Reuters/ DEA
「医療目的での幻覚剤使用が認可される日はいつか来る」。そう信じる科学者が増えている。鬱病や不安症の治療に効果があるからだ。
しかし、幻覚剤の定義とは何だろう。コカインやアルコールなど、その他のドラッグとは何が違うのか。そして「トリップ」と称される幻覚体験 は、幻覚剤ごとに違いがあるのだろうか。これらの疑問について、以下にまとめた。
俗説1. 幻覚剤は究極のパーティードラッグ
俗説:エクスタシー(MDMA)、アシッド(LSDの俗称)、そしてマジックマッシュルーム(シロシビン)は、「娯楽目的」であったり、パーティードラッグとして使われる。
事実:多くの科学者は、幻覚剤がパーティードラッグと見られることについて、根拠のないレッテルだと考えている。シロシビン(マジックマッシュルームに含まれる幻覚作用を持つ成分)の臨床実験で、実験に参加したがん患者の被験者たちは、その幻覚体験を「娯楽とは程遠い」と表現した。多くの場合、幻覚体験にはパニック、不安、恐怖などの感情が伴うが、これらの感情は最終的に静まり、永続的かつポジティブな人格の変化に取って代わる。被験者の中には、(幻覚体験後)人生に対してより楽観的になれたと語る人もいる。また、価値観が完全に変わり、対人関係が向上した人たちもいた。
俗説2. 幻覚剤は「すべて天然」
俗説:LSDのような幻覚剤は、コカインのような覚醒剤とは対照的に、自然の成分でできている。
事実:マジックマッシュルームとアヤワスカ は自然の中で発見できるが、LSDは合成によって作られ、舌から摂取できるよう紙切れ状に加工される。
*アヤワスカは植物バニステリオプシス・カーピ(ヤヘイ)のつるとプシコトリア・ウィリディス(チャクルーナ)の葉を煮出して醸造される向精神性の飲料。ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルーなどの先住民族儀式の中で、何世紀にもわたり宗教的な薬として使われている。
俗説3. 幻覚剤を使えばいつでも「トリップ」できる
俗説:幻覚剤を摂取すると、幻覚体験「トリップ」をする。音が視覚化されたり、色が聴覚化されたりする場合もある。
事実:最新の研究では、「適量」だと考えられる量の幻覚剤を被験者に与える「トリップ・トリートメント」に焦点が当てられている。
しかし、この重要な研究に注目が集まると同時に、研究対象にはなっていないマイクロドージング(超微量薬物投与)と呼ばれる別のトレンドも知られるようになった。マイクロドージングは、幻覚体験が起こらない程度の微量の幻覚剤を摂取することを指す。シリコンバレーや他の地域の人たちは、マイクロドージングの使用で生産性を高めていると主張するが、これらの体験談を妥当だと判断するにはさらなる調査が必要だ。
俗説4. 幻覚剤は脳に「穴」をあける
俗説:1990年代から2000年代前半に行われたドラッグ反対運動では、MDMA(エクスタシー)を使用すると脳に穴があくと主張された。
事実:実際には、物理的に脳の構造に穴をあける可能性があるのは、鈍器などよる外傷だけである。ドラッグ使用と脳構造の物理的変化の関連性を示す研究は大量にあるが、厳密な関係は、いまだに明らかではない。
ただし、どんな薬でも副作用はある。MDMAなどのドラッグも、100%安全だとは言えないということだ。
俗説5. 幻覚剤は他の違法ドラッグと同じような影響を脳にもたらす
シロシビンを与えられた人(右)と、そうでない人(左)の脳の神経を視覚化した図
Journal of the Royal Society Interface
俗説:幻覚剤は違法なので、他の違法ドラッグと同様の悪影響を脳にもたらす。
事実:幻覚剤が脳におよぼす影響については、さらなる研究が必要だが、幻覚剤にはアルコール、ニコチン、コカインのような依存性の高いドラッグとは根本的に違う効果があることは明らかだ。
たとえばコカインは、脳の中枢神経に作用し、深い幸福感をもたらすと考えられている。それにより、人によっては連続服用と依存のサイクルに陥ることもある。
一方で、マジックマッシュルームに含まれる精神活性成分、シロシビンは、脳の前頭前皮質の基盤を根本的に変え、その領域での情報伝達に変化をもたらすと見られている。いくつかの研究は、人によってはデメリットよりメリットの方が多いことも示唆している。
6. 幻覚剤で「トリップ」する時間はだいたい同じ
表は幻覚剤の種類と幻覚作用の持続する時間を示したもの。上から順にマジックマッシュルーム、アシッド、アヤワスカ
Business Insider/Mike Nudelman
俗説:どんな幻覚剤を摂取しようとも、幻覚体験が続くのは数時間。
誤りである理由:適量を摂取した際の幻覚体験の長さは、ドラッグの種類によって大きく異なる。LSDの効果はもっとも長い傾向にあり、6時間から11時間ぐらいの場合がほとんどだが、最大で14時間ほどの幻覚体験をしたという人たちもいる。
7. 幻覚剤の効果は科学的にすべて明らかになっている
俗説:幻覚剤については多岐にわたり研究されているため、さらなる研究は必要ない。
誤りである理由:20世紀、欧米ではアヤワスカ、LSD、その他の幻覚剤は悪名高いものではなかった。幻覚剤が注目を集め始めたのは1960年代、米国でティモシー・リアリー(Timothy Leary)や、リチャード・アルパート(Richard Alpert)らハーバード大学関係者が、マジックマッシュルームによって起こる「自我の消失」について研究したことがきっかけだ。
しかし、1966年に米政府は幻覚剤を非合法化し、潜在的な薬理作用を調べる研究を含むほとんどの実験が中止となった。結果として、幻覚剤が「安全」であるかどうかの見極めはいまだに難しいが、最新の研究では、当初考えられていたよりも危険ではないことが示唆されている。
[原文:7 myths about psychedelic drugs like LSD that are doing more harm than good]
(翻訳:Wizr)