ザッカーバーグ氏は彼のAIアシスタントについて「アイアンマンのジャービスみたいなもの」と述べた
Mark Zuckerberg / Facebook / MSQRD
2016年はIT業界にとって特別な年だった。Snapchatの「Spectacles」はさておき、話題を独占するような革新的なテクノロジーは生み出されなかった。代わりに、Facebook、マイクロソフト、Google、AmazonのようなIT業界の大手企業は将来の成長市場を見越して、「AI」の開発に本気で取り組み始めた。
例えば、Googleはディープマインド(DeepMind)のコードをオープンソースとして公開し、Facebookは、AIがどのような仕組みで動くのかを簡単に説明するシリーズもののビデオをリリースした。マイクロソフトは、Siriやコルタナ(Cortana)のようなバーチャル・アシスタントを開発するためのデータベースを公開した。そして、Amazonは、アレクサ(Alexa)のようなAIをアプリに組み込むための開発者向けサービス「アマゾン・レックス(Amazon Lex)」を発表した。
AIの技術は各社の実際のサービスに組み込まれ、少しずつ人々の目に触れ始めている。「Google photoの顔認識」、Facebookの「コメントを即座に翻訳する機能」、ネットワークトラフィックの自動調整、マイクロソフトのHoloLensによる仮想的な「テレポート」機能など。
ただ、各社の努力にもかかわらず、一般ユーザーにとってAIはまだ抽象的でわかりにくい。触ることも、感じることも、身に付けることも、また実際のところ買うこともできない。テクノロジーの趨勢や流れを追っていない限り、IT業界の「内輪ネタ」のように感じてしまう。
HoloLensはAIを使って、火星への仮想テレポートを可能にした。
TED
それでも、マイクロソフト、Amazon、Google、Facebookが、AIに取り組んでいる背景には、ロボット時代の到来が迫っていること以外にもいくつか理由がある。
理由その1:採用
AIの登場は、デスクトップPCからモバイルコンピューティングへの移行と同じくらいのインパクトを持つ出来事だ。熱狂的なAIマニアであるGoogleのCEO サンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏は、すべてのユーザーが個人用のGoogleを所有する世界を思い描いている。
Facebookとマイクロソフトも同じように、AIの技術がいかに自社のアプリやサービスを進化させているかを強調した。
AIの活用によってわたしたちの未来は明るいものになる。写真や書類、メッセージはもとより、わたしたちの暮らしはよりスマートに、よりインテリジェントに、より快適になるだろう。
GoogleのCEO サンダー・ピチャイ氏
Reuters/Stephen Lam
素晴らしいことだ。ただ、1つだけ問題がある。「機械学習の専門家が世界に不足している」と、Facebookの応用機械学習(AML)研究部門の責任者Joaquin Quiñonero Candela氏はBusiness Insiderに語る。
プログラマーにとって、シリコンバレーの競争の激しさはもう正気とは思えないほど。一流のAI専門家は大人気で、IT業界の大手から別の大手へと引き抜かれている。この過熱ぶりやAIへの注目こそが、(AIの)コンセプトをユーザーにアピールすることよりも、開発者を興奮させている。今、働いている開発者だけでなく、大学生や独学中の個人も含めて。
AIに興味を持ってもらうことは、FacebookやGoogle、その他の企業にとっての最大の関心事になっている。特にAIはポップカルチャーの影響で、一般の人にとっては魔法のような存在であり、学習するのが難しいという印象になってしまっている。
実際のところ、AIとは応用数学と統計学に過ぎない。数学を学ぶのは普通のこと。しかし、次世代のプログラマーが人工知能の概念におじけづいてしまったら、AIに未来を託すGoogle、Facebook、その他のIT企業にとっては問題となる。
簡単に言おう。もし、数年後にエンジニアとして仕事をしたいなら、プログラミングや統計を学び、マイクロソフト、Facebook、Googleなどが無料で公開しているコードで遊んでみることだ。
理由その2:クラウド・コンピューティングと開発者コミュニティ
現在、クラウド・コンピューティング市場でトップ・プレーヤーと考えられているのはAmazon、マイクロソフト、Googleである。クラウド・コンピューティングを活用すれば、企業はコンピュータのリソースを利用した分だけ料金を支払えばいい。クレジットカードがあれば始められる。
Amazon Web Services(AWS)はクラウド・コンピューティング事業者の中で群を抜く存在であり、あらゆる点で競合を引き離している。もちろん、マイクロソフトやGoogleもクラウド市場でトップの座を狙っている。彼らは資金とリソースを投入して、それぞれ「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」を構築し、同時にクラウド・ビジネスを牽引するマネージャーも積極的に採用している。
AmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏
Spencer Platt/Getty Images
クラウド・コンピューティング市場で“勝利する”には、開発者コミュニティの熱い支持が必要だ。Amazonやマイクロソフト、Googleは、ソフトウェア開発者が本当に使いたい機能は何かを常に模索している。クラウド・コンピューティング分野でトップ・プレーヤーになるということは、強力な開発者コミュニティに支持されるということでもある。開発者に支持されないIT企業に未来はない。来るべきAIの時代においても、そのことに変わりはない。
AIはまだ新しい分野だ。それゆえ、多くの企業がAIの専門家を欲しがっている。まずはスタートアップ企業、数年以内にはフォーチュン500に並ぶ企業もこの競争に参入することになるだろう。Amazon、Google、マイクロソフトにとって、今のうちにAIの専門家を囲い込んでおくことは、確実に将来の利益となるのだ。
確かに、新しいMacBook Proの発売は少しつまらないものだったかもしれない。だが、IT企業は居眠りしていたわけではない。彼らは今後の大きな発表に向けて、基礎固めをしているのだ。
注記:ジェフ・ベゾス氏は、投資会社Bezos Expeditionsを通してBusiness Insiderに投資している。
(翻訳:一柳優心)