ガーディアンの動画が暴いた「トランプ大統領の異常な握手マナー」、トランプ・ノーマルを許してはならない

―― 筆者の津山恵子氏はニューヨーク在住のジャーナリスト。ライター、作家、写真家の顔も持つ。アメリカの社会、政治、ビジネスを日本の読者に向けて執筆する。近著は「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。


カメラマンらにとっては、十分にいいショットが撮れる、ありがたい19秒間だった。2月10日、 安倍晋三首相が日米首脳会談の際、トランプ米大統領と交わした、異常に長い握手の時間だ。普通なら2〜3秒だ。

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19秒間の握手。安倍晋三首相(左)とドナルド・トランプ米大統領(右)。

Chip Somodevilla/Getty Images

トランプ氏がやっと手を放した瞬間、安倍首相は、トランプ氏には死角の右斜めを向き、目を見開き、口を大きく開けて、「あ〜、長かった〜、なんだ、この握手は???」とでも言いたげに顔を歪めた。

ガーディアンはこの瞬間を見逃さなかった。「ドナルド・トランプの握手:強い握りが、こんなに弱虫に見えることはなかった」という記事についたビデオが、安倍首相のしかめつらをとらえている。トランプ氏は、相手の手をぐっと握りしめ、さらに、握った手を自分の側にグイッと引き寄せる。礼儀作法的には、自分の優位性を示そうとする常識はずれな握手で、国家首脳のそれではない。「何なんだ?」という安倍首相の顔は、正直な反応だろう。

過去、異常な握手の犠牲になり、トランプ氏の優位性をカメラの前に晒してしまったのは、副大統領になったマイク・ペンス前インディアナ州知事、そして、連邦最高裁判事に指名されたニール・ゴーサッチ判事と、トランプ氏の「身内」にまでおよぶ。前出のビデオを見ると、ペンス氏は、トランプ氏にグイッと引っ張られるままに、体のバランスを失い、あごがわずかに前に出てしまった。

「カメラのために並んだ際、すでに椅子に腰掛けていたのは、安倍首相にとって幸いだった」

と同記事。身長175センチの首相が、188センチのトランプ氏との握手で、バランスを失う「失態」がカメラに映されなくてよかったとほのめかす。

術中にはまらなかったトルドー首相

たかが、握手。だが、欧米では知っていて当たり前の礼儀作法だ。筆者もかつて、インド人外交官に「訓練」を受けた。難しかったのは、親指と人差し指の間のくぼみ同士が噛み合うこと。男性ならしっかり握り、女性はエレガントにキュッと握る。そして、対等な関係で、敵対していないことを示すために、握った手をあまり動かさないことだ。トランプ氏は、それを自分の方に引き寄せるばかりでなく、安倍首相にしたように、「よしよし、おれの子分だ」とばかりに、左手で相手の右手の甲を叩いたりもする。

ガーディアンに記事を書いた、ニューヨーク市立大教授のムスタファ・バイウミ氏は、こう指摘する。

「トランプ氏の握手は、スモール(肝っ玉が小さい)で、超・男性っぽい力の顕示で、握手が意味する同等の関係であるという作法さえ、彼は恐れているようだ」

19秒間も「トランプ流儀」にはまってしまった安倍首相に比べ、直後に会談したカナダのジャスティン・トルドー首相は、トランプ氏が優位に見えるのを阻止した。

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Pool/ Getty Images

ビデオを見ると、ホワイトハウス前で車から降り、トランプ大統領に迎えられたトルドー首相は、「グイ引き」を避けるためか、至近距離で握手し、しかも親しみを示すかのように、トランプ氏の右上腕をガチッとつかんだ。トランプ氏との距離が狭まり、引っ張られることもなく、「動かさない」という作法にのっとった握手に成功した。

テロップが、こう流れる。

「トルドーは、トランプの右肩をつかみ、バランスを保った」

「ラウンド2(ホワイトハウス内で座ったままの握手の映像)。彼は、握手をコントロールできて、自分から手を離した最初の首脳となった」

笑顔ながら、トルドー首相の賢明な対応を見ると、たかが握手であっても、「トランプ流」を許してはならないと、読み取れる。

トランプ氏が当たり前だと思っていること、そして、その行動は、常識外れだ。しかし、カメラを通して見ると、1人の国家首脳が体のバランスを失うことで、上下関係を露呈したかのように見える「危さ」さえある。

