った。御三家をはじめ中国5社はアメリカにAI研究所を持ち、米トップ大学を卒業した中国人を雇用し研究させている。これが米中協調である。

軍民融合の国家戦略を警戒

AI分野で今後問題になるのは、米中ロが進める軍事利用であろう。AI技術は汎用性が高い。軍事転用が実現すれば、米中競合の新たな磁場になるのは間違いない。

中国のAI軍事転用は、軍民融合という軍と民間の高度な結合で進められる。「中央軍民融合発展委員会」を通じた国家戦略であり、これこそトランプ政権が警戒する国家主導のAI戦略である。経済と技術の発展が軍事競争に発展した歴史に、また新たな一頁が加えられるだろう。

2017年はトランプ政権誕生と北朝鮮の核・ミサイル実験に振り回された1年だった。国際政治の基調を左右する米中関係をどう表現すればいいか。安全保障における競合と経済相互依存による協調という「相反するベクトルの中で揺れる振り子」に例えると分かりやすい。 米中競合に関するカニア氏の結論はこうだ。 「当面は世界から一流の人材を引き付けるアメリカの能力は揺るがない」としながら、「戦略的競争が一段と激しくなる中、アメリカは技術競争の複雑さを認識し、技術革新を維持できるよう政策の優先順位をつけるべきだ」という。

アメリカにも国家主導のAI戦略が必要と説くのである。経済の相互依存が、「安全保障上の競合」へと転化する局面が、AIの世界から見え始めている。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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