売上は4倍、利益は10倍に膨れ上がった ―― ITサービス企業「スカラ(旧フュージョンパートナー)」の梛野(なぎの)憲克社長は2月14日、輝かしい上半期の決算を東京証券取引所のセミナールームで披露した。最高益を叩き出す企業を買収し、連結に収めたスカラの収益は増加。一見、よく見られるM&A(合併・買収)による企業規模の拡大だが、その買収の方法は敵方のレーダーに発見されることなく侵入する米爆撃機になぞらえて「ステルス」型とも言われる。
東京証券取引所
Keith Tsuji/Getty Images
スカラ(2016年12月に社名を変更)は、2016年5月16日から20日までに営業支援ソフトの開発・販売を行うソフトブレーンの株式2.7%を市場を通じて取得。翌6月22日、椰野社長率いる経営陣は、ソフトブレーンの豊田浩文社長を訪問。株式を取得したことを明らかにした上で、その後も買い増しを行い、持分法適用会社にしたい意向を伝える。翌日の23日からわずか7営業日の間、スカラはソフトブレーンの株式約40%を市場で買い付けた。
「敵対的だと感じています。当時、株価の急激な上昇を見てまさかとは思った。TOB(公開買い付け)ではなく、短期間で大量の株式を市場内で買い付けることができるのか? 驚きました」と豊田氏はBUSINESS INSIDER JAPANとのインタビューで語った。
スカラは2015年にも似たM&Aの手法を利用している。CRMアプリケーションを開発するエイジアの株式25%以上を短期間で市場で買収、持分法適用会社とした。スカラは株式を取得した上でエイジアに業務提携を提案したが、エイジアの経営陣は、魅力を感じる提案ではないとして、交渉は決裂。スカラは2016年6月までにエイジア株の大部分を売却した。
ソフトブレーンとエイジアは買収防衛策を設けていない。2005年のライブドアによるニッポン放送への敵対的買収を機に、日本では多くの企業が買収防衛策の導入に走った。しかし、その後、国内において敵対的買収が成立した事例はほとんどなく、防衛策を策定する企業の数は激減した。また、コーポレートガバナンスを強化する動きが活発化する中、「買収防衛が経営陣の保身を目的とするものであってはならない」とする考え方が広まり、防衛策の廃止を促したとも言われている。
TOBと5%ルール
金融庁のホームページには、「会社支配権等に影響を及ぼし得るような証券取引について、透明性・公正性を確保するため」の制度として公開買付(TOB)制度が公開されている。TOBを行わなければならない場合として、1)多数の者(60日間で10名超)からの買い付け、買い付け後の保有割合が5%を超える場合、もしくは2)著しく少数の者(60日間で10名以内)から買い付け、買い付け後の保有割合が3分の1を超える場合を挙げている。TOBを行うには、目的や価格などを広く世間に公表することが必至。
TOB制度の目的を、「透明性・公正性を確保」するためと金融庁は説明するが、この透明性と公正性は、金融商品取引法(金商法)でも担保されている。それが、いわゆる「5%ルール」だ。
金商法では、「上場している法人の株券等を保有する者については、株券等保有割合が5%を超える場合に、大量保有報告書の提出」を必要とする5%ルールが定められている(第27条23第1項)。さらに、「大量保有報告書及び変更報告書の提出は、報告義務発生日から5日以内(土、日、祝日等を除いてカウント)(同第27条の23第1項、第27条の25第1項)と厳しく定められている。
今回、両社の経営陣が会合を開いた日の2日後の6月24日までの、スカラが保有するソフトブレーンの株式は4.97%で、5%ルールに抵触しない。スカラは週明け27日の月曜日に11%と一気に5%を突破、ここから5営業日後には市場に大量保有報告を公表する義務が発生した。
スカラが初めてソフトブレーン株式の取得に触れたのは、7月4日に同社が発表した「ソフトブレーンの連結子会社化に関するお知らせ」だ。スカラは、TOBや適時開示のルールに触れることなく、ソフトブレーンを子会社化し、結局、7月14日までにスカラの保有株式は議決権ベースで45%を超えることとなり、ソフトブレーンは国際財務報告基準(IFRS)上、スカラの連結子会社となった。
金融を専門とする弁護士によると、今回の株式取得は、TOBルールや大量保有報告義務には抵触していないという。ただ、「買い上げの過程や出来高など興味深い点が残る」と指摘する。実際、40%超までを買い上げる過程では、5営業日連続してストップ高(取引値幅制限)をつけたが、取引は成立している。市場関係者は、短期間で大量の株式を場で集めることについて、「物理的に不可能ではないが、通常では難しい」としている。
株主提案
スカラは8月、ソフトブレーンとの業務提携に向けた協議を開始すると発表するが、ソフトブレーンは4カ月後の12月に協議は終了したとする内容を開示。「株式取得の経緯やシナジーがあるとは考え難い提携、スカラ社経営陣との信頼関係の欠如」を理由に協議の終了を決断したと、ソフトブレーンの豊田社長は話した。
スカラの攻勢と思われる動きは続いた。同社は今年1月5日、ソフトブレーンの取締役に椰野氏を含む6名と監査役2名を選任する株主提案を提出したと発表。ソフトブレーンはその5日後に「過半数を占める取締役6名の選任を求める株主提案は、両社の独立性を保つとしていた両社間の合意に反するものであり、受け入れられないことを(スカラ側に)述べている」とする内容を開示した。
2月16日、東証6階のセミナールームに立つスカラの梛野社長は、「基本的にはM&Aは今後も活用していきたいということに変わりはありません。手法に関しては、対象会社の状況にもよりますので、それはその時に判断してやっていきたい」と話した。スカラの営業利益は、7月〜12月期で前年同期比で10倍以上増え33億9100万円。売上は4倍増の52億8600万となった。
スカラはさらにソフトブレーンの株式を買い増した。3月3日、保有株式は議決権の所有割合で50.23%となったことを明らかにした。ソフトブレーンの2016年度(1月〜12月)の売上は77億1900万円で、前年から31%増加。営業利益は50%増えて、10億1400万円だった。
エイジア社長の美濃和男氏は言う。「上場企業として買収防衛策を講じるべきではないと考えております。今後も、同様の買収リスクはあるでしょう。経営者・取締役として考えるべきことは、企業の業績と企業価値を上げること、それと社員を不安にさせないことだと思います」としている。
ソフトブレーンの創業者は、メディアにも登場してきた宋文洲氏。宋氏は、最新のメールマガジンで、「悪質な乗っ取りにさらされている現在、わたしが持っている知識と資力を使って現在の経営陣をサポートする」と書いている。同氏は、最近になって新たな会社を設立した。
50%以上の株式を保有する上、ソフトブレーンに6人の役員の選任議案を提出しているスカラ。今月末に開催を予定しているソフトブレーンの株主総会では、優勢は変わらないと見られている。