SpaceX、2018年後半に民間人による「月の周回飛行」を計画

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「人類が再び興奮してくれることを願っている」とマスク氏。

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  • SpaceXは2018年後半、2人の民間人による月の周回飛行を計画している。
  • 新しい「Dragon 2」(宇宙船)と「Falcon Heavy」(ロケット)を使う予定。
  • 月の周回飛行は約1週間、費用は3億ドル(約340億円)以上。
  • 「NASAに同様のミッションが存在するなら、NASAが優先される」とマスク氏。

27日月曜日(現地時間)、SpaceXのCEOイーロン・マスク氏は、個人投資家2人を約1週間の月周回飛行に送り出すと発表した。

「人類が再び興奮してくれることを願っている」とマスク氏。

宇宙船に搭乗する2人の詳しい情報はまだ明らかにされていない。しかし、マスク氏によると2人は知人同士で、ハリウッドスターなどではなく、月の周回飛行について「非常に真剣に考えている」という。「彼らは相当額の頭金を支払った」とも。

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カリフォルニアで宇宙船「Dragon 2」を披露。

REUTERS/Mario Anzuoni

月の周回飛行のコストは「機密扱い」だが、「Dragon 2」で国際宇宙ステーション(ISS)に向かう場合より「少しだけ高い」と述べた。

2016年5月のNASAの発表によると、ISSへの「Dragon 2」の打ち上げコストは搭乗員1人あたり5800万ドル(約66億円)。NASAは1回につき4人の宇宙飛行士を送る予定なので、1回のミッションには約2億3000万ドル(約260億円)かかる。場合によっては3億ドル(約340億円)を超えるだろう。

「少なくとも年に1、2回の打ち上げを見込んでいる」とマスク氏は言う。加えて、月の周回飛行は将来、同社の売上の10〜20%を占めるという見通しを明らかにした。

しかし、重要な注意点がある。

「NASA​​のミッションがある場合は、そちらが優先される」

NASAは、ISSへの有人飛行および貨物補給のためにSpaceXと契約しており、Business Insiderに対して、「より高いレベルに達したパートナー(=SpaceX)を称賛する」とメールでコメントした。

NASAも月飛行などのために独自のロケット開発を計画しているようだ。

「NASAは、アメリカの宇宙ビジネスを強化するために民間企業とパートナーシップを結ぶ。そして、次世代ロケットや宇宙船、月を超えて宇宙探検を行うシステムの開発に注力していく」

Space Xの月旅行はどのように行われるのか

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Space Xのロケット「Falcon Heavy」。同社の月飛行ロケットは、アポロ計画で使用されていた「ケープ・カナベラル39A発射台」から打ち上げられる。

SpaceX

SpaceXが発表した搭乗者2人は同社の「Dragon 2」で月に向かう。宇宙船は完全な自動操縦で、パイロットは搭乗しない。

SpaceXは、2018年の第4四半期に「Falcon Heavy」でこのミッションを遂行する予定だ。「Falcon Heavy」は、2017年に初飛行が計画されている新しい「超大型重量貨物打ち上げ(super heavy-lift)」ロケット。1回の打ち上げコストは9000万ドル(約100億円)だ。

同社の月飛行ロケットは、1960年代から1970年代にかけてアポロ計画で使用されていた発射台と同じ、ケープ・カナベラル39A発射台から打ち上げられる。長い楕円状の軌道で「月の表面すれすれ」を飛び、月を超えた深宇宙空間に到達、それから地球に戻ってくる。

記者たちが月飛行のリスクについて質問すると、マスク氏は「2人は決して騙されているわけではない」と述べた。

「彼らは状況をしっかりと見据え、リスクを理解している。我々はリスクを最小限にするためにあらゆることに取り組んでいる。しかし、リスクはゼロではない」

火星への足がかり

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火星に着陸する「Red Dragon」のイメージ。

SpaceX Photo on Flickr

月飛行の詳細はほとんどわかっていない。2人の名前やプロフィールはもとより、どのような宇宙服や装備が使われるのか、米連邦航空局が許可するのかどうか、緊急時に備えた準備はできているのかどうかなど、不明な点が多すぎる。

