スティーブ・ジョブズ(左)とビル・ゲイツ(2007年撮影)
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ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの付き合いが「スムーズ」にいったためしは一度もなかった。
30年以上のつきあいの中で、彼らは同盟を組んだこともあれば、憎み合うライバル同士だったこともある。そして、時には友人と言えなくもない関係だったこともある。あるいは、これら3つをミックスした関係だったことさえあるのだ。
ただ、振り返ってみれば、彼らの存在および、彼らの複雑な関係がなければ、現在のわたしたちが知るアップルやマイクロソフトは存在しなかったといえるだろう。
この記事は、ウォルター・アイザックソンが著したジョブズの伝記およびその他の文献からスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの奇妙な関係とその歴史を追ったものだ。
ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズは常に敵同士だったわけではない。マイクロソフトはその歴史の初期に、大人気だった「Apple II」コンピュータ向けのソフトウェアを開発していたし、ゲイツはアップルが取り組んでいる最新プロジェクトをチェックするため、クパティーノを頻繁に訪問していた。
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1980年代初期、ジョブズは革命的なグラフィカルユーザーインターフェイスを備えたマッキントッシュのソフトウェアを開発するよう、ゲイツを説得するためシアトルに赴いた。
ゲイツは当時、マッキントッシュの市場は小さいと感じ、特に良い印象を持たなかったと振り返る。そしてジョブズの態度にも。
「妙な勧誘訪問だったよ。スティーブは『きみらの助けなんてほんとは不要なんだ。僕らはこんなすごいものを作っているし、秘密のプロジェクトだしね』と例のスティーブ・ジョブズ的セールスモードで。言外に『きみらの助けはいらないけど、関わらせてあげてもいいかなと思ってる』と言ったんだ」
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Source: Fortune
ともあれマッキントッシュの発表前の1983年、ゲイツとジョブズはアップルの社員向けに制作されたビデオで共演している。ゲイツはその中でマックを「本当に人々のイマジネーションを捉えている」と褒めたたえている。
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マッキントッシュの発表後数年間、マイクロソフトとアップルは緊密に連携していた。ゲイツが「自分はジョブズより多くのマック関連従業員を抱えている」と皮肉を言うほどに。
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マイクロソフトが最初期バージョンのウィンドウズを1985年に発表すると、不安定化していた関係が一気に崩れる。
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怒りに燃えたジョブズは、ゲイツとマイクロソフトがマッキントッシュを丸ごとパクったと糾弾した。一方、ゲイツは意に介さなかった。彼はグラフィカルインターフェイスが大きく躍進することを理解しており、アップルにそのアイデアを独り占めする権利はないと考えていたからだ。
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加えてゲイツは、アップルがグラフィカルインターフェイスのアイデアを、2人が賞賛するゼロックスのPARC(パロアルト研究所)から拝借したことをよく知っていた。ジョブズにアイデアの盗用で非難された時にゲイツは有名なせりふで応じた。「スティーブ、視点を変えてみたらどうだろう。どっちかっていうと、近所にゼロックスって名前の金持ちの家があって、僕がTVを盗みだそうとしたら、きみがすでに盗んだ後だったってことなんじゃないか」
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ここから2人の創業者は対決モードに入る。ジョブズは「とにかく彼らは僕らを丸ごとパクったんだ。それはゲイツが恥知らずだからだ」とまで言った。
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それに対するゲイツの反応はこうだ。「もし、そう信じこんでるとしたら、彼は現実を歪める空間にマジでハマってしまったんだろう」
ジョブズはゲイツのことを退屈でビジネスにしか興味がない人物だと思っていた。「若いときに一度でもアシッドをやったりアシュラムで修行でもしていればもっと人間に幅が出たのに」
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ゲイツはジョブズのことを「根本的に変人」で「人間として奇妙な欠陥がある」と考えていた。
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ゲイツはジョブズのデザインの才覚を認めていた。「彼はテクノロジーに関しては素人だったが、それを嗅ぎ分ける驚異的な本能を持っていた」
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1985年にスティーブ・ジョブズはアップルを退職し、ネクストというコンピュータメーカーを立ち上げる。だがジョブズがマイクロソフト最大の競合会社を離れたからといって2人の関係が改善することはなかった。
ジョブズは、もしネクストが負け、マイクロソフトのウィンドウズが勝ったら「20年はコンピュータの暗黒時代が続くことになるだろう」と考えていた。
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にもかかわらず、ウィンドウズは勝利を収めつつあった。1980年代後期には、PC業界でマイクロソフトの勢いを止めるものがないのは明らかになっていた。
1996年にジョブズはPBS(米国の公共放送ネットワーク)制作のドキュメンタリー番組『Triumph of the Nerds』に出演し、ゲイツとマイクロソフトを「三流プロダクト」メーカーだとこき下ろした。
