口パク動画「リップシンクアプリ」はインスタを超えるか :2018急上昇ワード

中国・北京発のユニコーン企業、Bytedance社が「リップシンク動画アプリ」で2017年に日本進出を果たした。リップシンクアプリとは15秒ほどの楽曲に合わせて自分が口パクで歌うことのできるアプリ。2018年、リップシンクは日本を席巻する?

日本トップのフォロワーは累計74万人

ねおさん

YouTuber、モデルとしても活躍するねおさん。元々「ショートムーバー出身」で、人気になったきっかけは10秒動画アプリのMixChannelでの動画投稿だった。

「周りを見ていても、2018年はリップシンクが来るなって感じがしています」

中高生から支持を集める「元祖リップシンカー」のねおさん(16)はそう語る。2年ほど前から中国発のリップシンクアプリ「musical.ly」に投稿を始め、すでにフォロワーは約50万人、musical.lyクリエイターとして日本代表も務める。2017年から同じくリップシンクアプリ「Tik Tok」も使い始め、フォロワーは24万人以上だ。

この2つのアプリの運営元は同じだ。2017年11月、Tik Tokを運営していたBytedance社が10億ドル(約1132億円)とも言われる価格でmusical.ly社を買収したからだ。Bytedance社の広報によると、11月末の時点で月当たりのアクティブユーザー数はTik Tokとmusical.lyを合わせて全世界で1億人を超えるという。

「musical.lyは洋楽中心で海外のファン、Tik Tokは日本のファンが多いかな。Tik Tokの方が使いやすく、初心者向けな気がします」(ねおさん)

ねおさんによると、単に楽曲を口パクするだけでなく、YouTuberの声やCMの口パクをする「なりきり」動画もはやっているそう。musical.lyには「デュエット機能」という、特定のユーザーと自分の動画を同時に投稿できる機能もあり、ファンとの交流の場としても使っているという。2018年には、今はmusical.lyにしかないデュエット機能がTik Tokに追加されるのでは、とねおさんは予想している。

2017年11月、Tik TokはYouTube上に動画広告を始めた。その中毒性の高さから「あのウザい広告」として話題になり、YouTube上に「やってみた動画」が続出。その後、人気YouTuberが相次いでTik Tokを始め、さらに注目を集めた。

ねおさんによるリップシンク動画。

動画:tiktok _japan

ヒカキンによる「 YouTubeのウザい広告自力でやってみた」動画。Tik Tokの動画をパロディしている。

動画:HikakinTV

自撮り投稿動画の全ての要素が一つに

なぜ、リップシンクアプリがここまで10代をアツくさせるのか? 外資系大手広告企業・McCANN TOKYOのプランナー、折茂彰弘さんはリップシンクの魅力について「ティーンが親しんできたビジュアルコミュニケーションの文脈がすべてそろっている」と話す。

折茂さんを含めた複数の広告関係者の話を基に、「ビジュアルコミュニケーション」を主軸とする今のSNSアプリの勢力図を図示してみた。

「ビジュアルコミュニケーションアプリ」勢力図

「ビジュアルコミュニケーションアプリ」勢力図。左は動画がメイン、右は静止画がメインのアプリ。

Business Insider Japan 制作

ここ2、3年、ティーンからは下記のようなSNSアプリが人気を集めてきた。

  • MixChannel:10秒動画を共有できるアプリ。「カップル動画」「キス動画」の投稿が人気を集める。現在ではライブ配信機能が強化されている。
  • Vine:6秒間ループ再生される動画を共有できるアプリ。ツイッターに買収された後、2017年1月にサービス終了。「おもしろ動画」が人気だった。
  • Snow:多彩な顔認証スタンプによって、中高生の「盛り」(自撮りに過剰な加工をする)文化を促進。
  • YouTube:「恋チュン」「恋ダンス」をはじめとした「踊ってみた」動画が多く投稿されている。

一口にSNSといっても、用途によって使うアプリはすみ分けられてきた。2017年に日本上陸したTik Tokは、上記4つのSNSが培ってきた文脈を受け継ぎながら発展させている、と折茂さんはいう。つまり「(友達や恋人との)仲良しアピール」「盛り」「おもしろ」「踊ってみた」という、さまざまな自撮り投稿動画アプリが満たしてきたニーズを一つで満たすことができるのが、リップシンクアプリなのだ。

インスタグラムやFacebookが「静止画」中心のSNSなら、リップシンクアプリは「動画ファースト」。コミュニケーションの方法がテキストから静止画、そして動画へと移っている今日、リップシンクアプリは「インスタを超える存在」となり得るかもしれない。

音楽に合わせてメイク顔を披露する「詐欺メイク」動画など、さまざまな流行が生まれている。

動画:tiktok _japan

Tik Tokバブルのお笑い芸人も

脳みそ夫

脳みそ夫さん。Tik Tokで流行している楽曲のベース音源「脳みそ夫体操」を2017年11月末から配信している。

なんだか、対岸の火事みたいな感じですね……

すでにTik Tok発のトレンドも出てきている。お笑い芸人・脳みそ夫さん(37)は「Tik Tokバブル」の恩恵を受けた一人だ。

2017年9月にYouTube上にアップした自作曲「脳みそ夫体操」の一部を切り取った音楽が、Tik Tokで大流行。「脳みそ夫体操」のリップシンク動画は2017年12月31日現在、累計9万4000件以上が投稿されている。

もともと「OL聖徳太子」のネタなどで女子高生からの人気はあった脳みそ夫さんだが、Tik Tokでの流行のおかげで、YouTubeに中高生らしき人たちからのコメントが増え、情報番組に出演するきっかけにもなったという。

ただ、流行した音源は元の曲よりテンポが早くキーもやや高いもの。「(流行したのは)アレンジ音源が良かったからでは」(脳みそ夫さん)と言うが、そのアレンジ音源の投稿者が誰かはわからない。

「Tik Tok経由でオリジナルのYouTube動画を見に来てくれた人から『テンポが遅すぎる』とコメントがつくこともある」と少し複雑な表情も見せるものの、「自由に楽しんでもらえるのは嬉しい」と基本的にはポジティブ。

このバブルに乗り、2018年はTik Tokを活用して次の一手を?と聞くと、意外な答えが返ってきた。

いまの若者は敏感。自分もユーザー側にいたからよく分かるけれど、商業的に利用されている、と感じるとすぐ冷めてしまうのではないでしょうか。所属している事務所は(Tik Tokと)良い絡ませ方がないか様子を見ているみたいですけどね」

(文、写真・西山里緒)

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