不安を表明する専門家もいる。

クリス・ニューマン(Chris Newman)氏は、イギリス・サンダーランド大学の教授で、宇宙に関する政策や法律の専門家。Business Insiderに対して、SpaceXのスケジュールとコストは、「極めて野心的だ」と述べる。

一方、非常に楽観的な専門家もいる。

オバマ政権の元宇宙政策アドバイザーで、SpaceXの元社員であったフィル・ラーソン(Phil Larson)氏は、Business Insiderに対して次のように語った。

「期待通りだ。SpaceXの今回のエキサイティングな発表は、宇宙探査を前進させるもの。 また、人類の究極の目標である有人火星探査への足がかりとなる」

トランプ政権は現在、NASAに関する政策を策定している最中。

「アメリカの民間企業が、10年後ではなく今、地球低軌道(Low Earth Orbit)から離脱できる技術を持っていることに注目したい。NASAがこれらの企業とパートナーシップを組んでいくことは理に適っている。それにより、政府は宇宙関連ビジネスのコストを下げるための基礎的な技術研究に注力することができる」

SpaceXの声明全文

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「Dragon 2」宇宙船の開発資金の大半は、NASAの商業宇宙船計画から提供された。

NASA

このミッションについてのSpaceXの声明は以下の通り。

SpaceXは来年、民間人を月の“その先”へ送る

わたしたちは来年末に民間人2人を月への周回飛行に送り出す。その準備ができていると発表できることをうれしく思う。彼らはすでにかなりの前金を支払っている。アポロ計画の宇宙飛行士のように、彼らは人類の希望と夢を背負って宇宙へ旅立ち、人類のあくなき探究心を駆り立てる。今年の後半には、トレーニングを開始する予定だ。他にも月飛行に強い関心を示しているチームがある。彼らについては、随時、情報を公開する。

NASAには心より感謝したい。彼らなしでは成し遂げられなかった。「Dragon 2」の開発資金の大半を提供したNASAの商業宇宙船計画は、この計画の成功の鍵を握る。加えて、月飛行ではSpaceXが開発した「Falcon Heavy」ロケットを使用する。

「Falcon Heavy」は今夏に最初のテスト飛行を行う。成功すれば月に向かったサターンV型ロケット以降、もっとも強力なロケットとなる。 500万ポンド(約2300トン)の打ち上げ能力は、サターンV型の3分の2。現在打ち上げられている最大のロケットの2倍以上の能力となる。

今年後半、NASAの商業宇宙船計画の一環として、「Crew Dragon(Dragon 2)」を国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げる。最初の試験飛行は、自動操縦モードで行われる。 有人飛行は2018年第2四半期の予定。SpaceXは現在、平均で年4回の「Dragon 2」ミッションの契約を結んでいる。そのうち3回は貨物補給、1回はISSに搭乗員を送る。NASAが奨励している民間の有人飛行によって、政府の長期的なコスト削減と飛行の信頼性向上が実現し、政府と民間の双方に利益をもたらす。

「Crew Dragon」ミッションがNASAで行われた後、SpaceXは月の周回飛行を行うミッションに着手する。打ち上げはケネディ宇宙センターの歴史ある「ケープ・カナベラル 39A発射台」で行う。アポロ計画の月面探査で使用された発射台と同じだ。今回は人間が45年ぶりに月より遠い「深宇宙」に戻る機会をもたらす。彼らは歴史上の誰よりも速く、太陽系の奥へと飛行する。

「Dragon」は、最初から有人飛行を行う目的で設計されており、すでに長い飛行実績を有している。ミッションはこれまでの実績に基づいて慎重に計画された。今回のミッションは、人類が火星に降り立つという最終目標のための重要なマイルストーンとなるだろう。

※この記事は、更新版です。

source:SpaceX、Flickr、NASA

[原文:Elon Musk: SpaceX is going to launch 2 space tourists 'beyond the moon'

(翻訳:小池祐里佳)

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