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その番組でジョブズはこう続けた。「マイクロソフトの唯一の問題はセンスがないことだ。彼らにはセンスのかけらもない。僕は文字通りの意味じゃなく、もっと深刻な意味で言っている。彼らはオリジナルなアイデアを思いつけないうえに、作る製品には思想がほとんど込められていないんだ」
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1990年代後期、アップルは倒産の危機に直面していた。当時のCEO ギルバート・アメリオは1996年に、ネクストの買収とそれに伴うジョブズのアップルへの復帰を画策していた。ゲイツは彼にそれをやめるよう説得を試みた。
ゲイツはアメリオにこう言った。「僕は彼のテクノロジーを知ってる。UNIXの焼き直しでしかないし、それをアップルのマシン上で動かすことは不可能だ。スティーブがテクノロジーの何もわかっちゃいないことを知ってるだろう? 彼は単なるスーパーセールスマンなんだよ。きみがそんなアホな決断をするなんて信じられないよ……。彼はエンジニアリングについてだって何も知っちゃいない。そのうえ彼が言うこと、考えることの99%が間違ってるんだ。そんなゴミを買っていったい何をする気なんだい?」
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それでも1997年にはジョブズはアップルのCEOとして復帰していた。彼の最初のマックワールド・エキスポ(マッキントッシュ専門のトレードショー)で、アップルを生き延びさせるためにマイクロソフトから資金を受け入れると発表した。会場の巨大スクリーンには衛星中継でビル・ゲイツの顔が映し出された。観客はそれをブーイングで迎えた。
2人の意見が一致することは少なかったが、ゲイツはジョブズを尊敬していた。アップルがiTunesを発表した時、ゲイツはマイクロソフトの社員にメールを送った。「『重要なことだけにフォーカスできること』『彼がイメージしたユーザーインターフェイスを作りあげるために社員を動かせること』『製品を革命的なものとして、マーケティングできること』。ジョブズのこれらの能力は驚嘆に値する」
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アップルが2001年にiPodを発表したとき、ゲイツはまたメールを社内に回した。「今回もジョブズにやられたが、我々にだって彼らを追い越す仕事ができる。そのためのプランを策定するべきだ」
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一方で、ジョブズのマイクロソフトに対する評価は低いままだった。2000年にスティーブ・バルマーがCEOとしてビル・ゲイツの後を継いで以降は特にそうだった。「マイクロソフトの“支配的地位からの転落”は明らかだ。彼らは大筋において、時代遅れの企業になってしまった……。バルマーの下にある限り、マイクロソフトでは何ひとつ変化は起きないだろう」
逆にゲイツは、iPhone発表後のアップルの成功は、その大部分がジョブズ自身によってもたらされたもので、アップルの哲学によるものではないと考えていた。「スティーブが指揮をしていた頃は垂直統合アプローチがうまくいっていた。だが、同じような成功がこれから何度も繰り返されるとは限らない」
Microsoft founder Bill Gates speaks during a news conference in New Delhi in 2008.
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ゲイツはiPadについてはそれほど評価をしていない。「iPhoneを手にして『なんてこった、マイクロソフトはこの上を目指すべきだったのに』って僕が思った時のような衝撃はなかったね」
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ジョブズもまたウィンドウズのエコシステムを評価していない。「もちろんマイクロソフトの“分断化されたエコシステム(多様なハードウェアが市場に存在することを指す)”がうまくいっていたのは事実だ。でも、ほんとうに素晴らしいプロダクトは生み出されなかった。実際、クソみたいなプロダクトばかりだよ」
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ゲイツが2006年、財団に注力するためマイクロソフトを離れることを決意した時でさえ、ジョブズは温情を一切かけなかった。「ビルは基本的にイマジネーションがない。何かを発明したことだって一度もない。だから彼は今みたいに慈善事業をやっている方がテクノロジーに関わっていた時より快適なんじゃないかなと思うよ」
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とはいえ、奇妙にねじれた形で彼らは明らかにお互いを尊敬してきた。2007年のカンファレンスで一緒に登壇した時、ゲイツは「スティーブのセンスが身につくなら何だってするよ」と言った。
Steve Jobs and Bill Gates in 2007.
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一方、ジョブズは「彼(ビル・ゲイツ)が作り上げた見事な会社のことを思うと、彼を素晴らしいと思う。一緒に仕事をするのは楽しかった。彼は聡明で、実はいいユーモアのセンスを持っているんだ」と発言したことがある。
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ジョブズが亡くなった後、ゲイツはこう言った。「僕はスティーブを尊敬する。一緒に仕事をした。お互いに刺激を与えあった。競争相手であってもね。彼が僕に言ったことで、僕がムカついたことなんて、何ひとつないんだ」
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この2人の男がかなりの偉業をなしとげたことは確かだろう。ジョブズは、アップルが世界でもっとも価値の高い会社になる道筋をつくり、ゲイツは世界一の資産家となった。
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(敬称略)
[原文:The saga of the strange love-hate relationship between Bill Gates and Steve Jobs (MSFT, AAPL)]
(翻訳:太田禎一)