ドキュメンタリー映画『A New Understanding: The Science of Psilocybin』の一場面。
A New Understanding
LSDやシロシビン(マジックマッシュルームに含有される活性成分)のような幻覚剤は、その強すぎる効果から、長い間使用を禁じられてきた。しかし米国では、精神医学研究者によって、メンタルヘルスの治療への活用が模索されている。
最近公開されたドキュメンタリー映画『A New Understanding: The Science of Psilocybin』を見る限り、研究者たちの考えは間違っていないようだ。そこには、「幻覚剤セラピー」を受けた人々の変化がはっきりと描かれている。
「抗鬱剤は効果が出るまで3週間から4週間かかりますが、シロシビンならわずか30秒で同様の効果が得られます」
インペリアル・カレッジ・ロンドンで神経精神薬理学を専門とするデイビッド・ナット(David Nutt)教授は、映画の中で語っている。研究によると、シロシビンを1回投与しただけで、まるで外科手術を施したかのような絶大な効果が観察され、通常の治療法では改善が見られなかった鬱病や不安症などのケースにも効果があったという。
このドキュメンタリーでは、幻覚剤研究の最先端にいる研究者と被験者を追っている。被験者たちは訓練を受けた観察者の下で、音楽を聴きながら「トリップ」した。死の恐怖に怯える末期癌の患者は、幻覚剤によって苦悩を乗り越え、自身の症状を受け入れることができたと証言した。セラピーとして安全に使用できると証明するために、シロシビンを服用した健康な被験者は、「世界が違って見えた」と語った。
研究者たちは、鬱病にかかると活発化すると考えられている脳部位の活動が、幻覚剤の服用でしばらくの間穏やかになり、感情の調整に寄与すると考えている。それは長期間瞑想を行っている人の脳の状態に近い。
ニューヨーク大学医学部で精神医学を専門とするステファン・ロス(Stephen Ross)准教授は「これらの物質が幻覚症状を起こすという理解は正確ではありません。幻覚症状は、現実には存在しない刺激から引き起こされる感覚であり、脳内部で発生します。それに対し、目の前の壁が溶けているように見えるのは“幻想”です。LSDやマジックマッシュルームなどの麻薬は、幻覚症状よりも幻想を引き起こしやすいのです。つまり、現実の刺激から得る知覚を変化させます」と説明した。
米ヘフター(Heffter)研究所の共同創立者 デイビット・ニコルズ(David Nichols)氏によると、幻覚剤がセロトニン受容体を活性化させることで、これらの効果が現れるという。
その効果が脳の活性化であろうが、幻覚症状であろうが、 我々には理解し難い、深遠な体験であることは間違いないようだ。研究者が「神秘的な体験」と呼ぶそれは、幻覚剤を摂取した場合ほぼ例外なく起こり、長期的に持続する。
「ジェットコースターの頂点まで来て、急降下するような感覚でした。心の中で自分自身に『わたしの心を連れて行くよ。どこに行くかはわからないけど、連れて行くからね』と語っていたのを覚えています。そしてわたしは安心し、旅立ちました」
健康な被験者のサンディは、シロシビンを初めて服用した体験をそう説明した。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 )が行なったシロシビン研究の被験者で、末期患者のアニーは「最高の気分でした。これと同じ効果を得ようと思えば、何年もセラピーを受けなければならないでしょう」と語った。彼女の夫も「誰かがアニーの頭に電球を差し込んだかのようでした。彼女は文字通り輝いていたのです」と振り返った。
映画の予告はこちら。Vimeoでも視聴できる。
[原文:How psychedelics like psilocybin and LSD actually change the way people see the world]
(翻訳:Wizr)