「Google Could Next '17」で登壇したグーグルのウルス・ヘルツル氏。
クラウドコンピューティング・ビジネスは、アマゾンやマイクロソフト、グーグルが競合する2940億ドル(約33兆8500億円)の巨大市場だ。各社が“秘密兵器”によって、このマーケットを制することを望んでいる。
たとえば、アマゾンウェブサービス(AWS)はこの戦いにもっとも早く参入し、市場をリードすることで業界トップという独占的な地位を獲得した。業界2位と言われるマイクロソフトは、同社のこれまでのBtoBビジネスのチャネルを活かしてクラウドコンピューティングプラットフォーム「Azure」の販売を拡大している。
そして、グーグルだ。
先の2社に比べると、遅れを取っていると思われがちだが、実はグーグルはかなり以前からクラウド・サービスを提供している。ただ、ユーザーの多くがスタートアップや比較的小さな企業向けだったため、大企業向けでアマゾンやマイクロソフトに先を越された。グーグルがアマゾンに対抗する準備が整ったのは、2015年後半にクラウド担当のダイアン・グリーン(Diane Greene)氏を雇い入れてからだ。
今週サンフランシスコで開催されている「Google Cloud Next '17」ではいくつかのニュースや発表があったが、グーグルのメッセージはシンプルだった。すなわち、「グーグルも秘密兵器を持っている」である。開発した最先端技術を、信頼性の高いウェブを通じて提供することにかけて、グーグルは世界中のどんな企業よりも豊富な経験を積んできた。
「我々は第一原則から始めた」
カンファレンスに登壇したグーグル8番目の従業員で、IT業界のグル(導師)としても知られるウルス・ヘルツル(Urs Holzle)氏はこう述べる。「誰もが生産性を上げ、楽しむことができるよう、インフラを構成するすべての要素をデザインした」
これは新しい話ではない。グーグルはこれまでも同様の話をしていたし、グリーン氏もカンファレンス初日のプレゼンテーションの中で触れている。ただ、大規模なクラウドの機能不全や安全性の欠陥がニュースをにぎわせている中、グーグルのメッセージはより刺さる。
すべてグーグル社内で始まった
大半とまでは言えずとも、グーグルのクラウドコンピューティング・サービスの多くはグーグル社内で始まった。たとえば最近発表された「Cloud Spanner」は、グーグル独自のデータベースとして、多くのデータセンターを完全にシンクロしている。
膨大なデータセットを高速処理するグーグルのBigQueryは、GメールやYouTube、AdWordsといった主要プロダクトのインフラ基盤を支えるDremelという技術としてスタートした。グーグルでは、営業担当者が広告パフォーマンスのインサイトを素早く確認できるようDremelが支援する。 スポティファイ(Spotify)はBigQueryを使ってユーザーの視聴習慣を分析している。
Google Cloudのチーフ、ダイアン・グリーン氏
Business Insider
「Google Cloud Next '17」でグーグルは、AdWordsのデータをBigQueryとつなぐ機能を含め、消費者向けの新しいBigQuery関連プロダクトを紹介。いまや、少なくとも理論上は、一般ユーザーもグーグルが自社の営業担当に提供するものと同様の広告パフォーマンスに関するインサイトを手にすることができる。
グーグルは、データをGoogle Cloudに簡単に取り込むことを可能にする。たとえば、世界中の天気予報を提供するAccuweatherやダウ・ジョーンズといった企業の有料データセットにアクセスし、様々な分析に使える「Cloud Data Prep」という新サービスに関する発表も行った。
グーグルのFausto Ibarra氏は、同社のクラウド関連ビジネスにおける最終目標について「BigQueryをより多くの人がアクセスできるものにすることだ」と述べた。
クラウド環境では欠かせない「DLP」(Data Loss Prevention)
グーグルはユーザーが利用可能なセキュリティに関する技術も開発している。「我々はもっとも安全なクラウド環境を開発した」。グーグルでクラウド・セキュリティのリードプロジェクトマネージャーを務めるジェニファー・リン(Jennifer Lin)氏は言う。
たとえば、Google CloudのDLP(Data Loss Prevention)はプロダクトマネージャーの マヤ・カチョロフスキ(Maya Kaczorowski)氏が言うところの「グーグルの期待の星」だ。
DLPは、同社の人工知能(AI)が文書をスキャンするノウハウを使って、クレジットカードや社会保険番号といった“シェアすべきでない”文書を見分ける。
この極小チタンチップが、グーグルのサーバの安全性を保証する。
さらに同社は、Google Cloudに使われている新しいセキュリティ・チップやIdentity Aware Proxy(IAP)といった、ユーザーに合ったアプリを提案するサービスなど、クラウド・セキュリティ関連で多くの発表を行った。
改めて言おう。データセンターやアプリの安全性を高めるサービス(あるいはプロダクトの)開発は、いずれもグーグル社内からスタートしたものだ。つまり、同社が自前のクラウド環境を運用しながら直面してきた問題とその解決策を競争力のある技術として磨き上げ、市場に発表し始めたということだ。
(翻訳:山口佳美 )