アブノーマルな中での、ノーマリティ

トランプ大統領が就任して、「ハネムーン」と呼ばれる100日間の半分が過ぎようとしている。50日を目前に、彼は3月4日土曜日、異様なツイートを連打した。

背景は、司法長官に就任し、トランプ陣営の重要人物でもあるジェフ・セッションズ氏が、昨年の大統領選挙中に駐米ロシア大使と面会していたというスキャンダルだ。ロシアが、米大統領選挙に干渉したという前代未聞の疑惑について、司法省や連邦議会が調査を始め、民主党は、同大使と面会したセッションズ氏が、その指揮を執るのは問題があると反対。同氏は、司法省の調査から外れると自ら表明した。民主党は、同氏の辞任をも迫っている。トランプ氏にとっては、面白くない週末だ。

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アメリカ合衆国 司法長官 ジェフ・セッションズ氏

Alex Wong/Getty Images

以下がツイートの内容だ。

「とんでもない! 今しがた判明! 大統領選挙でわたしが勝利する直前、オバマがトランプタワー内のわたしを『盗聴』していた。何も見つからなかった。これはマッカーシズム(赤狩り)だ!(注:何が見つからなかったのか、意味不明)」

「今しがた判明:ジェフ・セッションズ司法長官に会った同じロシア大使は、オバマのホワイトハウスを22回、昨年だけで4回訪問した」

「現職大統領が、投票日前に大統領選挙戦を『盗聴』することは合法なのか? 過去には裁判所が否定した。(オバマは)最低レベルを更新している」

「オバマ大統領が投票日直前の10月にわたしの電話を盗聴していたという事実をもとに、優秀な弁護士なら、素晴らしい訴訟案件を作ることができるのは、間違いない!」

「非常に神聖な選挙プロセスの中で、わたしの電話を盗聴するとは、オバマ大統領は、なんという低俗な野郎だ。これは、ニクソン元大統領のウォーターゲート事件だ! 最低、あるいはビョーキの男だ!」

いちいち、「はあ?」というような内容だ。だが、それぞれのツイートに、トランプ支持者から10万以上のLikeが付いている。アメリカは、正常心を失っているかとさえ、思ってしまう。

ツイートを発しているトランプ大統領の方が、病的ともいえる理由を挙げよう。

現職大統領が、大統領候補者を盗聴するということが、可能だろうか。米メディアによると、捜査機関でさえ、事件性が絡む個人の盗聴には、裁判所の許可がその都度必要となる。しかも、驚くほどスキャンダルがなかったオバマ前大統領が、かつてニクソン元大統領を辞職に追い込んだような行為を任期満了寸前にするだろうか。

また、現職大統領が、ロシア大使と面会することに何の問題があるのかも大いに疑問だ。トランプ大統領は、ホワイトハウスでロシア大使に面会しないつもりだろうか。

いつものように、トランプ氏のツイートは、何の証拠も根拠も示していない。

「正常心」といえば。

トランプ氏が信頼に足る大統領で、「オバマ前大統領が、大統領候補者の電話を盗聴した」と発言すれば、普通の状態では、何が起きるか。たとえ週末でも、テレビニュースが速報として流し、週末は休むはずの花形アンカーが終日番組に登場するだろう。そして、議会の重鎮が「即座に調査を始める」意向を表明し、ワシントン中が震撼するにちがいない。

しかし、アメリカは普通の静かな週末を迎えた。アブノーマルな中での、ノーマリティだ。

トランプ氏本人が当然だと信じている「トランプ・ノーマル」に振り回されてはならない。カナダのトルドー首相のように、礼儀作法1つとっても、トランプ大統領にコントロールさせないことが必要だ。相手をグイッと引っ張り、ヒヤッと思わせ、ある種の恐怖心、不安を抱かせる。それが、トランプ式の大衆迎合主義につながっているのだから。

※この記事は筆者の考えに基づくものです。

source:ガーディアン

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