本を読んでいると、登場人物たちの声が聞こえてくる。いや、読んでいない時でさえも。
『ハリー・ポッター』シリーズ / Warner Bros.
素晴らしい小説の登場人物たちは、読者であるわたしたちに鮮烈なイメージを残す。その表情、行動に留まらず、思想、そして「声」まで。
実際、多くの人がフィクション、ノンフィクションにかかわらず、読書中に登場人物たちの声を聞いている。イギリスのダラム大学とエディンバラ国際ブックフェスティバル、英紙ガーディアンが共同で行った調査で明らかになった。
興味深いことに、回答者の5分の1が、本を読んでいない時にも、登場人物の声や考えを聞いたことがあると答えている。専門家はこれを「経験的交差(experiential crossing)」と呼ぶ。
『指輪物語』の魔法使いガンダルフや『ハリー・ポッター』シリーズのダンブルドア校長は、現実世界でも賢明なアドバイスをくれるはずだ。あるいは、「謹んで切符をお返しする」という『カラマーゾフの兄弟』のイワン・カラマーゾフのセリフは、世の中の不正を見た時にきっと脳裏に蘇ってくるはずだ。ウェブメディア「Science of Us」のメリッサ・ダール(Melissa Dahl)のように、子どもの頃『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ人はきっと、世の中の出来事すべてが「インチキ」に思えたことだろう。
「物語の登場人物『声』はそのうち、現実にも入り込んできます。まるで自分がその登場人物になったかのように思えてくるんです」とある人は回答した。
ヴァージニア・ウルフの作品を読んだ時のことを述べた人もいる。
「昨年『ダロウェイ夫人』を読んで論文を書いた。その時、わたしは主人公のクラリッサ・ダロウェイ本人に“包まれている”ような気がした。いつも彼女の声が聞こえていた。違う状況だったら彼女はどんな反応をするだろうと考えた。ダロウェイ夫人の多面性について考察した論文を書きながら、もし、彼女がスターバックスに来たらどんな反応をするかをリアルに想像することができた」
映画(ベストセラーの映画化作品)も「声」の存在に大きな影響を与える。「本より先に映画を見ていた場合、基本的に『声』はその役者の声になる」という回答があった。
ちなみに、回答者はブックフェスティバルやガーディアンの書籍の広告で募集した。基本的には本を読むことが好きな人たちだ。回答者のうち75%が女性。平均年齢は38.8歳だった。英語圏が対象。
傑作を読んでその「声」に思いを巡らす時、人生を見つめ直す「新しい視点」が生まれる。
『ネバー・エンディング・ストーリー』 / Warner Bros.
読者が登場人物の「声」を聞いてしまうのは驚くことではない。没入感の強い物語では、登場人物は生き生きとしているもの。彼らの「声」はあたかも現実のものとして、わたしたちの「脳内」に響き渡る。『果てしない物語』(映画のタイトルは『ネバー・エンディング・ストーリー』)などがその代表例。傑作を読んでその「声」に思いを巡らす時、あなたの人生観に“新しい視点”が生まれる。
人は架空のキャラクターを「現実のように」感じることができる。対話文を読んだ人の聴覚に関係する脳の部位の働きは活発になる。これは神経科学の研究で明らかになっていることだ。
小説家のエドワード・ドックス(Edward Docx)はガーディアンに語る。
「物語を通して、人は“他人”の魂に触れることができる。物語は人間心理の複雑さを描き出せる稀有なメディアだ」
(敬称略)
(翻訳:小池祐里佳)