インテルCEOのブライアン・クルザニッチ氏
Reuters/Beck Diefenbach
スマートフォンに乗り遅れ、PC市場の縮小に直面しているインテルは、プロセッサの開発・製造という同社にとって基幹ビジネスの「新たな市場」を探している。
同社は13日月曜日(現地時間)、彼らが見つけた新天地が自動車、特に自動運転車であることを発表した。
インテルは153億ドル(約1兆8000億円)で自動運転技術の開発企業「モービルアイ」(Mobileye)を買収する。これは同社の50年の歴史で、2番目に大きな買収となる。
ウーバー(Uber)やアルファベット(Alphabet)などと同様に、インテルは自動運転車時代の到来を見越し、その実現に必要不可欠となるプロセッサを供給しようともくろんでいる。
「インテル入ってる」のステッカーがPCに貼ってあった頃と同様に、毎年数千万台の販売が見込まれるプロダクトの内部に入り込むのがインテルの狙いだ。
これは合理的な戦略のように思えるし、新領域のビジネスへの移行を試みるインテルは賞賛されてしかるべきだろう。
ただこれまで、インテルの企業買収は良い結果にならないことが多かった。
インテルは1997年から2002年にかけて精力的に動き、ドットコムバブルとその後の期間で40社ほどの企業を買収した。さらに2010年には77億ドルでマカフィー(McAfee)を買収した。だがその後、数億ドルもの減損処理、数千人規模のレイオフ、買収した資産の売却に追われることになった。そしてインテルのビジネスは相変わらずパソコンとサーバ向けのプロセッサに依存し続けた。
インテルを何年もウォッチしている投資家はこうした経緯を心得ている。また「モービルアイ」買収に伴う出費も折り込まれ、13日月曜日、インテルの株価は2%ほど下落した。
不運なできごとの連鎖
インテルによるIT企業の買収は、大失敗に終わったと言える。ウイントリバー(Wind River)やダイアロジック(Dialogic)のような企業を数十億ドルで買収してスマホ市場に参入しようとしたが、成長初期の市場に定着することはできず、6億ドルの損失処理を行う結果となった。結果的にモバイルビジネスの大半を、2006年当時の買収金額と同額でマーベル(Marvell)に売却した。
マカフィー創業者のジョン・マカフィー氏
John McAfee
2010年、インテルはiPhoneのプロセッサを製造していたインフィニオン(Infineon)のワイヤレス部門を14億ドルで買収した。スマホ市場におけるインテルの地位を確立できるとの期待からだ。だがその後、アップルはチップの調達先を競合のクアルコム(Qualcomm)に切り替え、インテルのもくろみは崩れた。次期iPhoneのハードウェアにインテルを採用すると伝えられたのは、つい昨年のことだ。
いくつかの買収は奇妙なものだった。たとえば同社のプロセッサ事業にどうみても合致しないと思われたマカフィーの買収。その後6年を経てマカフィーの企業価値はほぼ半分になり、ついにインテルは過半数の株式を42億ドルで手放すことを発表した。
強気の理由
13日月曜日(現地時間)朝、CNBCの番組でインテルCEO ブライアン・クルザニッチ氏は、「モービルアイ」の買収で失敗が繰り返されることはないと主張し、自動運転車が収集する「ビジュアル・データ」がインテルのビジネスのポイントとなると訴えた。
「次のデータ革命の主役は、ビジュアル・データだ。自動運転車は常に周囲の世界を認識する。私たちが以前よりも“ビジュアル”でものを探すようになった現在、ビジュアル・データの重要性は高まっている。そこには新しいデータ処理技術と新しいビジネスが誕生する余地がある」
「重要なのは今やるということ。2020年、2021年モデルの自動車がどうなるのかを考えるなら、今、参入しなければならない。我々はこれからプラットフォームを開発し、メーカーに供給しなければならない。そして自動運転車時代が幕を開ける頃には、真の影響力を持つという信念が必要だ」
経営戦略面から見れば、クルザニッチ氏はうまく行っていなかった同社の買収案件を復活させた実績があり、マカフィー・インテル・セキュリティを放出前に黒字化させた実績もある。彼は今回もモービルアイのCEO ジブ・アビラム氏を直下に置きつつ、引き続き経営を任せるという教科書的なマネジメントを展開する。
モービルアイ買収は、ポストPC時代にビジネスの多様化を模索するインテルにとって最大の投資だが、唯一のものではない。ここ数年間で彼らはドローン、VR、IoTなどにも積極的に投資している。
だがパソコン、サーバ向けプロセッサ事業からの脱却を目指すクルザニッチ氏は、過去のM&A戦略の失敗を踏まえ、買収懐疑派が間違っていたことを証明していかなければならない。
(翻訳:太田禎一)